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第五章 悪魔勇者の出現
第78話 聖樹の痛み
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「痛っ!」
聖樹はわき腹に小さな痛みを感じた。
「また忌まわしき者どもね……」
宇宙あるいは異世界から奴らがドラヴィルダに侵入する度に、わたしは苦痛を感じる。脅威の大きさに比例してその痛みも大きくなっていく。
とはいえ、天上界の神々が降臨してからは、すぐに痛みは消えるようになっていた。天上の神々は忌まわしき者どもを妖異と呼んでおり忌み嫌っている。わたしが依頼するまでもなく女神たちは発見次第、妖異を駆逐してくれた。
そのおかげか、ここしばらくは痒み程度の痛みしか感じたことがなかった。
ちなみに女神が異世界から勇者等を転生させるときには悪い感じはしないが、なんとも言えないこそばゆさを感じる。
最近、何度か強い感覚が立て続けに来たことがあって、思わずわたしは色っぽい声を出してしまったりした。
「ねぇ、ミスティ……聞いてよ~。わたしまた失敗しちゃったの」
そう言って女神ラヴェンナはわたしの肩に縋りついた。
「ちょ、紅茶がこぼれてしまいます! あっ、わたしの服で涙を拭かないでください! ちょっ、鼻水はさすがに……」
「うぇぇぇん。ミスティが冷たいぃぃぃ」
仕方がないのでわたしはハンカチを取り出して女神の顔を拭った。
「うぅ……ありがとミスティ……もぐもぐ……この果物美味しいわね……ぐす」
「礼を言うのか、食べるのか、泣くのか、どれかひとつにしてください」
「じゃぁ、食べる……もぐもぐ……おいひい」
そうでしょうとも。わたしはドヤ顔になった。
この果物は聖樹教会に捧げられた供物が神界に昇華されたものだ。女神ラヴェンナやわたしを想う心が込められているものなのだから、美味しいのは当然だ。
「おいひいけど……どちらかというとミスティへの信仰心の方が濃ゆい気がする……もぐもぐ」
聖樹教会の教えでは、女神ラヴェンナが最初に地上に下ろしたものが聖樹とされているため、わたしはラヴェンナの子どものように考えられている。
なので聖樹教会の供物には女神とわたし双方への想いが込められているのだ。
もちろんわたしは女神ラヴェンナの子どもではない。その点では聖樹教会の教えは間違いなのだけれど、わたしたちは友人であり、お互いのことを大切に思っているという最も大事なポイントは外していない。
「ミスティ……わたしまた転生に失敗して怒られちゃった……もぐもぐ」
「食べながらしゃべらない!」
ハムスターのように食べ物を口いっぱいに入れて頬張っているラヴェンナを見ながら心底、心底わたしは思った。
この女神が友だちで良かった。
上司とかじゃなくて良かった。
「そうですか……。それはまた大変でしたね」
わたしは女神の頭をなでなでする。
「ほへらぁ……ミスティのなでなで大好きぃぃ」
ラヴェンナの顔が蕩けた。
「ぐうっ!」
突然、わたしの身体に強烈な激痛が走る。痛みに耐えきれず、わたしは床に倒れて身体を屈ませる。
「どどど、どうしたのミスティ!」
ラヴェンナが顔を真っ青にしてわたしの顔を覗き込む。
「ぐっ! うっ! ぐっ!」
激痛は時間を置くことなく次々とわたしを襲ってきた。
「だ、誰か、誰か来て!」
ラヴェンナが叫んでいるのが聞こえる。
「うがっ!?」
最後に耐えがたい激痛が身体を駆け抜け、そのままわたしは意識を失ってしまった。
わたしが意識を取り戻したのは神大学病院のベッドの上。痛みは幾分弱まったものの神鎮痛剤を服用しないとキツイ状態だった。
