うっかり女神の転生ミスで勇者になれなかったし、もうモブ転生でゴールしてもいいんだよね?

帝国妖異対策局

文字の大きさ
上 下
65 / 92
第四章 勇者支援学校編 ー 冒険者への道 ー

第64話 異世界の昼ドラ

しおりを挟む
 フォンを除く全員が魔力を伴わない空気によってフリーズしていた。

 先々代男爵がフォンと出会い、彼女の元に通い続けた結果生まれたのが……

「俺の親父がフォンの子供!? ちょちょちょちょちょちょちょっと待って、待ってくれ……」

 うん? なんだろう? 本来であればフォンから話を聞いて一番動揺するのはぼくとシーアのはずでは? でも面白いからこのまま見守ることにしよう。

 さっきから男爵の動揺が半端ない。名前で呼ばないと混乱するので整理しておくと、現在ぼくたちの前で超動揺しているのがジョン・カサノバク。先々代男爵ヴァンの孫であり、先代男爵ロバートの息子にして、現カサノバク男爵家当主だ。

 ちなみにジョンにはアーロンという息子がいて、今は王都に住んでいるらしい。

「えっ、なに!? つまり俺の本当の祖母はフォンで、俺と俺の親父を毛嫌いするあまり、俺たちを誅殺しようとした祖母と叔父と叔母とその孫は、俺の爺ちゃんの正妻で、その息子と娘と孫だったってこと!?」

「ええ」
 
 フォン・ノエインがクールに答えるぜ。

「ということは、親父と俺が告発して国外追放になった祖母と叔父と叔母とその孫って、カサノバク男爵家の正当な継承者だったと?」

「そうですね」

 相変わらずフォンがクールな回答を返す。

 うん、なんだろう? ヴィドゴニアの話を聞きたいのだけれど、さっきから割り込む隙がないぞ。でも面白いからもう少し静観しよう。

 動揺してガクガクブルブルし始めた現男爵を見かねたのか、フォンが彼に向って語りかけた。

「少なくともヴィドゴニアとなって人の世の理を離れ、また再び戻ってきたわたしにとって正当なカサノバクは愛するヴァンであり、その息子ロバートであり、孫のあなたであり、そしてひ孫であるアーロンなのですよ」

「ううっ……」

 今の現男爵の『ううっ』はぼくにもわかる。「そりゃそうだけどさ」って意味だ。

「それにあの人たちは、わたしとアデラインを……人外のわたしでさえ口にするのも憚《はばから》れる残虐な方法で殺害したのです」

 そこでフォンは一旦言葉を切って、ぼくとシーアに目を向けた。残虐な方法というのがどのようなものであったのかは別に知りたくもない。ただフォンと彼女の娘が殺害されたということがわかれば十分だ。

