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第3話 エルミアナ・シンダリン

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 エルミアナ・シンダリンは、冒険者パーティ「明けの明星」と行動を共にするようになってから、早一年が過ぎようとしていました。

 彼女は音信不通となってしまった兄の行方を探すために旅を続けていました。その途中、アシハブア王国で知り合ったのが、彼女の今の仲間たちでした。

 パーティーは剣士であるエルミアナの他に、魔法使いのアリア、僧侶のリリア、レンジャーのミリアム、そしてリーダーであり戦士のハルトを含めた5人で構成されていました。

 彼らはエルミアナが兄を探すのを様々な形で手伝ってくれました。エルミアナもまた、彼らの冒険を手伝っているうちに、彼らとの絆を深めていったのです。

 それまでエルミアナは、冒険者パーティーとの接触は避けていました。

 なぜなら、彼女の美しさがエルフの中でも一際輝いているためです。

 かつての故郷でも、彼女は「明星の乙女」として称えられ、彼女に求婚するエルフ男性が後を絶つことはありませんでした。

 しかし、その美しさは冒険者パーティーにおいて男女間のいざこざに繋がることがほとんどだったのです。

 冒険者パーティで仲間の男性に襲われそうになったことも何度かありましたし、逆に女性に嫉妬されて襲われそうになったこともありました。

 そういう経験に辟易へきえきとしていたエルミアナは、冒険者パーティーとの接触を避けるようになっていたのでした。

 しかし、この冒険者パーティ「明けの明星」は、今まではと違うとエルミアナは感じていました。

 それは、このパーティがゴブリンたちの罠によって絶体絶命の危機に陥ったのを、エルミアナが助けたという出会いが原因かもしれません。

 今では彼ら全員がエルミアナの剣の腕前や、その高潔な人格を尊敬していました。

 彼ら全員が同郷の出身であり、戦士のハルトと僧侶のリリア、魔法使いのアリアとレンジャーのミリアムはそれぞれがカップルでもありました。

 その絆は幾多の死線と困難を乗り越えて来て紡がれた強いものであることは、色恋沙汰に疎いエルミアナでさえも理解できるものでした。

 とはいえ長く共に冒険生活を続けていると、ふとした拍子に、男性陣がエルミアナに性的なニュアンスを含んだ視線を向けてしまうこともあります。

 ところが、エルミアナがそんな視線を感じた翌日には、決まって男性陣はゲッソリとやつれた顔となり、欲望の一切が削ぎ落された聖人になっているのでした。そして女性陣の方と言えば、必ずお肌がツヤッツヤッの元気一杯になっているのでした。

 そんなわけで男性の欲望も女性の嫉妬も心配する必要のない、この冒険者パーティーをエルミアナはとても気に入っていたのです。

「エルミアナ、大丈夫!? 安心して! 逃げてったオークもハルトとミリアムが倒してくれるはず」

 そう言って魔法使いのアリアがエルミアナの上体を引き起こしました。そして自分のマントを脱いでエルミアナの身体に掛けました。

「エルミアナ様、お怪我はございませんか?」  

 僧侶のリリアがエルミアナのかたわらに座りこみ、彼女の手をとって優しくなでました。

「あぁ、なんとか……無事なようだ……」

 そう答えたエルミアナは、自分の声が思っていたよりしっかりと出たことに違和感を感じていました。

(そう言えば、自分はかなりの負傷を追っていたはずなのに、上体を起こされても痛みひとつ感じないのはなぜだろう)

(そもそも自分は舌を噛み切ったのではなかったか?)

 そんな疑問を抱えながら、エルミアナは周囲を見渡しました。

 辺りには数多くのオークの死体が転がっています。致命傷となったのは、おそらく頭部への強烈な打撃。彼女のレイピアによるものでないことは明らかでした。

「どうしてこんなことに……」

 エルミアナは自分の記憶を辿たどろうとしますが、思い出すことができたのは、白い肉の塊が突然現れたらしいということだけでした。

 物思いに耽っていたエルミアナは、自分の身体をまさぐる手の動きによって、意識を取り戻します。

「ひゃっ!? な、何をする!?」

 エルミアナの身体をまさぐっていたのは、魔法使いのアリアと僧侶のリリアでした。

「エルミアナ、あのオークに何もされていない? 大丈夫だった!? すごい悲鳴をあげてたみたいだけど」

 そう言ってアリアはエルミアナの背中をなでながら、怪我がないか調べていました。

「エルミアナ様! お怪我は、お怪我はありませんか」

 そう言いながらリリアはエルミアナのお腹や胸をなでまわして、彼女の状態を確認しています。

 先ほどから、リリアがハァハァと息を荒げているのは、それだけ心配してくれているのだと、エルミアナは自分に言い聞かせるのでした。

「うわっ、すっごいスベスベ、手が気持ちいわぁぁ!」
「プニプニです! エルミアナ様の下乳最高です!」

 二人の息遣いが荒いのは、それだけ心配してくれているのだと……エルミアナは頑張って自分に言い聞かせるのでした。

「二人とも! いい加減にしないと怒るぞ!」
 
 当然ながら、自分を言い聞かせることができなかったエルミアナでした。彼女が怒気をはらんだ声で叱ると、二人はハッとして手を止めました。

「リリア!」
「アリア!」

 エルミアナの声を聞いたアリアとリリアは目を合わせて、同時にうなずきました。

 これ以降は音声のみでお送りします。

「まさかオークに奪われてたり……」
「確認します!」

 ガッ!

「ちょっとアリア!? なぜ私を羽交い絞めに!?」

 バッ! バッ! ズルッ!

「ちょ、リリア! 何をする! 別に粗相そそうはしてないぞ!」

 バッ! 

「えっ!? ちょっ! 止め……」

 くにっ。

 ジィィィィ。

「膜はあります! 大丈夫!」

「な、何をするかぁぁぁぁぁ!」

 ゴンッ! ゴンッ!

「「痛っ!?」」

「パンツを返せ!」

 パンッ! パンッ!

 それからしばらく後に、ハルトとミリアムが戻ってきました。

 二人は顔を真っ赤にして怒っているエルミアナと、涙目になっているアリアとリリアを見て、首をかしげました。

「何やってんだお前ら?」

「頭にコブなんて作って! 二人ともどうしたんだい!? 頬が真っ赤だよ!?」

「「「なんでもない!」」」

 結局、何が起こったのか分からないまま、ハルトとミリアムはエルミアナの無事を喜ぶのでした。

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