うっかり女神の転生ミスで勇者になれなかったし、もうモブ転生でゴールしてもいいんだよね?

帝国妖異対策局

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第五章 悪魔勇者の出現

第73話 魔王の胎動と即終了

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 女神ラヴェンナが行方不明の勇者を発見する数か月前。

 ゴンドワルナ大陸の北西に位置するヨルンでは、魔王誕生を待ち望む魔物たちが続々と集まってきていた。

 鬼人王デーモンキングヴェルクレイオスは、その天才的な戦の才能を発揮し、北方の地の魔人や魔物をひとつの魔族としてまとめ上げてきた。

 彼ら魔族の間で、もっとも古い血筋を有する冬巨人イタカたちは古の預言が伝える魔王の条件にヴェルクレイオスの偉業がピッタリと該当していると信じていた。

 ヴェルクレイオス自身、その預言で語られるような魔王になるべく常々心掛けてきた。

 この世界は魔人や魔物にとって決して優しい世界ではない。大陸において最大の勢力である人間や亜人共は、彼らの信奉する邪悪な女神の魔力を用いて常に魔族を狩ってきた。

 冬巨人イタカから聞いた創生神話では、この世界における本来の住人は魔人や魔物だったとされている。やがて邪悪な女神がこの大陸に降り立ち、あの狂暴な人間共を送り込んで支配したのだと神話は伝えていた。

 古の預言では、邪悪な女神の支配から世界を解放する魔王について詳しく言及されている。これまでも何度も預言で語られる魔王の力を持った魔人が誕生し、この大陸の覇権にあと一歩というところまで迫ったことがあった。

 今のところ、そうした魔人たちは人間共が勇者と呼ぶ凶戦士によって討ち取られている。

「だが、俺は違う」

 ヴェルクレイオスは自分こそが預言の魔王であると信じていた。彼に従うものたちもそう信じている。

「必ずこの世界を邪悪な女神から取り戻し、お前たちが平和に暮らせるようにしてみせる」

 ヴェルクレイオスは自分の腕の中でうとうと眠る息子に誓った。この子のためにも自分はこれからも勝利し続けるのだ。

「それまではアレスヴェルのお守は任せたぞ、ミシェパ」

「お任せあれ、我らが王よ。アレスヴェル様を偉大な王の後継者として立派に育て上げてみせますわ」

 巨大な灰色狼が鬼人王の息子に優しい瞳を向ける。

 鬼人王とその息子、そして従者である灰色狼の眼下には、北方各地から魔人・魔物たちが続々と集結し始めていた。

 ゴトンッ!

 灰色狼のミシェパが最初に見えたのは、鬼人王の腕からその息子アレスヴェルが地面に落ちようとしている瞬間だった。

 咄嗟にミシェパはアレスヴェルを咥えて、彼が地面と衝突するのを回避した。そこでようやく先程の落下音の原因を知る。

 ミシェパの目の前には鬼人王ヴェルクレイオスの首が転がっていた。

「ギャハハハハハ! これが魔王なのか!? 弱すぎぃぃ!」

 その声の主を確認することなく、鬼人王の忘れ形見を咥えたままミシェパは走り出していた。

 こうして預言の魔王として魔人や魔物たちの期待を一身に受けていた、鬼人王ヴェルクレイオスは死んだ。

――――――
―――

 
 岸田光人ライトはトラックに跳ねられて死んだはずだった。信号待ちをしているときに誰かに背中を押され・・・・・・・・・、次の瞬間にはトラックが眼前に迫っていたところまではハッキリ記憶している。

「おぉ、勇者の召喚に成功したぞ!」

 光人の目の前には灰色のローブを被った連中が大勢立っていた。

「勇者だぁ? 俺が?」

「その通りでございます。勇者様」

 大勢の中から一人、光人の前に進み出て灰色ローブを脱ぎ捨てる。そこには美しい美貌と煽情的な身体を持つ女の姿があった。彼女は蠱惑的な笑みを浮かべ、光人の欲情を誘うように自身の女らしい部分を見せつける。

「おぉ、いいねぇ、勇者様にご奉仕か」

 女が頷くと、その背後いた5人がローブを脱ぎ捨てる。ローブの下には一糸纏わぬ女の身体があった。

 光人は女たちの中にその身を沈めて行った。欲望が全て吐き出された後、光人は最初の女から勇者について詳しい説明を受ける。

 光人は彼女の話をすぐに理解した。アニメやラノベで散々見てきた、異世界転生でよくある展開だ。

「つまり、俺が魔王を倒せばいいんだろ?」

「はい。さすがは勇者様、ご明察の通りでございます」

 女が手を叩くと、灰色ローブたちが光人の前に一振りの黒い剣を持ってきた。

「これは?」

「聖剣デスブリンガー、勇者様に相応しい名剣ですわ」

 灰色ローブが手枷をしたリザードマンを連れてきた。リザードマンは恐怖で震えている。

「では勇者様、こちらで聖剣をお試しくださいまし」

 光人は一切ためらうことなく聖剣でリザードマンの首を刎ねた。

「お見事です、勇者様。これほどの腕があるのでしたら、魔王の首もあっさりと斬り落としてしまうに違いありませんわ」

 剣を持つのが初めてだったにも関わらず、聖剣デスブリンガーは手の延長であるかのように光人は自由自在に振るうことができた。

 魔王というのがどれほど強いのかは分からないが、光人の胸中は魔王の首を確実に落とすことができるという自信に溢れていた。

「確かに、魔王の首なんざ簡単に切れちまいそうだな」

 そして――

 岸田光人は聖剣デスブリンガーで鬼人王ヴェルクレイオスの首を斬り落とした。

「この世界じゃ俺は勇者様ってわけか。いいねぇ、燃えるねぇ」

 好きなだけ殺せる!

 光人は最高にたかぶっていた。




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