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第13話 もはやデレなど不要! ザマァタイムでござる!
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キモヲタの檻の前に立つエルミアナの傍らには、冒険者パーティ「明けの明星」のメンバーたちが立っていました。
「待って、エルミアナ! 落ち着いて! このオークを殺しちゃ駄目だよ!」
「そうですエルミアナ様! まずは話を聞いてみようと決めたではありませんか!」
キモヲタの檻の中にレイピアを突き立てているエルミアナを、魔法使いのアリアと僧侶のリリアが羽交い絞めにして引き離します。
エルミアナは何度か深呼吸を繰り返したあと、ようやくレイピアを引き抜いて腰の鞘へ収めました。しかし、その額には十字の血管が浮かんでいて、ピクピクと震えています。
「そ、そうだったな……ま、まずは話を聞こうか……」
「そうだよ! まずは話を聞こう! もし間違った相手を殺しちゃったら寝覚めが悪いでしょ?」
魔法使いのアリアがエルミアナの肩を掴んだまま、彼女を宥めるように言い聞かせます。しかしその言い草は、キモヲタを不安にさせるものでしかありませんでした。
「エルミアナ様、ここはわたくしがお話を伺うことにします。よろしいですね?」
自分の目をまっすぐに見つめる僧侶のリリアの言葉を受けて、エルミアナは静かにうなずき返しました。
「わかった。リリアに任せるわ。私が話すと、また怒りの精霊に取り憑かれてしまうかもしれないから」
そう言ってレイピアの柄に手を掛けるエルミアナでした。そして彼女の言葉を聞いたキモヲタは内心でムッとしていました。
(そもそも自分は、このエルフ女の命を救っただけでござる。助けた相手から感謝されこそすれ、どうしてコヤツはレイピアで我輩を刺殺しようとするのでござろうか)
24時間前のキモヲタであれば、エルミアナほどの美人なら、例え殺意を向けられたとしてもヤンデレカテゴリに分類して、夜のオカズにしていたかもしれません。
しかし、昨晩はたっぷりと脳内AVを堪能し終えていたキモヲタ。まだ賢者モードが残っていたために、エルミアナの言動を冷めた目で見ることができたのでした。
「えっと、白いオークさん。貴方はオークに襲われていたエルミアナを助けてくれたんだよね?」
僧侶のリリアは、青い髪と青い瞳を持ったやや丸顔系の巨乳美少女でした。いつものキモヲタなら、彼女に声を掛けられただけでキョドっていたことでしょう。それも優しい笑顔つきとなれば、惚れてしまっていたかもしれません。
しかし、賢者モードのキモヲタは一味違いしました。
「まず我輩はオークではござらん! 確かにデブではござるが、これでもキモヲタというまっとうな人間ござる!」
それからキモヲタは、エルミアナを指しながら言いました。
「そこのエルフが、オーク共に襲われたところを我輩が助けたのでござる! 全てのオーク共の頭に棍棒をくれてやって、死にかけていたその女を治療したのでござるよ! その報いが、その剣で我輩を刺し殺すことというなら、エルフというのは存外凶悪な生き物なのでござるよな!」
キモヲタがオークを棍棒で殴り倒したという話を聞いて、エルミアナと他の冒険者たちの顔にハッとした表情がうかびました。
彼らが今ここに立っているのは、その事実が切っ掛けだったのです。オークたちの頭が潰れていることを疑問に思った彼らは、エルミアナに覆いかぶさっていた白いオークが、オークたちを救ったのではないかと推測していました。
そしてエルミアナ自身も、キモヲタが自分を治療したことをほぼ思い出しつつありました。
たとえオークであろうとも、自分の命を救ってくれた相手に礼のひとつも言わないのでは、高潔なエルフの名に恥じるとエルミアナは考えていました。
また明けの明星のメンバーたちも、もしかすると自分の仲間を救ってくれた相手の尻に、矢を刺して追い払ったままではどうにも落ち着かなかったのです。
そして、白いオークの行方を調べているうちに、それらしき生き物が魔族収容所にいると聞きつけて、彼らはここへやってきたのでした。
なかでも僧侶のリリアは、キモヲタがエルミアナの命の恩人であることについて間違いないと確信していました。
「オークの頭に棍棒……やはりこのオー……キモヲタさんがエルミアナ様の命の恩人で間違いないわ」
リリアナの言葉に冒険者メンバーたちが頷きます。その様子を見てエルミアナの視線があちこちに動き出しました。
「ほら、エルミアナ……」
魔法使いのアリアに促されると、エルミアナは顔を伏せ、両手を前にして指を動かしながら、小さな声で言いました。
「オー……キモヲタ殿、貴方は私の命を救ってくださった恩人だったのだな。あの……その……そのような大恩人に大変失礼をしてしまって……その……」
命の大恩人に対してやらかしてしまった失礼の数々に押し潰されそうになりながらも、お礼と詫びを述べようとしているエルミアナ。
ここであっさりと許して水に流していれば、キモヲタ自身が望んでいたデレ展開がはじまっていたかもしれません。
