うっかり女神の転生ミスで勇者になれなかったし、もうモブ転生でゴールしてもいいんだよね?

帝国妖異対策局

文字の大きさ
上 下
86 / 92
第五章 悪魔勇者の出現

第85話 生きていた叔父さん

しおりを挟む
 サラディナ商会に住むことになってから、ぼくは毎日のようにシーアと一緒に通学していた。

 早朝からサラディナ商会を出で、朝のラ・ジーオタイッソに妹と一緒に参加している。

 最近のラ・ジーオタイッソはレイチェル嬢とクラウスくんが継続して出席していることから「朝からづくし」という噂を聞きつけ、貴族寮の男子生徒のほぼ全員が参加するようになってきた。
 
 クラウスくんが美少女に分類されるかどうかは、生徒によって判断が違ってくるようだが、分類するなら美少女に決まってるだろ!

 運動の後は、妹と一緒に朝食を済ませてからラヴェンナ像に詣でる。この時間帯になると登校してくる生徒や寮生たちが像の前に集まり、姉妹によるタイガ・マガーテイテヨの儀式が始まる。

 そこかしこで繰り広げられる百合百合しい空気を肺一杯に吸い込み、脳を活性化してから授業に出席。

 放課後、シーアがレイチェル嬢主催の女子会やダンスサロンに狩り出されているときは、ぼくはサラディナ商会に戻ってピュリフィンシートの開発に勤しむ。そうでないときは、シーアと一緒に学校や街を散策する。

 そんな日常が繰り返されていたある日のこと。

 学校から戻ったぼくとシーアがサラディナ商会に入ると、受付嬢がぼくを呼び止めた。

「ロイド様、ご実家の方からお手紙が届いております」

 受付嬢から差し出された封筒を受け取り、お礼を言った後、部屋に戻って手紙を開封する。

 手紙は父上からのものだった。

【キース。私の弟マーカスがお前たちに会うために王都に向っている。マーカス叔父さんは、とてつもないプレゼントを携えているのだが、内容は口留めされているのでここには書かない。プレゼントを受け取ったら、なるべく早いうちに、皆を連れて家に戻って欲しい。父より】

「マーカス叔父さんって、ぼくが生まれる前に行方不明になっていたような……。シーアは叔父さんに会ったことある?」

「いいえ。私がロイド家に来た時にはもういらっしゃいませんでした。マーカス様のことは、お噂でしか聞いたことがありません。お話で聞く限り、とても……その……自由な方だったようです」

「自由人ねぇ……」

 叔父さんのことは、母上が「アンゴールへ武者修行に行った」とか「別大陸に渡った」とか言っていたのを覚えている。だけどそれって「叔父さんは、遠いお星さまになったのよ」って意味かと思ってた。

 しっかり生きてたんだ。ちょっと会ってみたいかも。

「それにしても、とてつもないプレゼントってなんだろうね」

「きっと坊ちゃまがビックリするような、とても良いものに違いないです!」

 どんなプレゼントなのだろうかと、シーアの巨乳を眺めつつ考えてみた。

「うーん。とても良くてビックリするもの……シーアをもう一人とか?」
 
 ぼくの言葉を聞いたシーアがパッと笑顔になったものの、すぐに柳眉を寄せて悩ましい表情を浮かべる。

「それは……とても嬉しいのですが……。でも、それだと私が坊ちゃまを独り占めできなくなるので駄目です」

「ぼくとしては、シーアがたくさんいてもいいんだけどなぁ」

「駄目!」

 そう言ってシーアは、ぼくの頭を胸の中に抱きかかえる。窒息しかけてタップするまで、ぼくはシーアの胸の中で天国時間を過ごした。 

「プッハァ! 幸せ過ぎて本当に天国に行くところだった」

「ご、ごめんなさい」

 シーアはぼくの頭を撫でながら、申し訳なさそうに謝った。

「コホンッ!」

 先程からぼくたちを見ていた受付嬢が、わざと咳払いをする。彼女の冷めた視線がチクチクとぼくの頬を刺した。

「こ、この手紙の内容だと、王都についた叔父さんがここに来るのか、学校の方に来るのかわからないから、とりあえずミーナにも知らせておこう。うん、そうしよう!」

 ぼくは受付嬢の視線を避けるように、くるりと身体を回し、シーアと共にサラディナ商会を出た。そしてミーナに手紙の内容を伝えるために、再び学校に引き返す。

 貴族寮にあるミーナの部屋に到着すると、ぼくはミーナに父上からの手紙を見せて、行方不明の叔父が会いに来ることを伝えた。

 妹は予想外に大きな反応を示した。

「マーカス叔父さんが生きていたなんて! ほんとにびっくり! ……ですわ!」

 未だ見ぬ叔父との再会に、ミーナは期待で目をキラキラさせていた。

 どうやらミーナは、母上から聞いた叔父の話を、その言葉通りに受け取っていたようだ。妹の脳内では、マーカス叔父はものすっごい冒険者という設定になっているらしい。

 まぁ、期待に胸を膨らませる妹に冷や水を掛けるのも気が引けるので、ぼくは何も言わなかった。

 ぼく自身は叔父のことをどういう風に考えているのか……

 うん。

 プレゼント次第だな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

転生王子はダラけたい

朝比奈 和
ファンタジー
 大学生の俺、一ノ瀬陽翔(いちのせ はると)が転生したのは、小さな王国グレスハートの末っ子王子、フィル・グレスハートだった。  束縛だらけだった前世、今世では好きなペットをモフモフしながら、ダラけて自由に生きるんだ!  と思ったのだが……召喚獣に精霊に鉱石に魔獣に、この世界のことを知れば知るほどトラブル発生で悪目立ち!  ぐーたら生活したいのに、全然出来ないんだけどっ!  ダラけたいのにダラけられない、フィルの物語は始まったばかり! ※2016年11月。第1巻  2017年 4月。第2巻  2017年 9月。第3巻  2017年12月。第4巻  2018年 3月。第5巻  2018年 8月。第6巻  2018年12月。第7巻  2019年 5月。第8巻  2019年10月。第9巻  2020年 6月。第10巻  2020年12月。第11巻 出版しました。  PNもエリン改め、朝比奈 和(あさひな なごむ)となります。  投稿継続中です。よろしくお願いします!

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

処理中です...