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第四章 勇者支援学校編 ー 冒険者への道 ー
第55話 シーア vs シュモネー先生
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街のはずれにある墓場では剣戟による火花が飛び散っていた。
キンッ! キンッ!
シュモネー先生の刀がシーアの鋭い打ち込みを裁いていく。黒い刀身の【ロックカッター】は、シュモネー先生の武術師匠である剣鬼の愛刀を模したものだそうだ。
ガンッ!
シーアがつばぜり合いに持ち込むと、シュモネー先生の瞳に赤い炎が揺らめく。これは【炎の眼】と呼ばれるスキルで、その眼に宿った炎を見たものは恐怖に震え上がって動けなくなってしまうという効果がある。
バッとシーアが飛びのく。目の見えないシーアが一体何を感じたのかはわからないけれど明らかに動揺していた。腰砕けになってやたら滅法に剣を振り回し始める。
剣を振りぬいたところを狙ってシュモネー先生が素早くシーアに近づいて足を引っかける。そのまま押し倒してシーアが手放してしまった剣を蹴り飛ばす。
シーアが這いつくばりながら手あたり次第に周囲を探って剣を探す。いつものシーアなら剣の行く先を聞き逃すようなことはないはずだが、かなり同様しているためか見当違いの場所をバタバタと手で叩いていた。
間違いなく剣術はシュモネー先生の方が何段も上だった。さらにシュモネー先生が使ったスキルは目の見えないシーアにも有効であり、シーアのトラウマを刺激するに十分なものだったようだ。
雨が降り始めてきた。
剣に当たる雨音が手掛かりになったのかシーアは剣が横たわっている場所へ這いずって行きその柄を握る。しかし再び剣を構えたシーアは完全に及び腰になっており、その手の震えが剣先まで伝わっていた。
シュモネー先生の瞳が輝きを増す。その炎の揺らめきは色こそ違え、ぼくにはヴィドゴニアの瞳にしか見えなかった。前世でぼくやシーアが味わった恐怖を蘇らせるに十分なものだった。
間違いなくシーアもぼくと同じ恐怖を感じているのだろう。あの怯え様はそうとしか考えられない。
カキンッ!
シュモネー先生が容赦なくシーアに打ち掛かり、数度の打ち合いの末にシーアの剣をまた弾き飛ばす。
「シュモネー先生! もう止めてください! ヴィルフェリーシアさんはもう限界です!」
ずっと見ていたクラウスくんが、堪え切れずに絶叫する。
ぼくはと言えば……何も言えずに震えていた。声を出そうにも唇が震えてまともに言葉が出てこない。
シーアは飛ばされた剣を求めて地面を手探りしていた。
どうして……
どうしてこうなった……。
――――――
―――
―
遡ること1時間前。
宿に戻ったぼくたちは、シュモネー先生に詳しい事情を話した。
シーアが幼い頃にヴィドゴニアによって【見る】を奪われたこと。そのとき一緒にいた大事な友達も殺されてしまったこと。ぼくがシーアの【見る】を取り戻そうとしていること。そのために勇者支援学校に入ったこと。シーア自身はぼくがヴィドゴニアに関わることに反対であること……。
「……なるほど事情はわかりました」
シュモネー先生はぼくたちが話し終わるまで黙って聞いてくれた。
「ヴィルフェリーシアさん……グスッ……に、そんな大変なことが……ズビビッ……あったなんて……」
クラウスくんは目を真っ赤にして泣き腫らしていた。
「あなたたちは……」
シュモネー先生はそういって目を閉じ、そのまま黙り込んでしまった。
「……」
ふうっとため息をついてシュモネー先生はぼくを見ていった。
「どうせあなたは、何があってもヴィドゴニアを探し出してヴィルフェリーシアさんの【見る】を取り戻すつもりなのでしょう」
「はい」
ぼくの手を握っていたシーアの手がピクリと震える。いまさら隠してもしかたない。
「ヴィルフェリーシアさんがそれを望んでいなくても?」
「最後に決めるのはシーアです。ぼくはシーアがシーア自身で決断できるところまで連れて行きたい」
シュモネー先生が険しい目でぼくを睨みつけてきた。その目には強い殺意が込められているようにぼくは感じた。
体に震えが走る。
