キモヲタ男爵奮戦記 ～ 天使にもらったチートなスキルで成り上がる……はずだったでござるよトホホ ～

第49話 男を狂わす魅惑の女、アイシャの誘惑……

　ショゴタンが消滅したことで、ひとまず落ち着きを取り戻した村。

　魔族軍の兵はショゴタンを恐れてすべて逃げ去っており、建物や周囲の森に隠れていた人たちが、次第に姿を現していきます。

　村の中では魔族兵やショゴタンに襲われて倒れている者も多くありました。

　まだ命を取り留めている者に、キモヲタが【足ツボ治癒】を施していきます。

「んほぉおおお❤　あばばばばばば❤」

　木こりのザイラス（４５歳）が妻子の目の前で、アヘ顔ダブルピースをしながら全身をガクガク震わせていました。

「とうちゃん、頑張って！」

　後年、このときの話を蒸し返される度、屈辱に顔を真っ赤に染めてブチ切れるようになったザイラス。ですが今は、魔族軍やショゴタンの襲撃によって村中が大変な状態になっている今は、子供の前でのアヘ顔ダブルピースなど小事に過ぎませんでした。

「あなた！　死なないで！　女神ラーナリアさまお願いです！　夫を助けて！」

　後年、このときの夫を思い出す度に大爆笑するようになる妻も、今は内臓が飛び出ていたザイラスが、キモヲタの【足ツボ治癒】によって元通りになっていく様子を見て、ひたすら神様に祈るのでした。

「次はどなたでござるか！」

　村の惨状を見て治癒賢者モードにスイッチしたキモヲタは、ザイラスの治療を終えると近くにいる村人に声を掛けて、次の重傷者を教えてもらいました。

　最初はキモヲタが乱暴狼藉を働いていると勘違いして、怒りに震えていた村人たちも、キモヲタの治癒によって、怪我人がつぎつぎと以前より元気になっていく様子をみて、今では積極的に協力してくれるようになってきました。

「オークの兄ちゃん、次の怪我人で最後だ！」

　そう言って連れてこられたのは、村で一番大きな建物の中。

　血で真っ赤に染まったベッドの周りには、怪我人の家族らしき人々が泣き崩れていました。

「まだ息はあるでござるか！？」

　キモヲタは急いでベッドの足元側に立つと尋ねました。

「あぁ……でももう時間の問題だ……」

　怪我人の枕元で泣いていた男が、しゃがれ声で答えました。

「息があるなら大丈夫でござる！」

　バッ！

　キモヲタは怪我人の足元のシーツを引っぺがすと、ギュッとその足を掴みます。

　グリグリッ！

　グリグリッ！

　緑色の優しい光が怪我人の全身を覆ったかと思うと、身体の傷が立ち処に塞がっていきました。

　その様子を驚いて見ていた怪我人の孫のキリアーク。祖母の命が助かることを確信して、ホッと胸を撫でおろしました。そして、同時に――

「んぼぁあああああ❤　痛きもぢいぃぃぃのぉおお❤　らめらめらめぇええ❤　天国にいっちゃうぅぅ❤」

　村の村長であり、誰からも尊敬されている祖母のアイシャ（６５歳）がベッドの上でアヘ顔ダブルピースをして快感に打ち震えている様子を見て、

「くっ……」

　と強く目を閉じるのでした。

　ベッドの周りにいた子供や孫たち全員が、

「くっ……」

　キリアークと同じように眉間にシワを寄せて、目を閉じているのでした。



～ 感謝の宴 ～

「キモヲタ殿とおっしゃられましたかの。貴方があの怪物を退治してくださったと聞いております、村を代表して心よりの感謝を申し上げますじゃ」

　村長のアイシャが、キモヲタの手を強く握りながら感謝の言葉を述べました。

「キモヲタ殿の治療のおかげで、何だか以前よりもずっと元気になりましたぞい。腰痛もリウマチの痛みもなくなって、目も耳もよう聞こえる。なんだか２０も３０も若返ったようですじゃ」

　そんな祖母の姿を見て、孫たちが喜びの声をあげました。

「確かに！　婆ちゃんの腰が伸びてるし、髪や肌にツヤや張りが出てる！　オークのお兄ちゃん、ありがとう！！」　
「お婆ちゃん、綺麗だよ！」
「お口くさくない！」
　
　はしゃぐ子供たちの声を聞いて、ますます元気を取り戻した祖母アイシャ（６５歳）が、熱い視線をキモヲタに向けて言いました。

「しゃーしゃっしゃ。本当に若返った実感がありますわい。なんだったら、もう一人か二人くらいは産めそうな気がしますじゃ。のぅ、キ・モ・ヲ・タ殿❤」

　そう言ってキモヲタにウィンクをする村長アイシャ。村の長老連中の間では、今なお現役のアイドル（６５歳）としてチヤホヤされていることもあって、思い切り調子に乗っていたのでした。

「おい、ババア！　今すぐあの世に送ってござろうか！？」

　突っ掛かろうとするキモヲタを、キーラが後ろから腹に手を回して制止します。

「ちょっと待ってキモヲタ！　冗談に決まってるでしょ！　ちょっと小粋な高齢者ジョークじゃない！」

「いや、あの目の光は本気だったでござる！　このババア、絶対同年代のジジイどもにちやほやされて、いまだに自分のことをモテ女とか勘違いしてござるよ！」

「モテてるもん！」
　
　キモヲタの言葉に、アイシャが口をとがらせて言い返しました。

「もんじゃねー！　ほらキーラ殿！　これでござるよ！　こういう輩にはハッキリと言ってわからせてやらんと、一生勘違いしたまま人生を終えるに決まってるでござる！　いいかババア、よく聞くでござるよ◇＃○×※……フゴフゴ」

　何か不穏な言葉が吐き出てくると察したキーラが、キモヲタの口を手で塞いでしまいました。そのため、真っ赤になって怒鳴っているキモヲタが何を言っていたのか、幸いにして誰も聞き取ることはできませんでした。

　キモヲタがここまで怒り狂ったのには理由がありました。

　それはアイシャ（６５歳）がキモヲタにウィンクを投げてきたとき――

　キモヲタの治癒で、年齢よりずっと若く見えるようになったアイシャの、まだなんとか張りが残っている胸元を見て、

　「これは揉めるかも」

　と一瞬思ってしまったのでした。

　その瞬間！
　
　アイシャ（６５歳）の目にキラリと光が走るのを見たキモヲタは、自分の内心が見透かされてしまったことに気が付いてしまったのです。

「しゃーっ、しゃーしゃっしゃ。この年でなお男を惑わせてしまうとは、ワシも罪な女よのぉ」

　アイシャとキモヲタのやり取りを見ていたユリアスが、顔を赤らめながらキモヲタに言いました。

「そ、その……キモヲタ様は、女性に対する懐ストライクゾーンがとてもお広いのですね。凄く嬉しいです」

　ユリウスの何か意味不明な理解が、キモヲタの恥辱をより一層強いものにしてしまいました。

「くそぉおおお！　ババア！　いますぐ殺す！　天国に送ってやるでござるぅぅう！」

　キモヲタの悲痛な絶叫が、村中に響き渡るのでした。