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第四章 勇者支援学校編 ー 冒険者への道 ー

第60話 アルティメットイレ

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 前前前世の俺にとってそこは癒しの空間だった。

 前前世の俺はそんなの気にしている場合ではなかった。

 前世の俺は恵まれ過ぎていたのでそれほど気にならなかった。

 そして今世で、ぼくは王都に来て初めて確信した。

 王都は臭う。

 特にトイレが臭い。

 辛い。

 ウルス王時代にも全く気にならなかったわけではないが、トイレ云々以前に王都の上下水道の整備が重要課題だった。当時と比べれば水事情はかなり改善されてきてはいるが水道の整備事業は未だに続いている。

 前前前世の俺はトイレに本を置いていた。快適な読書ができる癒しの空間を作るために、除菌・消臭・換気・芳香・ライティングには少し気を使っていた。

 そんなぼくがこの王都のトイレ事情をはじめて知った時はまさにの一言だった。だがその程度で済んだのは、この世界に転生して赤ん坊から育っていたからかもしれない。

 もし前前前世の俺がこの世界の王都にしていたとしたら、おそらく衝撃で死んでいたに違いない。

 具体的な衝撃の内容については言葉にすることさえ憚《はばから》れる。とにかくぼくは自分が長く寝起きする場所にあるトイレに関しては最大限のカスタマイズを施している。

 実家にあるトイレと貴族領にあるぼくの部屋は、おそらく王都で最高のトイレであると断言できる。

「王都で最高であるということは、おそらくこの世界で最高のトイレと言っても過言ではない!」

 パチパチパチ。シーアとノーラとクラウスくんが拍手する。今日はエ・ダジーマのみならず王都のトイレ事情を改善するための「プロジェクト・アルティメットイレ」初めての会議となる。もちろんぼくが企画・提案したのだ。

のおかげで王都の公衆トイレのほとんどが水洗式となりました。調べてみたところ、ウルス王による以降、一度も疫病が王都に蔓延したことはありませんでした」

 疫病が発生がゼロだったわけではないけれど、いずれもが小規模の内に収束させることに成功している。

「キース様はトイレの話になると人が変わったように情熱的になりますね」
 
 そういうクラウスくんはこの部屋のトイレファンクラブ会員三号だ。もちろん一号がシーアで二号がノーラである。 

「はい。何しろ校長に掛け合って部屋の工事までしてしまうほどですから。正直、今では坊ちゃまの作ったトイレ以外を使うのはちょっとキツイかなぁ」

「わたしもこの部屋以外のでは……厳しいです」

 ノーラとシーアもぼくのトイレ会議に参加して積極的に意見や感想を述べてくれる。うら若き女性がこうした下の話に付き合ってくれるのは、昔から生活を共にしていたから慣れているというだけでなく、ぼくのトイレに掛ける情熱を知っているからだ。

 自分でも勇者支援や魔王討伐よりもトイレ改善の方が俄然情熱が湧いてくることを自覚している。いやホント、この世界の衛生観念はまだまだ色々酷いんだ。だってトイレが終わっても手を洗わないんだぜ!?

 手洗いについてはウルス王時代にめちゃくちゃ頑張って奨励したけれど、そこから十年以上たった今でもまだまだ王国民に浸透しきってはいない。

「トイレの整備は王国のみならず人類の発展に欠かせません。これを怠ったばかりに、衛生状態が悪化し都市を放棄せざる得なくなったりすることもあるのです」

「そんなこともあったんだ」

 クラウスくんが関心してくれたところで――

「といわけでトイレの重要性について長い前置きをしてしまったけど、これより王国民のトイレ事情の超進化を図るプロジェクト・アルティメットイレ、第一回目の会議を開催したいと思います」

 パチパチパチ。

「今回は議題を話し合うというより、まずはトイレ進化がどのようなものかを実感していただくため、クラウスくんには我が家で使っているアイテムを渡すので持ち帰って試してもらいたいと思います」

 そういってぼくは万年筆サイズの細長い金属の筒を懐から取り出してクラウスくんに手渡した。

「これって……」

「開けてみて」

 クラウスくんが、金属筒の上部を引き抜くとポンッと音がして開く。その中にはアルコールとハーブから抽出したオイルを調合した薬液を浸した布が入っていた。

「この布は食事の前やトイレの後に手を拭くときに使うんだ。他にも何か汚れたものに触れたときにこれで浄化するといい。布を全部引き出してまた使った後に戻してもいいし、ちょっとずつ引き出して使ってから戻してもいい。布が薬液で濡れている間は見えない不浄を清める効果があるよ」

 ぼくは別の金属筒を開けて布を取り出し、クラウスくんの手を取り拭いてみた。

「あっ、これってキース様やヴィルフェリーシアさんが時々ほんのり纏ってる香りですね。いったいどちらの香水をお使いなのかなって思ってましたけど、これだったのか」

 このアルコール消毒タオルは実家にいたときに作ったもので、入れ物は冒険者のギルドシートを収める金属筒を見て思いついたものだ。

 今のところ濃度の高いアルコールの精製やハーブの調合の過程で少し魔力に頼らざるを得ない。なのでロイド家で父上や母上に手伝ってもらって家族と使用人の分を毎日作っていた。

 王都に居る今ではシーアとノーラの分を含めてぼくが自分で作成している。

「とりあえず使ってみて。明日の朝、ラ・ジーオタイッソのときに新しいのと交換するから持ってきてね」

「それでは今日から使ってみますね。それで僕がこれを使った感想とか気づいたことを報告すればいいんですよね?」

「うん。もっと改良したいので良い点だけでなく、悪いところも遠慮なく言って欲しい」

 クラウスくんに金属筒を渡したところで第一回会議は終了の運びとなった。

 翌日。

 クラウスくんの評価はとても高かった。ラ・ジーオタイッソの間中、良い点を話してくれた。楽しそうに話すクラウスくんの様子をチラ見していたレイチェル嬢が、その日急遽女子会を開催。

 翌々日。

 ラ・ジーオタイッソの後、汗を拭くぼくシーアのところにレイチェル嬢がやってきて、

「あの……わたくしにも例の金属筒をお譲りいただけないかしら? できればわたくしの分とキャロルの分をお願いしたいのだけれど」

 昨日の女子会で、シーアとクラウスくんから金属筒について根ほり葉ほり聞いたらしい。二人の話にレイチェル嬢とキャロルも欲しくなったということのようだ。

 ふむ。

 どうやら将来は大顧客になりそうなモニターを獲得することができたみたいだ。もちろん二人にも金属筒を渡した。

 ぐふふ。儲けの匂いがプンプンしてきますなぁ。




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