しかし賢者モード継続中のキモヲタは、それほどデレ展開に関心が移っていなかったのでしょう。それどころか、ここぞザマァをするチャンスとばかりに、キモヲタはエルミアナを責め立てるのでした。
「待って、エルミアナ! 落ち着いて! このオークを殺しちゃ駄目だよ!」
「そうですエルミアナ様! まずは話を聞いてみようと決めたではありませんか!」
キモヲタの檻の中にレイピアを突き立てているエルミアナを、魔法使いのアリアと僧侶のリリアが羽交い絞めにして引き離します。
エルミアナは何度か深呼吸を繰り返したあと、ようやくレイピアを引き抜いて腰の鞘へ収めました。しかし、その額には十字の血管が浮かんでいて、ピクピクと震えています。
「そ、そうだったな……ま、まずは話を聞こうか……」
「そうだよ! まずは話を聞こう! もし間違った相手を殺しちゃったら寝覚めが悪いでしょ?」
魔法使いのアリアがエルミアナの肩を掴んだまま、彼女を宥めるように言い聞かせます。しかしその言い草は、キモヲタを不安にさせるものでしかありませんでした。
「エルミアナ様、ここはわたくしがお話を伺うことにします。よろしいですね?」
自分の目をまっすぐに見つめる僧侶のリリアの言葉を受けて、エルミアナは静かにうなずき返しました。
「わかった。リリアに任せるわ。私が話すと、また怒りの精霊に取り憑かれてしまうかもしれないから」
そう言ってレイピアの柄に手を掛けるエルミアナでした。そして彼女の言葉を聞いたキモヲタは内心でムッとしていました。
(そもそも自分は、このエルフ女の命を救っただけでござる。助けた相手から感謝されこそすれ、どうしてコヤツはレイピアで我輩を刺殺しようとするのでござろうか)
24時間前のキモヲタであれば、エルミアナほどの美人なら、例え殺意を向けられたとしてもヤンデレカテゴリに分類して、夜のオカズにしていたかもしれません。
しかし、昨晩はたっぷりと脳内AVを堪能し終えていたキモヲタ。まだ賢者モードが残っていたために、エルミアナの言動を冷めた目で見ることができたのでした。
「えっと、白いオークさん。貴方はオークに襲われていたエルミアナを助けてくれたんだよね?」
僧侶のリリアは、青い髪と青い瞳を持ったやや丸顔系の巨乳美少女でした。いつものキモヲタなら、彼女に声を掛けられただけでキョドっていたことでしょう。それも優しい笑顔つきとなれば、惚れてしまっていたかもしれません。
しかし、賢者モードのキモヲタは一味違いしました。
「まず我輩はオークではござらん! 確かにデブではござるが、これでもキモヲタというまっとうな人間ござる!」
それからキモヲタは、エルミアナを指しながら言いました。
「そこのエルフが、オーク共に襲われたところを我輩が助けたのでござる! 全てのオーク共の頭に棍棒をくれてやって、死にかけていたその女を治療したのでござるよ! その報いが、その剣で我輩を刺し殺すことというなら、エルフというのは存外凶悪な生き物なのでござるよな!」
キモヲタがオークを棍棒で殴り倒したという話を聞いて、エルミアナと他の冒険者たちの顔にハッとした表情がうかびました。
彼らが今ここに立っているのは、その事実が切っ掛けだったのです。オークたちの頭が潰れていることを疑問に思った彼らは、エルミアナに覆いかぶさっていた白いオークが、オークたちを救ったのではないかと推測していました。
そしてエルミアナ自身も、キモヲタが自分を治療したことをほぼ思い出しつつありました。
たとえオークであろうとも、自分の命を救ってくれた相手に礼のひとつも言わないのでは、高潔なエルフの名に恥じるとエルミアナは考えていました。
また明けの明星のメンバーたちも、もしかすると自分の仲間を救ってくれた相手の尻に、矢を刺して追い払ったままではどうにも落ち着かなかったのです。
そして、白いオークの行方を調べているうちに、それらしき生き物が魔族収容所にいると聞きつけて、彼らはここへやってきたのでした。
なかでも僧侶のリリアは、キモヲタがエルミアナの命の恩人であることについて間違いないと確信していました。
「オークの頭に棍棒……やはりこのオー……キモヲタさんがエルミアナ様の命の恩人で間違いないわ」
リリアナの言葉に冒険者メンバーたちが頷きます。その様子を見てエルミアナの視線があちこちに動き出しました。
「ほら、エルミアナ……」
魔法使いのアリアに促されると、エルミアナは顔を伏せ、両手を前にして指を動かしながら、小さな声で言いました。
「オー……キモヲタ殿、貴方は私の命を救ってくださった恩人だったのだな。あの……その……そのような大恩人に大変失礼をしてしまって……その……」
命の大恩人に対してやらかしてしまった失礼の数々に押し潰されそうになりながらも、お礼と詫びを述べようとしているエルミアナ。
ここであっさりと許して水に流していれば、キモヲタ自身が望んでいたデレ展開がはじまっていたかもしれません。
しかし賢者モード継続中のキモヲタは、それほどデレ展開に関心が移っていなかったのでしょう。それどころか、ここぞザマァをするチャンスとばかりに、キモヲタはエルミアナを責め立てるのでした。
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