うっかり女神の転生ミスで勇者になれなかったし、もうモブ転生でゴールしてもいいんだよね?

帝国妖異対策局

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第五章 悪魔勇者の出現

第87話 続・とてつもないプレゼント

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 マーカス叔父たちは、王都についたばかりで宿泊先も決まっていなかったので、今晩はサラディナ商会に泊まることになった。

「サラディナさん、いきなり無理を言ってすみません」

「えらく遠いところから来たんだってね。賓客用の部屋が空いてるから、王都にいる間はそこを使えばいいさ」

 突然のお願いにも関わらず、サラディナさんは快く叔父さんたちを受け入れてくれた。

「ありがとう! サラディナさん! 叔父たちを呼んで来きますので、二人を紹介させてください!」

 ぼくはサラディナさんにお礼を言うと、外で待っている叔父たちを呼びに行った。

 その結果……

「遥か西の彼方より、妖魔の巣食う荒海を越え、古大陸の長い旅路の果て、このような素敵な淑女に出会うことができようとは……。このマーカス・ロイド、貴方に出会えてようやく我が人生の意味を知ることができました」

 何かよく分からないことを延々と語りながら、サラディナさんの手を取ってキスをする叔父さんの姿を見ることになった。

「あら……あらあらあら……」

 サラディナさんもサラディナさんで、まんざらではない様子。

 二人が見つめ合ったまま、いつまでもテレパシーか何かで会話し続けそうだったので、

「コホンッ!」

 と、ぼくは咳払いをして二人を現実に引き戻した。

 サラディナさんが真っ赤になって慌て出す。魅惑のボディのサラディナさんが、まるで恋する少女のような表情になっていた。

 出会ったばかりの女性を落とすなんて、マーカス叔父さん、イタリア系ハリウッドマッチョだったか。

「お、お食事はまだでしょう? 料理の席を用意しますわ。つもる話もあるでしょうから、そちらでゆっくりと……」

 サラディナさんが耳を真っ赤にして言った。魅惑の熟女が乙女に、乙女になっている。

「ありがとう」

 と言った瞬間、マーカス叔父の手はサラディナさんの腰に回っていた。

「今宵は、数多くの奇跡がありました。生き別れの甥と姪と出会い、死に別れていたと思われた姉弟が出会い、そして……」

 いやいや、ぼくとミーナは生き別れてないから! 叔父さんが自分で新大陸に行ってただけだから。

 だんだん、ぼくの中でのマーカス叔父への信頼度が下がって来た。

 ジト目になりつつあるぼくの視線に気付くことなく、いつの間にかマーカス叔父とサラディナさんが再び見つめ合っていた。

「そして……私は今日、私の女神と出会うことができました」

 マーカス叔父さんが、もう片方の手でサラディナさんの手を取り、再びキスをした。
 
 ズキューーーーン!

 という効果音がサラディナさんから聞こえた気がする。

 ええ!? 何やってんだこの二人!? と困惑したぼくが、シーアの弟ヴィルフォランドールに目を向けると、

(いつものことだよ)

 と、欧米人のように肩をすくめた。

 その後、サラディナさんが用意してくれた豪勢な食事を楽しんだ。

 いつの間にかマーカス叔父さんとサラディナさんが、手を握り合ったまま二人の世界を再構築し、シーアとヴィルフォランドールも、お互いにこれまでどうしていたのかを話し合っていた。

