上 下
13 / 123

第13話 もはやデレなど不要! ザマァタイムでござる!

しおりを挟む
 キモヲタの檻の前に立つエルミアナの傍らには、冒険者パーティ「明けの明星」のメンバーたちが立っていました。

「待って、エルミアナ! 落ち着いて! このオークを殺しちゃ駄目だよ!」

「そうですエルミアナ様! まずは話を聞いてみようと決めたではありませんか!」

 キモヲタの檻の中にレイピアを突き立てているエルミアナを、魔法使いのアリアと僧侶のリリアが羽交い絞めにして引き離します。

 エルミアナは何度か深呼吸を繰り返したあと、ようやくレイピアを引き抜いて腰の鞘へ収めました。しかし、その額には十字の血管が浮かんでいて、ピクピクと震えています。

「そ、そうだったな……ま、まずは話を聞こうか……」

「そうだよ! まずは話を聞こう! もし間違った相手を殺しちゃったら寝覚めが悪いでしょ?」

 魔法使いのアリアがエルミアナの肩を掴んだまま、彼女を宥めるように言い聞かせます。しかしその言い草は、キモヲタを不安にさせるものでしかありませんでした。

「エルミアナ様、ここはわたくしがお話を伺うことにします。よろしいですね?」

 自分の目をまっすぐに見つめる僧侶のリリアの言葉を受けて、エルミアナは静かにうなずき返しました。

「わかった。リリアに任せるわ。私が話すと、また怒りの精霊に取り憑かれてしまうかもしれないから」

 そう言ってレイピアの柄に手を掛けるエルミアナでした。そして彼女の言葉を聞いたキモヲタは内心でムッとしていました。

(そもそも自分は、このエルフ女の命を救っただけでござる。助けた相手から感謝されこそすれ、どうしてコヤツはレイピアで我輩を刺殺しようとするのでござろうか)

 24時間前のキモヲタであれば、エルミアナほどの美人なら、例え殺意を向けられたとしてもヤンデレカテゴリに分類して、夜のオカズにしていたかもしれません。

 しかし、昨晩はたっぷりと脳内AVを堪能し終えていたキモヲタ。まだ賢者モードが残っていたために、エルミアナの言動を冷めた目で見ることができたのでした。

「えっと、白いオークさん。貴方はオークに襲われていたエルミアナを助けてくれたんだよね?」

 僧侶のリリアは、青い髪と青い瞳を持ったやや丸顔系の巨乳美少女でした。いつものキモヲタなら、彼女に声を掛けられただけでキョドっていたことでしょう。それも優しい笑顔つきとなれば、惚れてしまっていたかもしれません。

 しかし、賢者モードのキモヲタは一味違いしました。

「まず我輩はオークではござらん! 確かにデブではござるが、これでもキモヲタというまっとうな人間ござる!」

 それからキモヲタは、エルミアナを指しながら言いました。

「そこのエルフが、オーク共に襲われたところを我輩が助けたのでござる! 全てのオーク共の頭に棍棒をくれてやって、死にかけていたその女を治療したのでござるよ! その報いが、その剣で我輩を刺し殺すことというなら、エルフというのは存外凶悪な生き物なのでござるよな!」

 キモヲタがオークを棍棒で殴り倒したという話を聞いて、エルミアナと他の冒険者たちの顔にハッとした表情がうかびました。

 彼らが今ここに立っているのは、その事実が切っ掛けだったのです。オークたちの頭が潰れていることを疑問に思った彼らは、エルミアナに覆いかぶさっていた白いオークが、オークたちを救ったのではないかと推測していました。

 そしてエルミアナ自身も、キモヲタが自分を治療したことをほぼ思い出しつつありました。

 たとえオークであろうとも、自分の命を救ってくれた相手に礼のひとつも言わないのでは、高潔なエルフの名に恥じるとエルミアナは考えていました。

 また明けの明星のメンバーたちも、もしかすると自分の仲間を救ってくれた相手の尻に、矢を刺して追い払ったままではどうにも落ち着かなかったのです。

 そして、白いオークの行方を調べているうちに、それらしき生き物が魔族収容所にいると聞きつけて、彼らはここへやってきたのでした。

 なかでも僧侶のリリアは、キモヲタがエルミアナの命の恩人であることについて間違いないと確信していました。

「オークの頭に棍棒……やはりこのオー……キモヲタさんがエルミアナ様の命の恩人で間違いないわ」

 リリアナの言葉に冒険者メンバーたちが頷きます。その様子を見てエルミアナの視線があちこちに動き出しました。

「ほら、エルミアナ……」

 魔法使いのアリアに促されると、エルミアナは顔を伏せ、両手を前にして指を動かしながら、小さな声で言いました。

「オー……キモヲタ殿、貴方は私の命を救ってくださった恩人だったのだな。あの……その……そのような大恩人に大変失礼をしてしまって……その……」

 命の大恩人に対してやらかしてしまった失礼の数々に押し潰されそうになりながらも、お礼と詫びを述べようとしているエルミアナ。

 ここであっさりと許して水に流していれば、キモヲタ自身が望んでいたデレ展開がはじまっていたかもしれません。

 しかし賢者モード継続中のキモヲタは、それほどデレ展開に関心が移っていなかったのでしょう。それどころか、ここぞザマァをするチャンスとばかりに、キモヲタはエルミアナを責め立てるのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

処理中です...