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第22話 奴隷市場でまた再会!?

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 奴隷市場の亜人区画で、自分のヒロイン探しを続けるキモヲタ。

 案内をしていた衛士が、突然足を止め、キモヲタに顔を向けます。

「こっから先は、奴隷になることを了承していない捕虜たちだ。もし気に入ったのがいたとしても、交渉するか、あるいは奴隷紋が必須になるぜ。見てみるかい?」

 衛士はやや脅すように声を低くして言いました。キモヲタとしては、今まで見て来た檻の中では、猫娘くらいしかピンとくる奴隷はいませんでした。

 さすがに今の財力と生活基盤では、エッチ目的だけの奴隷を買うのは無理があると考えたキモヲタは、とりあえず全部の檻を見てまわることにしました。

「お願いするでござる」
 
「それじゃ、こっちだ」

 衛士の後ろを付いていくと、同じ亜人区画であるにも関わらず、先程までとは違った重々しい空気が辺りを包んでいるのをキモヲタは感じました。

 実際に囚人たちの会話もなく、重い沈黙が辺りを覆っています。

「ひっ!?」

 顔に大きな刀傷が走った狼族の亜人に睨まれて、キモヲタは思わず悲鳴を挙げてしまいました。

 他の檻も、似たり寄ったりで、どの亜人もキモヲタや衛士に対して、殺意の籠った視線を黙って向けてきます。

(こ、これはアカン! アカン奴らでござる)

 彼女たちの表情には、キモヲタの「奴隷をヒロインにしてウハウハ夜のご奉仕生活」と言ったしょうもない夢を、鋼鉄のハンマーで打ち砕くかのような敵意に溢れていたのです。

「え、衛士殿……ここは無理、無理でござる、ほ、他を当たるでござるよ」

「そうか……まぁ、その判断は正しいと思う」

 衛士が頷いて、キモヲタを別の区画へと案内しようとしたその時――

「フーッ!! ドフトゥ!」

 最後の檻の奥から叫び声がしたかと思うと、檻の中の亜人がキモヲタに向って突進してきました。しかし、亜人の少女は両手を鎖で繋がれていたので、檻の入り口の手前までしか動くことはできませんでした。

 ガシャンッ!

 伸びきった檻の中の鎖に両腕を引っ張られてもなお、亜人少女は必死に身体を前に出そうと暴れ続けます。

「フーッ!! ドフトゥ!」

 ガシャンッ!  ガシャンッ!  ガシャンッ!

 全身を使って暴れる亜人少女によって、檻それ自体が大きく揺れ動いていました。

「うひぃぃいいいい!」

 衛士は驚いて腰を抜かすキモヲタの前に出て、檻の中の少女を棒で突き飛ばしました。

 一度地面に倒れた少女はすぐに立ち上がりましたが、衛士に棒で牽制され、キモヲタに飛び掛かろうとすることができません。

 衛士がしっかりと少女を牽制しているのを見たキモヲタは、ホッと胸を撫で下ろしました。

「フーッ!! ドフトゥ!」

「フィッ! ナッ! ドフトゥ! ガゥア!」

 キモヲタが亜人少女に対して魔族語で応えているのを見て、衛士は驚いてキモヲタの方を向きました。

「あんた魔族語が話せるのか?」

「少しだけなら……ここにいる時に教えてもらったのでござる」

 キモヲタの返答から色々と察した衛士は、それ以上の質問をせず、キモヲタが立ち上がるのに手を貸しました。

 その様子を呆然として見ていた亜人少女。

 彼女も、キモヲタが魔族語を話したことに驚いているのでした。

「この捕虜は?」
 
 キモヲタが衛士に質問します。

「あぁ、は、まぁ、その……可哀そうな子なんだよ」

 衛士から返ってきたのは、キモヲタが予想していたのと違った反応でした。どうやら衛士は、この亜人少女に対して同情的な感情を抱いているようだったのです。

 衛士によると、この亜人少女は故郷の村を妖異に襲撃され、たった一人生き残ったのだと言うことでした。

 妖異というのは、この世界とは異質な魔物のことで、神聖帝国の皇帝が好んで使役するやっかいな存在でした。
 
「この子自体もヒトデピエロに襲われて、全身に酷い傷を負って大森林を彷徨ってたらしい。傷と飢えで、川辺に倒れ込んでいたところをようでな。で、ヒトデピエロってのは……」

 ヒトデピエロというのは大きなヒトデのような妖異で、身体が道化師のようなケバケバしい色をしていることから、その名がつけられたようです。
 
 衛士の説明をぼんやりと聞いていたキモヲタは、額からヒヤリと汗が流れるのを感じておりました。

 と聞いたときに、亜人少女の顔に何か記憶が刺激されたからです。

 ジーッと亜人少女を見つめているうちに、その記憶がハッキリと戻ってきました。

(この捕虜は、あの川辺で我輩を食べようとしたケモミミ少女ではござらんか!?)

 と、そこでキモヲタは首を捻りました。なぜなら――

「衛士殿。ここは亜人区画なのに、どうしてこの娘がるのでござる?」
 
 キモヲタがそんな質問をしたのは、この亜人少女にはケモミミも尻尾もなく、普通の人間のような姿をしていたからです。

(顔は似ているけれど、自分が襲われたのはケモミミ尻尾の亜人少女だったのは間違いないでござる。おそらく人違いでござろう)

 首を捻るキモヲタを見て、衛士が答えました。

「あぁ、ここは少し暗いからな。ちょっと待ってろランタンを持ってくる」

 そう言って衛士が近くにある壁に掛かったランタンを取りはずし、亜人少女を棒で牽制しながらランタンを近づけました。

「これは!? 酷い! あんまりでござる!!」

 ランタンに照らされた少女の頭にはケモミミがありませんでした。ただそこには、血で汚れた二つの酷い傷痕がありました。

 呆然となったキモヲタが衛士に目を向けると、衛士は静かに頷いて答えました。

「尻尾もだ」

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