キモヲタ男爵奮戦記 ~ 天使にもらったチートなスキルで成り上がる……はずだったでござるよトホホ ~

帝国妖異対策局

文字の大きさ
上 下
29 / 159

第29話 魔物解体場の地下室

しおりを挟む
「では、これから我輩の職場に向かうでござるよ。デュフコポー」

 新しく作成した冒険者カードをキーラに手渡しながら、キモヲタが言いました。

「職場?」

「我輩、ここのギルドと専属治癒師の契約を結んでいるのでござる。クエストから戻ってきた負傷者を治しているというわけですな」

(ふーん、あそこでキモヲタは働いてるんだ。とりあえず安定した収入源はあるってことだね。よかった)
 
 どうやら空腹に苦しむことはなさそうだと安心したキーラ。受付カウンターの右奥の扉に掲げられている「診療所」の木札に向って歩きはじめました。 

 ところが、キモヲタはギルドの裏口へと向います。

「えっ!? キモヲタ、どこ行くの? 診療所はアッチだよ?」

 慌てて追いかけるキーラにキモヲタは言いました。

「こっちでござるよ」

 キーラがキモヲタの後を追います。

 そのままキモヲタと一緒に裏口を抜けると、やたらと広い敷地に出ました。敷地の一角では、新人冒険者パーティに対する剣技や魔法の指導が行われています。また他の一角では、昇格希望者に対する実技審査も行われていました。

 色々と騒がしい間を通り抜けて、キモヲタは敷地の外れにある大きな平屋の建物のなかに入っていきます。

 その建物に掲げられている看板の文字は、キーラにも読むことができました。

「魔物解体場……?」

 二人が建物の中に入ると、そこでは沢山の人が魔物の解体作業にいそしんでいました。その中心では、禿げ頭のおっさんが大声を上げてあちこちに指示を飛ばしています。

 カンッ! カンッ! ガンッ! 

「おいっ! その頭をしっかり押さえてろ! そいつ牙はかてぇんだ」
「はい親方!」

 カンッ! カンッ! ガンッ! 

 そうした喧騒の中、キモヲタは身体を小さくしてオドオドしながら、

「ど、どうも」

 と誰に言ってるのかわからない挨拶をして、建物のなかを進んで行きます。

 その小さな声が耳に入ったのか、単にキモヲタが目に入っただけなのか分かりませんが、二人に気がついた親方がキモヲタに向って手を振ります。

「おー、キモヲタ! 今日も怪我の治療か? がんばれよ!」

「ど、どうも~でござる」
 
 キモヲタは親方にヘコヘコ頭を下げながら、解体場の奥にある地下室の入り口へと向かいます。そのままランタンが灯されている薄暗い地下に降りていくと、ひんやりとした空気がキーラの肌を撫でます。

 そこには扉がいくつもありましたが、キモヲタが足を止めたのは一番奥にある扉でした。

「ここが我輩の職場でござるよ」

 キーラが扉に掛けられた木札を見ると「治療室」と書かれていました。

「ここが治療室? 地下の貯蔵庫に? 治療室?」

 頭が混乱するキーラは、キモヲタと奴隷契約させられた自分の運命に、暗雲が立ち込めていく幻を見てしまったのでした。



~ 治療開始 ~

 地下貯蔵庫にある治療室で、キモヲタとキーラは、何十分もの間ジッと向かい合ってただ座っていました。

「……」※キモヲタ

「……」※キーラ

「……」※キモヲタ

「……寒っ!」※キーラ

 キーラが両腕で自分を抱いて、ブルッと身体を震わせました。地下室は魔鉱石によって冷気が循環しているため、かなり寒いのです。
 
「キーラ殿、寒ければ上で待っていて良いでござるよ。ここは冷えますからな。が来たらここに案内してくれればいいでござる」

「わ、わかったよ。でもキモヲタは大丈夫なの?」

「まぁ、我輩も普段は上で待つことが多いでござるが、とりあえず我輩にはこれがありますからな」

 そう言ってキモヲタは、自分の右足を持ち上げると、その足裏を軽く揉みました。

「あふん❤」

 いったい誰得だれとくかわからないキモヲタの喘ぎ声と共に、その全身が緑の光に包まれます。すると先ほどまで、顔色が悪く疲れた感じだったキモヲタが、一瞬で元気になりました。

「自分に治癒を掛けて回復するでござるよ。なんでしたら、キーラ殿も回復するでござるか?」

「ボ、ボクはいいや! それじゃ上に行ってくる! 客を案内すればいいんだよね!」

 そう言うやいなや、キーラは慌てて地下室を後にするのでした。

 地上に戻ったキーラは、しばらく周囲をブラブラしながら時間を潰していましたが、すぐに退屈して、仕方なく魔物が解体されていく作業をジーッと眺めていました。

 そんなキーラを見て親方が声を掛けます。

「嬢ちゃん、そんなに暇なら解体を手伝ってみるか? 報酬に肉を分けてやるぞ」

「えっ!? いいの!? あっ、でもキモヲタの客がいつ来るかわからないし……」

「大丈夫だ。ここに来る患者は、必ず俺に声を掛けるからな。そしたら案内してやればいい」

「じゃ、じゃぁ手伝うよ!」
 
 こうしてキーラは、親方の手伝いをするようになったのでした。

 この魔物解体場での経験が、後々、取り立てて強力なスキルやステータスを持たないキーラを、「解体屋」と呼ばれる強者へと導くことになるとは、そのときのキーラはまだ知る由もありませんでした。

 キーラが解体場を手伝っている間、キモヲタといえば……

「寒っ!」

 地下室で寒さにひたすら耐えているのでした。

 そして――

「あはん❤」

 地下室の扉からは、定期的にいったい誰得なキモヲタの喘ぎ声が漏れ出てくるのでした。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは―― ※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。 1~4巻発売中です。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

処理中です...