上 下
38 / 130

第38話 ふぉおお! キーラタソの生シャンティ!

しおりを挟む
 エルミアナがキモヲタに謝罪したことで、それまで緊迫していた空気が一機に和らぎました。

 ユリアスが女主人に騒がせてしまったことを詫び、いま食事をしている客たちの食事代を支払うと告げました。それを耳にした幾人の客からちょっとした喜びの声が起こって、再び食堂にいつもの喧騒が戻ってきました。
 
 その日は宿に一泊し、翌日ユリアスたちは賢者の石の探索に出発するのでした。

 「今度来るときは、もうあんな騒ぎは勘弁だよ!」

 一行を見送る女主人に、ユリアスは笑顔で手を振ります。

 そのときユリアスたちは、女主人たちの他にも、彼らをじっと見送っている人物に気づくことはありませんでした。

 その男は普通の旅人のような服装をしており、他の客たちと同じように食事をしていました。しかしその目線には、一般人と異なる鋭い眼光が宿していたのです。



~ ユリアス~

 ルートリア連邦に向う道を歩くユリアスとキモヲタたち。

 ユリアスはキモヲタとエルミアナの様子を見ながら、昨日のことを考えていました。

 あの騒動の後、もしエルミアナとキモヲタの関係の修復ができなかったら、この探索を中断して、再びメンバーの選出から出直すハメになっていたかもしれないからです。

 そのためユリアスは、激昂するエルミアナを説得して、キモヲタに対する憎悪を取り除くきっかけを作ってくれたキーラに、心の底から感謝していました。

 それまでユリアスはキーラに対して、奴隷紋によってキモヲタに服従させられている奴隷少女としか見ていませんでした。もしかすると、キモヲタが性的欲望を満足させるために連れ歩いているのではないかと、苦々しく思っていたのです。

 性的な目的で奴隷を購入するのは、アシハブア王国や人類軍参加国の男性にとっては当たり前のこと。しかし、自分が好意を寄せているキモヲタが、そんな男たちと同じであるなどと、ユリアスはどうしても認めたくなかったのでした。

 そのため昨日の騒動の結果、キモヲタとキーラの関係性が決して主人と性奴隷というものではないことを感じたユリアスは、キーラに対する好感度を大きく引き上げていました。

「キーラ殿は、キモヲタ様のことを本当の家族のように思っておられるのだな」

 歩きがてら、ユリアスはそうキーラに話しかけました。

「えっ!? キモイからそんなこと言わないでよ! こんなオークみたいな家族なんてお断りだよ! ねっ、キモヲタ!」

 そう言いつつ、キモヲタの方を見るキーラの顔は明るい笑顔で、その尻尾がくるくると回転しています。

「アハッ……アハハハハ……ハァ……」

 一方、キーラの言葉を字面の通り受け取ってガックリと肩を落とすキモヲタ。

「もうっ! そんなに落ち込まないでよ! 冗談に決まってるでしょ!」

 キーラはキモヲタの手を取ると、トボトボと歩くキモヲタを前へ前へと引っ張ります。

 そんな二人の様子を見て、ユリアスはほんのりと微笑みを浮かべるのでした。



~ セリア ~

 キーラがキモヲタの手を引いて歩くのを見ながら、セリアはキモヲタに対する自分の評価が違っていたかもしれないと考えていました。

(このキモヲタとかいう男。ただの変態かと思っていましたが、どうやらそうでもなかったようですね。犬耳族は、己が主人と認めた者に対して高い忠誠心を持つのは確かです。しかし、主人と認めない場合は、たとえ奴隷紋で縛ろうとも、ここまで気を許した笑顔を見せることはないはず)

 セリアは青く燃える瞳をキーラに向けました。

(昨日のエルミアナに向って行った彼女の振る舞いから考えて、この娘がキモヲタを大事に思っていることは間違いありません。エルミアナがレイピアを手放していたとはいえ、怒れるエルフが恐ろしく油断ならない相手だということは、この娘にも分かっていたことでしょう。爪を伸ばして警戒していたのですから)

 セリアがキーラに目をやると、キーラは落ち込んでいるキモヲタを励まそうとしていました。

「ねぇキモヲタ、さっきのは本当に冗談だって! ボクはキモヲタのことが好きだよ! キモヲタはボクのこと好きじゃないの?」

 それまでトボトボと歩いていたキモヲタが、いきなり元気を取り戻して、奇妙なダンスを踊り始めました。

「天地神命にかけてそんなことはござらん! 我輩、キーラタンシュキシュキ大シュキジェントルマンでござるよ! L・O・V・E・キーラタソ! ハイッ! ハイッ! ハイハイハイハイッ!」

「アハハ! やっぱりキモヲタってキモーイ!」

 とキーラに言われて、再びガックシと肩を落としトボトボと歩き始めるキモヲタでした。

(キモヲタに対する評価を改めないといけないかもしれないわね)

 キーラの無邪気な笑顔を見たセリアは、キモヲタという人間を、犬耳族の少女がここまで気を許す人物なのだと理解することにしました。

「ほらっ! キモヲタ! 元気出して歩く! 頑張ったらご褒美あげるかも!」

 キーラがキモヲタの少し前を歩きながら、スカートの裾をちょっと持ち上げます。

「ふぉおおお! キーラタソの絶対領域キター!」 

「今日は短パン履いてないから、この下はシャンティだよー! ほら頑張って歩いたら見せちゃおうかなー!」
 
「ふぉおおお! 本当でござるか! 本当でござるな! 本当に白いパンチラご褒美でござるな! ふぉぉおおキーラタソの生シャンティ! ふぉおお!」

 突然鼻息を荒らげて、キーラの後ろを必死に追い駆けるキモヲタを見たセリアは、改めて考えるのでした。

(この男、ただの変態かと思っていましたが……)

(どうやら真正の変態だったようです)

 セリアからの評価が一段階下がったキモヲタでした。

「ふぉおおお! キーラタンの生シャンティぃいぃい!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

スーパー忍者・タカシの大冒険

Selfish
ファンタジー
時は現代。ある日、タカシはいつものように学校から帰る途中、目に見えない奇妙な光に包まれた。そして、彼の手の中に一通の封筒が現れる。それは、赤い文字で「スーパー忍者・タカシ様へ」と書かれたものだった。タカシはその手紙を開けると、そこに書かれた内容はこうだった。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

クラスまるごと異世界転移

八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。 ソレは突然訪れた。 『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』 そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。 …そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。 どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。 …大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても… そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

入れ替わりリング

廣瀬純一
ファンタジー
体か入れ替わるリングの話

処理中です...