同時にぼくの手は剣の柄を握り締めていた。ぼくを邪魔するもの、シーアの【見る】を取り返すことを阻むものとは誰であろうと戦う。もしその行く先に敗北しかなかったとしてもそのときは戦って死ぬ。
もし戦う相手がシュモネー先生だったとしてもだ。
「ふむ」
シュモネー先生から一瞬にして殺気が消え、ぼくの目の前にはいつもの優しい笑顔が戻っていた。
「既に覚悟されているのですね」
シュモネー先生が今度はヴィルフェリーシアの前に立った。
「ヴィルフェリーシアさん……」
急に話しが自分に向いたことにシーアは驚き、緊張で尻尾が逆立っていた。
「はい」
「あなたがもし望まなかったとしても、キーストンさんはあなたの目を取り戻そうとするはずです。もしあなたがこのままヴィドゴニアの影に震え続けるのであれば、遠からずキーストンさんはその願いを叶えることなく死んでしまうでしょう」
「……」
「それがどのような死になるのかわかりません。でも今のままでは、間違いなくあなたは彼を守ることができないまま失ってしまう……」
シュモネー先生が再び鋭い眼でシーアをジロリと睨みつける。殺気を感じたのかシーアの身体がビクリと震えた。
「また失ってしまいますよ」
「!」
シーアの全身の毛が逆立ち身体が震え始める。シュモネー先生は怒りとも怯えとも見える複雑な表情をシーアに向けていた。
「い、いや、いやです! ぜ、ぜ、ぜったい……」
ワナワナと震える口を無理やり開いてシーアは叫んだ。
「嫌っ!!」
シーアの吐く怒気を当てられたシュモネー先生が目を見開いて驚く。しかし次の瞬間には涙を浮かべるシーアの手を取り優しい笑顔を向けていた。
「わかりました」
その恐怖を克服するためのお手伝いしましょう――とシュモネー先生が提案する。先生が軽い感じで言ったこともあって、クラウスくんは無邪気に喜んでシーアに『よかったね!』と声をかけていた。
しかし、ずっとシュモネー先生の目を見ていたぼくは、それがとてつもなく厳しいものになることを感じ取っていた。シュモネー先生は本気だ。その瞳の奥で静かに揺らめく炎を見たぼくは、これまでの自分の覚悟がいかに甘いものであったのかを理解しつつあった。
ぼくだけの覚悟が幾らあってもきっと足りない。ぼくはシーアの手を強く握る。ヴィドゴニアに立ち向かうには、ぼくたちの覚悟が必要なんだ。
ぼくの手をシーアは強く握り返してきた。
キンッ! キンッ!
シュモネー先生の刀がシーアの鋭い打ち込みを裁いていく。黒い刀身の【ロックカッター】は、シュモネー先生の武術師匠である剣鬼の愛刀を模したものだそうだ。
ガンッ!
シーアがつばぜり合いに持ち込むと、シュモネー先生の瞳に赤い炎が揺らめく。これは【炎の眼】と呼ばれるスキルで、その眼に宿った炎を見たものは恐怖に震え上がって動けなくなってしまうという効果がある。
バッとシーアが飛びのく。目の見えないシーアが一体何を感じたのかはわからないけれど明らかに動揺していた。腰砕けになってやたら滅法に剣を振り回し始める。
剣を振りぬいたところを狙ってシュモネー先生が素早くシーアに近づいて足を引っかける。そのまま押し倒してシーアが手放してしまった剣を蹴り飛ばす。
シーアが這いつくばりながら手あたり次第に周囲を探って剣を探す。いつものシーアなら剣の行く先を聞き逃すようなことはないはずだが、かなり同様しているためか見当違いの場所をバタバタと手で叩いていた。
間違いなく剣術はシュモネー先生の方が何段も上だった。さらにシュモネー先生が使ったスキルは目の見えないシーアにも有効であり、シーアのトラウマを刺激するに十分なものだったようだ。
雨が降り始めてきた。
剣に当たる雨音が手掛かりになったのかシーアは剣が横たわっている場所へ這いずって行きその柄を握る。しかし再び剣を構えたシーアは完全に及び腰になっており、その手の震えが剣先まで伝わっていた。
シュモネー先生の瞳が輝きを増す。その炎の揺らめきは色こそ違え、ぼくにはヴィドゴニアの瞳にしか見えなかった。前世でぼくやシーアが味わった恐怖を蘇らせるに十分なものだった。
間違いなくシーアもぼくと同じ恐怖を感じているのだろう。あの怯え様はそうとしか考えられない。
カキンッ!
