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第五章 悪魔勇者の出現
第75話 ダンス訓練
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「エデ! トゥバ! トゥリ!」
ぼくはレイチェル嬢の腰に手を当て、もう片方で彼女の手を握り、必死で彼女の動きに付いて行こうと悪戦苦闘していた。エ・ダジーマのダンスフロアを貸切って、ぼくはレイチェル嬢からダンスの特訓を受けているところだ。
「エデ! トゥバ! トゥリ!」
レイチェル嬢は、ヘロヘロと動くぼくの身体を強引に引っ張って、ダンスの動きをぼくに叩き込もうとする。
身長の高いレイチェル嬢の胸が目の前にあるという状況に、天国にいるような心持に浸ることができたのは最初の数分間だけだった。
「エデ! トゥバ! トゥリ!」
「ハァ、ハァ、ちょ、ちょっと休憩したいのですが?」
「あなた男の子のくせに、わたくしより先にへばって悔しくありませんの?」
「な、なにおぅ!」
と、意地を張ったのも二度が限界で、ついにぼくは自分の足をもつれさせて倒れてしまった。
「キース! アルテシア姫の開催されるピュリフィンプロジェクトの発表パーティーまでもう時間がないのですよ! しっかりしなさいな!」
アルテシア姫が企画したパーティーは、ピュリフィン製品の紹介と開発のための投資を募るためのものだった。
最初にその話を聞いたとき、ぼくは喜んだ。そりゃ自分が出席するとは思はなかったから。そういうのはアルテシア姫がやってくれるものと思っていたから。
だがアルテシア姫はそのパーティーでぼくを紹介するつもりらしかった。その事実を告げられたときぼくはアルテシア姫に尋ねた。
「社交界へのデビューは12歳からでは?」
「そんなのただの慣例よ。例外はいくらでもいるわ! キースなら大丈夫よ、わたしが保証します!」
ぼくはの疑問に対してアルテシア姫はあっけらかんと答える。鈴の音のような笑い声と天使の笑顔を向けられては、ぼくにはそれ以上の反論をすることはできなかった。
「というわけで、社交儀礼についてはレイチェルに教えてもらいなさい! レイチェル、お願いね! キースを立派な紳士にしてあげて!」
「か、かしこまりました!」
というわけで、レイチェル嬢はやる気満々なのである。
「レイチェル様……着替えて参りました。これでよろしいのでしょうか」
丁度良いタイミングでシーアがダンスフロアに入ってきた。シーアは髪を後ろに束ねて男装していた。
「ヴィル! 素敵よ! 凄く似合ってるわ!」
レイチェル嬢が瞳にハートを浮かび上がらせてシーアを褒めちぎる。どうしてシーアが男装しているのか聞きたかったけれど、レイチェル嬢の注意がシーアに向いている間は休憩できそうなので、ぼくは黙っておくことにした。
シーアが着替えるのを手伝ってくれたメイドさんたちも、その瞳にハートが浮かび上がっていた。
確かに、男装したシーアには宝塚スターを想起させるような華やかさが全身から溢れ出ている気がする。女性陣が夢中になるのも無理はない。
「ねぇ、キース! しばらくヴィルをお借りするけどよろしいかしら?」
疲れ切っているぼくは首を縦に振るだけで精一杯だった。
「それじゃヴィル! わたくしのお相手をお願いしますわ!」
「かしこまりました」
シーアがレイチェル嬢の前で貴族式の礼を取る。
「レディ、わたくしと踊って頂けないでしょうか」
あっ、これはもう宝塚スターだわ。
「もちろんですわ!」
レイチェル嬢が顔を上気させてシーアに手を差し出した。レイチェル嬢がその手を取ると、フロアに音楽が流れ始める。
「えっ!? 音楽!?」
いつの間にかダンスフロアの片隅に弦楽団が楽器を手に演奏を始めていた。ぼくのときにはいなかったのに……。
「「「きゃぁぁぁ!」」」
さらに、レイチェル嬢の取り巻きらしき女生徒やシーアをお姉さまと慕う女生徒たちがダンスフロアに入ってきて、黄色い声を上げる。
確かに、シーアとレイチェル嬢のダンスは目を奪われるものがあった。二人の美しい少女が華麗にフロアを舞う姿は、二人の妖精が花々の上を飛び回っているかのようだ。二人の背景に花々が溢れている幻想が見えたよ。
「「「きゃぁぁぁ!」」」
シーアは見事に男性パートをこなしてレイチェル嬢を上手にリードしている。息ぴったりの二人の動きは、それはもう一心同体かのように思えるほどだ。
ぼくは心の中にもやもやしたものを感じていた。それは嫉妬心のようなものではあったけれど、それほど嫌な感情でもなかった。
だけどシーアには部屋に戻った後で耳をはむはむしてやる! 涙目になっても止めないから! なんだったらレロレロまで行くから!