「ジョン、あの人たちはあなたの父上の姉を殺したのですよ」

 静かに告げるフォンの顔は能面のように表情がなかったけれど、その瞳に揺れる青白い炎には恐ろしい程の怨嗟が浮かんでいた。

 娘を殺害されたフォンは、想像を絶する怒りと復讐心に駆られたまま殺害され、その思いが消えることなく、ついにはヴィドゴニアとなったのだろう。

「わかっている。どんな言い分があろうと、あの人たちがやったことは絶対に許されるものではない。ただ……」

 現男爵は天を仰ぎ、深いため息と共に頭を垂れる。

「ただ……驚いた」

 現男爵の言葉を最後に、その場に沈黙が訪れる。

 なんだろう? この昼ドラ……興味あるけど、ぼくたちが聞きたかった本来の話とは全然違う方向だ。シーアとシュモネー先生はどんな様子なのかと視線を向けると……。

 二人とも深刻な表情を保ってはいるものの、その目には好奇心がランランと輝いているのが見て取れた。まぁ、ぼくも同じような目をしているに違いない。

「ちょ!? ちょちょちょちょちょちょっと待て!?」

 突然、現男爵が素っ頓狂な声で騒ぎ始める。

「俺の初めてはフォンの『筆おろし』なんだが!?」

 ぼくは盛大にお茶を噴き出した。

 直前に上を向くことができたので、ぼくは噴いたお茶が下りてくるのを顔面で受け止める。

 一応解説しておこう。『筆おろし』とは、経験豊かなお姉さんが未経験の男の子をベッドで男にしてしまう儀式のことだ。

 まったく……『筆おろし』とは興味深い。現男爵の初めてなんてどうでもいいが、あのおっぱい八尺様のおっぱいがおっぱいでおっぱいだと想像すると……

「ちょ、ちょっとシーア痛い! ぼくの顔をスコーンでゴシゴシ拭くのは痛いから止めて!」

 そんなぼくらの茶番なんてどこ吹く風。フォンがさらに爆弾を投下する。

「ええ。ロバートもそうでしたし、アーロンは去年の暮に……」
「ほわぁぁぁあ!? アーロンが!?」
 
 うん。さっきより素っ頓狂度が増した声を現男爵が挙げる。

「はわわわわわ……」

 現男爵は人語を忘れたようだ。そりゃそうか。突然、フォンが自分の祖母だと判明しただけでも驚愕の事実なのに、それが親子孫三代に渡って筆おろしとは……。

「さすがにそれは人倫にもとるのでは?」

 さすがシュモネー先生、鋭い突っ込み!

「ヴァンとの関係について言えば、あの正妻に対して少しも負い目がなかったわけではありません。しかし、その後のわたしは……もう人ではありませんでしたから」

「そそ、そうか、そうかな? いや、そうだ。そうに違いない」

 現男爵がなんとか自我を取り戻そうと足掻いている。その様子を見かねたフォンたフォロー(?)を入れる。

「わたしがあなたたちに女の扱い方を教えたのは女の見る目を養うためなのですよ。現にロバートもあなたも、カサノバク家に相応しい素敵な妻を迎えることができたでしょう?」

「そ、それはそうだが……」

「女を知らなかった頃のあなたたちは、親子孫揃いも揃って男爵家に取り入ろうとする見た目だけの村娘《アバズレ》や酒場の女の術中に見事にハマっていましたよね」

「うぬ……」

「『君のためなら爵位を捨てられる』なんて親子孫揃いも揃って女たちを口説いたようですが、もし本当にそんなことをしていたら捨てられたのは爵位ではなくあなたたちだということは、女を知る前には理解できなかったでしょう?」
「うぬぬ……」

「それに、もしわたしとの関係が問題になったとしても、わたし一人がここから去ってしまえば『人外の魔女にたぶらかされた』だけで収まる話です」

 それが本当なのかどうかはわからないけれど、ぼくのような子どものいるところでするような話ではないな。それだけはわかる。

 それにしても親子孫揃って筆おろし……人外の魔女となったからこそなしえる偉業……なのか。しかし、あのおっぱいが初めてのおっぱいでおっぱいをいっぱいおっぱいできるというのは……

「痛い痛い痛い! シーア、ぶどうで顔をゴシゴシするのは止めて! 実が取れて枝がむき出しになってるところが顔にチクチク刺さって痛い! 痛いから!」

 超昼ドラ展開はそろそろ終わってもらって、ヴィドゴニアについて話を聞かせてもらうことにしよう。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

『自重』を忘れた者は色々な異世界で無双するそうです。

もみクロ
ファンタジー
主人公はチートです!イケメンです! そんなイケメンの主人公が竜神王になって7帝竜と呼ばれる竜達や、 精霊に妖精と楽しくしたり、テンプレ入れたりと色々です! 更新は不定期(笑)です!戦闘シーンは苦手ですが頑張ります! 主人公の種族が変わったもしります。 他の方の作品をパクったり真似したり等はしていないので そういう事に関する批判は感想に書かないで下さい。 面白さや文章の良さに等について気になる方は 第3幕『世界軍事教育高等学校』から読んでください。

【完結】世界一無知のリュールジスは秘密が多い

三ツ三
ファンタジー
突如地底深くより出現した結晶異物体。 無差別に人々を襲い続ける存在。 「アンダーズ」 人類はアンダーズの圧倒的な戦力により大陸の半分以上を受け渡すことを余儀なくされた。 物言わぬ結晶体に人類が今もなお抵抗出来ているのは人間の体内にある「魔力」を利用することで稼働する。 対アンダーズ砕鋼器具「ブレイカー」 腰部に装着することで内に秘められている「魔力」を具現化する事が可能となった人類の切り札。 「魔力」を持ち「ブレイカー」を扱う事が出来る限られた者達。 「リベリィ」 彼等がアンダーズを倒す事が出来る唯一の希望であった。 そんな世界で「リュールジス」は一人旅を続けていた。 「探し物・・・」 混沌とした各地を身一つで歩き続けたが、一通の手紙が足を止めさせ彼の旅を終わらせたのだった。

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

処理中です...