シュモネー先生が容赦なくシーアに打ち掛かり、数度の打ち合いの末にシーアの剣をまた弾き飛ばす。
「シュモネー先生! もう止めてください! ヴィルフェリーシアさんはもう限界です!」
ずっと見ていたクラウスくんが、堪え切れずに絶叫する。
ぼくはと言えば……何も言えずに震えていた。声を出そうにも唇が震えてまともに言葉が出てこない。
シーアは飛ばされた剣を求めて地面を手探りしていた。
どうして……
どうしてこうなった……。
――――――
―――
―
遡ること1時間前。
宿に戻ったぼくたちは、シュモネー先生に詳しい事情を話した。
シーアが幼い頃にヴィドゴニアによって【見る】を奪われたこと。そのとき一緒にいた大事な友達も殺されてしまったこと。ぼくがシーアの【見る】を取り戻そうとしていること。そのために勇者支援学校に入ったこと。シーア自身はぼくがヴィドゴニアに関わることに反対であること……。
「……なるほど事情はわかりました」
シュモネー先生はぼくたちが話し終わるまで黙って聞いてくれた。
「ヴィルフェリーシアさん……グスッ……に、そんな大変なことが……ズビビッ……あったなんて……」
クラウスくんは目を真っ赤にして泣き腫らしていた。
「あなたたちは……」
シュモネー先生はそういって目を閉じ、そのまま黙り込んでしまった。
「……」
ふうっとため息をついてシュモネー先生はぼくを見ていった。
「どうせあなたは、何があってもヴィドゴニアを探し出してヴィルフェリーシアさんの【見る】を取り戻すつもりなのでしょう」
「はい」
ぼくの手を握っていたシーアの手がピクリと震える。いまさら隠してもしかたない。
「ヴィルフェリーシアさんがそれを望んでいなくても?」
「最後に決めるのはシーアです。ぼくはシーアがシーア自身で決断できるところまで連れて行きたい」
シュモネー先生が険しい目でぼくを睨みつけてきた。その目には強い殺意が込められているようにぼくは感じた。
体に震えが走る。
同時にぼくの手は剣の柄を握り締めていた。ぼくを邪魔するもの、シーアの【見る】を取り返すことを阻むものとは誰であろうと戦う。もしその行く先に敗北しかなかったとしてもそのときは戦って死ぬ。
もし戦う相手がシュモネー先生だったとしてもだ。
「ふむ」
シュモネー先生から一瞬にして殺気が消え、ぼくの目の前にはいつもの優しい笑顔が戻っていた。
「既に覚悟されているのですね」
シュモネー先生が今度はヴィルフェリーシアの前に立った。
「ヴィルフェリーシアさん……」
急に話しが自分に向いたことにシーアは驚き、緊張で尻尾が逆立っていた。
「はい」
「あなたがもし望まなかったとしても、キーストンさんはあなたの目を取り戻そうとするはずです。もしあなたがこのままヴィドゴニアの影に震え続けるのであれば、遠からずキーストンさんはその願いを叶えることなく死んでしまうでしょう」
「……」
「それがどのような死になるのかわかりません。でも今のままでは、間違いなくあなたは彼を守ることができないまま失ってしまう……」
シュモネー先生が再び鋭い眼でシーアをジロリと睨みつける。殺気を感じたのかシーアの身体がビクリと震えた。
「また失ってしまいますよ」
「!」
シーアの全身の毛が逆立ち身体が震え始める。シュモネー先生は怒りとも怯えとも見える複雑な表情をシーアに向けていた。
「い、いや、いやです! ぜ、ぜ、ぜったい……」
ワナワナと震える口を無理やり開いてシーアは叫んだ。
「嫌っ!!」
シーアの吐く怒気を当てられたシュモネー先生が目を見開いて驚く。しかし次の瞬間には涙を浮かべるシーアの手を取り優しい笑顔を向けていた。
「わかりました」
その恐怖を克服するためのお手伝いしましょう――とシュモネー先生が提案する。先生が軽い感じで言ったこともあって、クラウスくんは無邪気に喜んでシーアに『よかったね!』と声をかけていた。
しかし、ずっとシュモネー先生の目を見ていたぼくは、それがとてつもなく厳しいものになることを感じ取っていた。シュモネー先生は本気だ。その瞳の奥で静かに揺らめく炎を見たぼくは、これまでの自分の覚悟がいかに甘いものであったのかを理解しつつあった。
ぼくだけの覚悟が幾らあってもきっと足りない。ぼくはシーアの手を強く握る。ヴィドゴニアに立ち向かうには、ぼくたちの覚悟が必要なんだ。
ぼくの手をシーアは強く握り返してきた。
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