 なんとなく、ぼくは疎外感を味わっていたものの、シーアがずっとぼくの手を握ってくれていたので、それほど気にならなかった。

 大人たちの話は、延々と終わらなく続き――

 いつの間にか、ぼくはシーアのひざまくらで眠ってしまった。



~ 翌朝 ~

 目が覚めると、ぼくはベッドの上にいた。

 パジャマ姿になっていたので、おそらくシーアが着替えさせてくれたんだろう。

「坊ちゃま、お目ざめになられましたか?」

 シーアが寝室の扉をノックする。

「今起きたところだよ。叔父さんたちはどうしてる?」

 ガチャッ扉が開かれ、シーアが一礼して入ってきた。

「既に朝食を済ませて、サラディナ様のオフィスでお話をされています。坊ちゃまが目覚めたら、お連れするように申し付かっております」

「そうなの? ならすぐに行くよ」

「ミーナ様も呼ばれているようですが、到着するまでお時間があります。まずはお着換えされて、朝食もおとりください」
  
 ぼくはシーアの言われるがまま、着替え、朝食を取り、そしてサラディナさんのオフィスへと向かった。

「よう! キース、ようやく目が覚めたか!」

 サラディナさんのオフィスでは、マーカス叔父さんとヴィルフォランドール、そしてミーナが待っていた。もちろんサラディナさんもいる。

「お兄さま! おはよう……ございますですわ!」

「おはようミーナ、それとみなさんも……」

 挨拶を言い終えないうちに、目の前にヴィルフォランドールが飛んできた。

 次の瞬間、もの凄く強い力でぼくは抱きしめられていた。

「ふぎっ!?」

 肺から空気が絞り出されて、変な声が出た。ヴィルフォランド―ルが慌ててぼくを解放すると、今度はがっしりとぼくの両肩を掴む。

「ありがとうな! キース! 姉ちゃんを助けてくれて、ずっと守ってくれて! 本当にありがとう! ロイド家の人たちが姉ちゃんを大切にしてくれたことを、オレは絶対に忘れない。白狼族の名誉に掛けて、この恩には必ず報いると誓うよ!」

 そう言うとヴィルフォランドールは、またぼくを凄い力で抱きしめた。

 また変な声が出た。

「おい、ヴィル! その辺にしておけ!」
 
 マーカス叔父の注意で、慌ててヴィルフォランドールがぼくを解放する。

「ご、ごめん! つい嬉しくて……」

「ふふふ。わたくしも先ほど同じ目にあいましたのよ、お兄さま」

「そうなの?」
   
「それだけじゃないぞキース、お前の親父やロイド家の使用人たち全員がヴィルの被害にあってるな。さすがにお前のおふくろに抱き付こうとしたときは止めたけどな」

「ランドール!? 奥様に抱き付こうとしたの!? なんてことするの!」

 シーアに睨みつけられて、ヴィルフォランドールの耳がヘタヘタと倒れ込む。

「ごめんよ、姉ちゃん……オレ、本当にうれしくって。だって、目の見えない姉ちゃんをずっと大切にしてくれた人たちなんだよ」
 
 そのままシーアの説教が始まりそうになったところを、マーカス叔父さんが割って入ってくれた。

「ヴィルの姉ちゃん、こいつを許してやってくれ。あんたと離れ離れになってから、こいつはずっとあんたが生きていることを信じて頑張ってきたんだ。やり過ぎそうになったときは、俺がきちんと止める。義姉のときもちゃんと止めた」

 マーカス叔父さんがヴィルフォランドールの頭を撫でるのを見て、シーアもそれ以上叱ったりすることはなかった。

「まっ、とにかくみんなが揃ったところで、本題に入ろう!」

 マーカス叔父が場の空気を一掃するような力強い声で言った。

 ぼくとミーナに目線を向けて、マーカス叔父がコホンッと咳払いしてから話を始める。

「まずはキースとミーナ、お前たちにも『とてつもないプレゼント』を用意している。そのプレゼントというのは……」

 そこで一端言葉を区切って、マーカス叔父さんはぼくたちの反応を見る。

 正直……ウザかったが、その後の言葉にぼくとミーナは驚かされた。

「お前たちが学校を卒業するまでの学費や他に必要な金は俺が全部出してやる。学校の寄付金も叔父さんに任せろ」

「「ええぇ!?」」

 ぼくとミーナは同時に叫んだ。

 マーカス叔父さんはマジ太っ腹だった。

 というか、どれだけお金持ちなんだ!?

「それとキース、お前が開発しているとかいう商品の研究費用も俺とヴィルで支援する」

 その瞬間、ぼくはマーカス叔父のことを叔父様と呼ぶことに決めた。

「叔父様~!」

「その呼び方はちょっと気持ち悪いから止めろ」

 と言われたので、やっぱり「叔父さん」と呼ぶことにした。
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