傍にラヴェンナはいなかった。後にラヴェンナから、このとき全女神が集って緊急対応会議が開かれていて、とにかく大混乱だったと聞かされた。
大陸の各地で悪魔召喚が行なわれ、そのうち二つの儀式が成功していたのだ。
この世界に召喚されたのは二人の悪魔勇者と十二人の使徒だった。
――――――
―――
―
~ ヨルン大平原 ~
「それで? 魔王の息子ってのは見つかったのかよ?」
ヨルン中の魔物が集いつつある大平原。その中心にあるひと際豪勢な天幕の中で、岸田光人は言った。
彼の足元には首輪を付けられた人間や亜人の女奴隷が這いつくばっている。
「いえ、勇者様。カナン王国へ逃れようとしていることは判明しているのですが……」
居並ぶ灰色のローブたちの中から、ひとりが光人の前に進み出て告げた。
「どうせ、そいつなんて大したことないんでしょ? もう放っておいて、ちゃっちゃと奪っちゃおうよ。この大陸をさ」
「ですが、勇者様。魔王の継承者を始末しない限り、魔物の中には勇者様に従わないものも……」
「もういいから! こっちこいよ!」
光人の前に進み出た女からローブをはぎ取ると、その下から美しい女の顔と白い肢体が露わとなる。
「へぇ……いいじゃん」
そう言うと光人はその場で彼女の首を斬り落とした。
ゴロン。
「「「ひぃぃぃぃ」」」
足元で這いつくばっていた女奴隷たちが悲鳴を上げる。彼女たちの視線の先には、ローブの女の首が転がっていた。
聖剣デスブリンガーにこびりついた血糊を拭いながら、光人は言った。
「もう魔王の息子とかいいから、さっさと戦争しようぜ! なっ?」
他の灰色のローブたちは一斉に頭を垂れて引き下がった。
光人が指をパチンと慣らすと、鎧を着こんだ屈強なホブゴブリンが女の首を拾い、遺体を引きずって天幕から出て行った。
天幕の裏側には、人間と亜人の遺体が山のように積み上げられており、多くの魔物たちが群がってその肉を貪っていた。
ホブゴブリンはその山の中に首と遺体を投げ入れる。
女の遺体は瞬く間に消え、後には灰色のローブだけが残されていた。
聖樹はわき腹に小さな痛みを感じた。
「また忌まわしき者どもね……」
宇宙あるいは異世界から奴らがドラヴィルダに侵入する度に、わたしは苦痛を感じる。脅威の大きさに比例してその痛みも大きくなっていく。
とはいえ、天上界の神々が降臨してからは、すぐに痛みは消えるようになっていた。天上の神々は忌まわしき者どもを妖異と呼んでおり忌み嫌っている。わたしが依頼するまでもなく女神たちは発見次第、妖異を駆逐してくれた。
そのおかげか、ここしばらくは痒み程度の痛みしか感じたことがなかった。
ちなみに女神が異世界から勇者等を転生させるときには悪い感じはしないが、なんとも言えないこそばゆさを感じる。
最近、何度か強い感覚が立て続けに来たことがあって、思わずわたしは色っぽい声を出してしまったりした。
「ねぇ、ミスティ……聞いてよ~。わたしまた失敗しちゃったの」
そう言って女神ラヴェンナはわたしの肩に縋りついた。
「ちょ、紅茶がこぼれてしまいます! あっ、わたしの服で涙を拭かないでください! ちょっ、鼻水はさすがに……」
「うぇぇぇん。ミスティが冷たいぃぃぃ」
仕方がないのでわたしはハンカチを取り出して女神の顔を拭った。
「うぅ……ありがとミスティ……もぐもぐ……この果物美味しいわね……ぐす」
「礼を言うのか、食べるのか、泣くのか、どれかひとつにしてください」
「じゃぁ、食べる……もぐもぐ……おいひい」
そうでしょうとも。わたしはドヤ顔になった。
この果物は聖樹教会に捧げられた供物が神界に昇華されたものだ。女神ラヴェンナやわたしを想う心が込められているものなのだから、美味しいのは当然だ。
「おいひいけど……どちらかというとミスティへの信仰心の方が濃ゆい気がする……もぐもぐ」
