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第77話 怪しい宿の女主人による深夜の特別サービス

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 人里離れた峠にポツンとある宿に泊まることになったキモヲタ一行。

 自分の部屋で、ネットショップのリアルラブドールをカスタマイズしていたキモヲタは、突然背後から声を掛けられます。

 振り返ると、そこに立っていたのはネグリジェ姿の女主人サリサでした。

「ふぃぃいぎゃ……」

 絶叫を上げそうになったキモヲタは、自分の口を押えて必死に声を押し殺しました。

(もし、ここで大声を上げて、エルミアナたんやセリアたんに突入されるのはまずいでござる! どういう誤解をされるか分からないでござるが、絶対に我輩にとってよろしくない方向で誤解するに決まっているでござる。推定される一番マシな誤解で、我輩がこの女将を連れ込んで押し倒そうとしたというところでござろう)

 キモヲタはなるべく落ち着いた声で、女主人に声を掛けます。

「どういう了見か存じあげぬが、我輩にそういった夜のサービスは不要でござるよ。そもそも我輩ハーレムパーティを見てわからんでござるか? 毎晩毎晩とっかえひっかえあの連中とやっていて、正直、今日ようやくチン休めができると思っていたところなのでござる」

 もちろんキモヲタが、毎晩毎晩とっかえひっかえやっていたのは、ピンクのふにふにのことなのですが、それについては黙っておくことにしました。ちなみにエルミアナとセリアにはかつてぼこぼこにされたにも関わらず、キモヲタは未だに4つのピンクのぷにぷにに彼女たちの名前を付けて毎晩毎晩とっかえひっかえやっていたのでした。

 毎晩毎晩とっかえひっかえのピンクのぷにぷにを相手にしていたので、今晩はまだ賢者モードが残存していたキモヲタ。

 女主人サリサのネグリジェ姿を見ても、かつてアネーシャ村の老村長のときのような失敗を犯すことはありませんでした。

 キモヲタの完全無欠な賢者モード対応に、女主人サリサも毒気を抜かれたのか、ハァーっと溜息をついて、ベッドに腰かけるのでした。

「なるほどそういう訳だったかい。まぁ、あんな若い美人さんたち全員を毎晩相手してるってなら、まぁ、そんな気も起きないか。うちに泊まりに来る男どもは、たいてい私の色香に簡単に落ちちまうんだけどねぇ」

「何言ってんだこのク○ババア!」
 
 と叫びそうになる己の口を、キモヲタは必死に押さえつけてベッドの上でのたうち回ります。今ここで声を上げて、仲間に気付かれてしまっては、彼女たちに踏み込まれかねません。

「あ、あんた!? だ、大丈夫かい!?」

「ぜぇ……ぜぇ……だ、大丈夫でござる。と、とにかくそういう訳でござるから、我輩に夜のサービスは不要でござるよ」

「あぁ、そうかい。てっきりアンタは童貞だと思ってたから、筆おろししてやろうと思ってたのにねぇ。それにアンタたちがハーピーたちを退治しちまったから、新兵さんの筆おろしもできなくなっちまうねぇ。そう、あれは去年の今頃のこと……」

 何か語り始めた女主人に、キモヲタは露骨に嫌な顔を向けましたが、女主人はそんなこと一切気にせず、そのまま話を続けます。

 女主人の話によると、あの峡谷にハーピーが住み始めたのは一昨年前のこと。

 噂では、セイジュー皇帝が人類軍の補給路を断つために、ハーピーを放ったと言われていました。その噂が真実味を帯びていたのは、峡谷のハーピーは一般のハーピーと違って、力が強く狂暴で、しかも醜い顔をしていたからです。

 恐らく妖異との交配によって生み出された新種のハーピーではないかと、女主人は考えていました。

「あのハーピーが出る様になってから、カザン王国から討伐隊が何度も派遣されるようになってね。まぁ、人里離れたこの宿で、討伐隊の兵士たちが泊まってくれていたんだよ」

「なるほど、我輩たちがハーピーを倒してしまったから、討伐隊が派遣されなくなる。そうするとこの宿の客が減ってしまう。女将には迷惑だったというわけでござるか」

 ネグリジェの女主人は首を左右に振りました。

「ここの経営は、王国から金が出てるから全然問題ないよ。問題なのは新兵が来なくなったことさ」

「し、新兵?」
 
「討伐隊には毎回、何人か新兵がいるんだよ。そういった若い連中の筆おろしをするのが私の楽しみだったのさ」
 
 キモヲタは思わず女主人に【お尻かゆくな~る】を最大出力で放ちかけましたが、騒ぎを起こしてキーラたちに気付かれるのはまずいと思い、必死に我慢しました。

「アンタ、今、こんなババアを若い連中が相手にするわけがないとか思ったね? だけどそうでもないんだなぁ、これが」

 キモヲタは一瞬で沸騰した殺意を何とか押さえて、とりあえず女主人の話を聞くことにしました。この女主人の言うことが少し気になったからです。

「討伐隊の連中は、王都からここまでず~っと女日照りで旅を続けてくるんだよ。苦しい行軍の果てに辿り着いた宿に女がひとり。私みたいに年を喰ってようが、ギラギラした連中の目には、聖女様のように見えるのさ」

「山女理論!」

 山女理論とは、山では女性の美しさにバフが超掛かるという現象を、柴山大学の遠山金治教授が説明したものです。かつては女人禁制が多かった山々。そんな山に入った男たちが、自然と女断ちの日々を過ごして山を下りた時、最初に見た女性がとてつもない天女に見えてしまうという現象を、遠山教授が数理モデルに落とし込みました。

「なるほど! その方法なら、どんな年増でも若者の目を欺くことはできますな!」

 失礼な物言いをされた女主人は、思わず額の血管が切れそうになりました。しかし、自分を見るキモヲタの目に尊崇の想いが宿っているのを見ると、彼女は引き攣った苦笑いを返すしかなかったのでした。
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