とぼくは密かに心に誓うのだった。
このシーアとレイチェル嬢のダンス以降、ダンスサロンなるものが生まれる。いわゆる部活動のようなもので、このダンスフロアでは学業の合間を縫ってお姉さまと妹たちが社交ダンスの練習を行うようになっていく。
参加資格は女性ということだけで身分の差は問われない。これはダンスサロンを創設したレイチェル嬢の提案によるものだ。
ダンスサロンではレイチェル嬢やシーアが参加する際は、フロアが埋まる程の人だかりになると言う。まぁ、ぼくは男だから参加できないので見たことはないんだけど、クラウスくんがそう言ってた。
ぼくはレイチェル嬢の腰に手を当て、もう片方で彼女の手を握り、必死で彼女の動きに付いて行こうと悪戦苦闘していた。エ・ダジーマのダンスフロアを貸切って、ぼくはレイチェル嬢からダンスの特訓を受けているところだ。
「エデ! トゥバ! トゥリ!」
レイチェル嬢は、ヘロヘロと動くぼくの身体を強引に引っ張って、ダンスの動きをぼくに叩き込もうとする。
身長の高いレイチェル嬢の胸が目の前にあるという状況に、天国にいるような心持に浸ることができたのは最初の数分間だけだった。
「エデ! トゥバ! トゥリ!」
「ハァ、ハァ、ちょ、ちょっと休憩したいのですが?」
「あなた男の子のくせに、わたくしより先にへばって悔しくありませんの?」
「な、なにおぅ!」
と、意地を張ったのも二度が限界で、ついにぼくは自分の足をもつれさせて倒れてしまった。
「キース! アルテシア姫の開催されるピュリフィンプロジェクトの発表パーティーまでもう時間がないのですよ! しっかりしなさいな!」
アルテシア姫が企画したパーティーは、ピュリフィン製品の紹介と開発のための投資を募るためのものだった。
最初にその話を聞いたとき、ぼくは喜んだ。そりゃ自分が出席するとは思はなかったから。そういうのはアルテシア姫がやってくれるものと思っていたから。
だがアルテシア姫はそのパーティーでぼくを紹介するつもりらしかった。その事実を告げられたときぼくはアルテシア姫に尋ねた。
「社交界へのデビューは12歳からでは?」
「そんなのただの慣例よ。例外はいくらでもいるわ! キースなら大丈夫よ、わたしが保証します!」
ぼくはの疑問に対してアルテシア姫はあっけらかんと答える。鈴の音のような笑い声と天使の笑顔を向けられては、ぼくにはそれ以上の反論をすることはできなかった。
「というわけで、社交儀礼についてはレイチェルに教えてもらいなさい! レイチェル、お願いね! キースを立派な紳士にしてあげて!」
「か、かしこまりました!」
というわけで、レイチェル嬢はやる気満々なのである。
「レイチェル様……着替えて参りました。これでよろしいのでしょうか」
丁度良いタイミングでシーアがダンスフロアに入ってきた。シーアは髪を後ろに束ねて男装していた。
「ヴィル! 素敵よ! 凄く似合ってるわ!」
レイチェル嬢が瞳にハートを浮かび上がらせてシーアを褒めちぎる。どうしてシーアが男装しているのか聞きたかったけれど、レイチェル嬢の注意がシーアに向いている間は休憩できそうなので、ぼくは黙っておくことにした。
シーアが着替えるのを手伝ってくれたメイドさんたちも、その瞳にハートが浮かび上がっていた。
確かに、男装したシーアには宝塚スターを想起させるような華やかさが全身から溢れ出ている気がする。女性陣が夢中になるのも無理はない。
「ねぇ、キース! しばらくヴィルをお借りするけどよろしいかしら?」
疲れ切っているぼくは首を縦に振るだけで精一杯だった。
「それじゃヴィル! わたくしのお相手をお願いしますわ!」
「かしこまりました」
シーアがレイチェル嬢の前で貴族式の礼を取る。
「レディ、わたくしと踊って頂けないでしょうか」
あっ、これはもう宝塚スターだわ。
「もちろんですわ!」
レイチェル嬢が顔を上気させてシーアに手を差し出した。レイチェル嬢がその手を取ると、フロアに音楽が流れ始める。
「えっ!? 音楽!?」
いつの間にかダンスフロアの片隅に弦楽団が楽器を手に演奏を始めていた。ぼくのときにはいなかったのに……。
「「「きゃぁぁぁ!」」」
さらに、レイチェル嬢の取り巻きらしき女生徒やシーアをお姉さまと慕う女生徒たちがダンスフロアに入ってきて、黄色い声を上げる。
確かに、シーアとレイチェル嬢のダンスは目を奪われるものがあった。二人の美しい少女が華麗にフロアを舞う姿は、二人の妖精が花々の上を飛び回っているかのようだ。二人の背景に花々が溢れている幻想が見えたよ。
「「「きゃぁぁぁ!」」」
シーアは見事に男性パートをこなしてレイチェル嬢を上手にリードしている。息ぴったりの二人の動きは、それはもう一心同体かのように思えるほどだ。
ぼくは心の中にもやもやしたものを感じていた。それは嫉妬心のようなものではあったけれど、それほど嫌な感情でもなかった。
だけどシーアには部屋に戻った後で耳をはむはむしてやる! 涙目になっても止めないから! なんだったらレロレロまで行くから!
とぼくは密かに心に誓うのだった。
このシーアとレイチェル嬢のダンス以降、ダンスサロンなるものが生まれる。いわゆる部活動のようなもので、このダンスフロアでは学業の合間を縫ってお姉さまと妹たちが社交ダンスの練習を行うようになっていく。
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