聖樹教会の教えでは、女神ラヴェンナが最初に地上に下ろしたものが聖樹とされているため、わたしはラヴェンナの子どものように考えられている。
なので聖樹教会の供物には女神とわたし双方への想いが込められているのだ。
もちろんわたしは女神ラヴェンナの子どもではない。その点では聖樹教会の教えは間違いなのだけれど、わたしたちは友人であり、お互いのことを大切に思っているという最も大事なポイントは外していない。
「ミスティ……わたしまた転生に失敗して怒られちゃった……もぐもぐ」
「食べながらしゃべらない!」
ハムスターのように食べ物を口いっぱいに入れて頬張っているラヴェンナを見ながら心底、心底わたしは思った。
この女神が友だちで良かった。
上司とかじゃなくて良かった。
「そうですか……。それはまた大変でしたね」
わたしは女神の頭をなでなでする。
「ほへらぁ……ミスティのなでなで大好きぃぃ」
ラヴェンナの顔が蕩けた。
「ぐうっ!」
突然、わたしの身体に強烈な激痛が走る。痛みに耐えきれず、わたしは床に倒れて身体を屈ませる。
「どどど、どうしたのミスティ!」
ラヴェンナが顔を真っ青にしてわたしの顔を覗き込む。
「ぐっ! うっ! ぐっ!」
激痛は時間を置くことなく次々とわたしを襲ってきた。
「だ、誰か、誰か来て!」
ラヴェンナが叫んでいるのが聞こえる。
「うがっ!?」
最後に耐えがたい激痛が身体を駆け抜け、そのままわたしは意識を失ってしまった。
わたしが意識を取り戻したのは神大学病院のベッドの上。痛みは幾分弱まったものの神鎮痛剤を服用しないとキツイ状態だった。
傍にラヴェンナはいなかった。後にラヴェンナから、このとき全女神が集って緊急対応会議が開かれていて、とにかく大混乱だったと聞かされた。
大陸の各地で悪魔召喚が行なわれ、そのうち二つの儀式が成功していたのだ。
この世界に召喚されたのは二人の悪魔勇者と十二人の使徒だった。
――――――
―――
―
~ ヨルン大平原 ~
「それで? 魔王の息子ってのは見つかったのかよ?」
ヨルン中の魔物が集いつつある大平原。その中心にあるひと際豪勢な天幕の中で、岸田光人は言った。
彼の足元には首輪を付けられた人間や亜人の女奴隷が這いつくばっている。
「いえ、勇者様。カナン王国へ逃れようとしていることは判明しているのですが……」
居並ぶ灰色のローブたちの中から、ひとりが光人の前に進み出て告げた。
「どうせ、そいつなんて大したことないんでしょ? もう放っておいて、ちゃっちゃと奪っちゃおうよ。この大陸をさ」
「ですが、勇者様。魔王の継承者を始末しない限り、魔物の中には勇者様に従わないものも……」
「もういいから! こっちこいよ!」
光人の前に進み出た女からローブをはぎ取ると、その下から美しい女の顔と白い肢体が露わとなる。
「へぇ……いいじゃん」
そう言うと光人はその場で彼女の首を斬り落とした。
ゴロン。
「「「ひぃぃぃぃ」」」
足元で這いつくばっていた女奴隷たちが悲鳴を上げる。彼女たちの視線の先には、ローブの女の首が転がっていた。
聖剣デスブリンガーにこびりついた血糊を拭いながら、光人は言った。
「もう魔王の息子とかいいから、さっさと戦争しようぜ! なっ?」
他の灰色のローブたちは一斉に頭を垂れて引き下がった。
光人が指をパチンと慣らすと、鎧を着こんだ屈強なホブゴブリンが女の首を拾い、遺体を引きずって天幕から出て行った。
天幕の裏側には、人間と亜人の遺体が山のように積み上げられており、多くの魔物たちが群がってその肉を貪っていた。
ホブゴブリンはその山の中に首と遺体を投げ入れる。
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