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第三章 勇者支援学校編 ー 基礎課程 ー
第50話 二人の仲は知らぬ間に
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基礎課程が終われば外出が自由にできるようになる。最初の休日に外出先として向かったのはシーク師匠の実家。なんとパン屋さんだ。学校から王都の中心部に向かって徒歩1時間の距離にある。
店舗は大きな広場に面しており、店前にはテーブルを置いてオープンカフェにもなっている。エ・ダジーマの入学前に一度訪れたことがあるが、人通りも多く繁盛していた印象だ。
「そもそも、シーク師匠とパン屋さんていうのがなかなか連想しにくいよね」
ぼくとシーアは先生のシーク師匠の実家に向かって二人で歩いている。ノーラは、ぼくが用意した手土産の果物を持って今朝早くに出発していた。一緒に行けばいいのにと言うと、
「生ものですから、早くお母さまにお渡しした方がよろしいかと思いまして」
と言い残してパタパタと駆け出していった。生ものって……確かに生ものではあるけれど、
お母さま……ねぇ。
「さっさと師匠とくっついちゃえばいいのに」
「あとはシーク様次第ですね」
「師匠次第かぁ」
隣に並んで歩くシーアを見上げると、そこには大きな乳袋と整ったシーアの横顔があった。この角度から見るシーアも超好き。
ぼくが彼女の手を握る力を少し強くすると、シーアは華麗に足元の水たまりを飛び越える。長いスカートが一瞬ふわっと広がって、そのまま着地した。
学校内ではシーアはぼくの腕を掴むようにして歩いているが、ぼくたちにとっては二人が一番歩きやすいスタイルは手をつなぐことだった。
物心ついてからずっとシーアとは手をつないで歩いていると言ってもいいくらいだ。今ではお互いの手の握り方でかなりの意志疎通ができるようになっている。
(シーア、足元に水たまりがあるよ、ちょっとジャンプして)
(わかりました)
(今だよ!)
なんて会話が手の握り方や力加減だけで成立するのだ。もちろんシーアがぼくの腕を取っている状態でもある程度の意志疎通はできる。
そのまま歩き続けていると約100メートル先まで障害物がない広い道に出た。ちょっとイタズラがしたくなったぼくはシーアの手をにぎにぎする。
ニギッ(シーア好き!)
ニギッ(シーア好き!)
ニギッニギッ(シーア大好き!)
「ムフーっ!」
シーアの頭から蒸気が音を立てて噴き出した……ように見えた。次の瞬間、シーアはぼくを後ろから抱え上げギューッとしたままスタスタスタスタと歩いて進む。
スタスタ歩きで約100メートルを進んだところで、シーアにストップをかけて降ろしてもらう。全力でスタスタしたシーアは今では落ち着きを取り戻していた。
ここまで体感10秒。スタスタ歩きで世界を狙えるぞシーア! まぁ元の世界基準でだけど。
――――――
―――
―
パン屋さんにつくと、シーク師匠のご両親がわざわざ店先で出迎えてくれた。ノーラと師匠は店内でお客様の相手をしている。
「キース坊ちゃま、わざわざ遠くまでお越しいただきありがとうございます」
「坊ちゃま、基礎課程修了おめでとうございます」
「いや、単に半年過ぎただけだよ。でもありがとう!」
テーブルに着くと、店内からノーラが大きなタルトケーキを持ってぼくの前に置いた。
たっぷりのクリームで覆われたケーキには、季節のフルーツが贅沢に盛られており、さらに上からベリー系のフルーツソースがかけられていた。見た目だけでおいしいことが確信できる。
「凄い! すごく美味しそうなケーキだね! これ食べていいの?」
「もちろんですよ。坊ちゃんのためにノーラと一緒に作ったんです」
「師匠が!?」
師匠とノーラもぼくのところにやってきた。それにしても師匠がケーキ作りなんて、想像の遥か斜め上のサプライズだった。
「美味しい! 美味しい! このケーキ、すごく美味しいねシーア!」
「はい! とっても美味しいです!」
ぼくたちはケーキを堪能しながら大はしゃぎする。その騒がしさに何事かと通りを歩く人がこちらを見る。
その中でパンの匂いにひかれて店内に入っていくもの、銀髪巨乳の美人が目に入ってついふらふらとシーアの近くのテーブルでケーキとお茶を注文するもの、そんな感じで客が増えていった。
忙しくなり始めたので、シーク師匠のご両親とノーラが店内へと戻っていく。
「ノーラ、なじんでるね」
「坊ちゃまのお世話もあるでしょうに、うちの手伝いまでさせてしまって申し訳ありません」
「ううん。師匠といるときが一番楽しそうだし、まったく問題ないよ」
「ノーラが出かけるときはいつも機嫌がいいですね」
「いつもノーラが手伝ってくれて助かると親父やおふくろも喜んでますよ。それに毎日うちのパンを買ってまでいただいて、本当にありがとうございます」
ん? 毎日!? そういえば貴族寮の部屋にはいつでもパンやケーキが用意されていたけど、ノーラが毎日ここまで買いに来ていたのか。
毎日二時間の往復……もしかするとエ・ダジーマの男組より足腰強いかもしれない。
「あとは師匠がノーラのご両親に気に入られれば完璧だね」
「ご挨拶したときには、娘をよろしくとは言っていただけましたが……どうなんでしょうね」
そう言って師匠は少し頭を掻いて照れ隠しする。
(なにその「まんざらでもない」って顔!?)
師匠をちょっとからかって言っただけなのに、予想の斜め上の答えが返ってきた。ん? ノーラの実家は王都からもロイド領からもめちゃくちゃ遠いんですが!? いつの間にそんな重要イベントが発生してたの!?
驚きのあまり目をパチパチさせながら、視線をシーアに向けて「どういうこと!?」と脳内に直接尋ねるてみたが、当然シーアはそれに気づくこともなくケーキをパクパクと口に運んでいた。
店舗は大きな広場に面しており、店前にはテーブルを置いてオープンカフェにもなっている。エ・ダジーマの入学前に一度訪れたことがあるが、人通りも多く繁盛していた印象だ。
「そもそも、シーク師匠とパン屋さんていうのがなかなか連想しにくいよね」
ぼくとシーアは先生のシーク師匠の実家に向かって二人で歩いている。ノーラは、ぼくが用意した手土産の果物を持って今朝早くに出発していた。一緒に行けばいいのにと言うと、
「生ものですから、早くお母さまにお渡しした方がよろしいかと思いまして」
と言い残してパタパタと駆け出していった。生ものって……確かに生ものではあるけれど、
お母さま……ねぇ。
「さっさと師匠とくっついちゃえばいいのに」
「あとはシーク様次第ですね」
「師匠次第かぁ」
隣に並んで歩くシーアを見上げると、そこには大きな乳袋と整ったシーアの横顔があった。この角度から見るシーアも超好き。
ぼくが彼女の手を握る力を少し強くすると、シーアは華麗に足元の水たまりを飛び越える。長いスカートが一瞬ふわっと広がって、そのまま着地した。
学校内ではシーアはぼくの腕を掴むようにして歩いているが、ぼくたちにとっては二人が一番歩きやすいスタイルは手をつなぐことだった。
物心ついてからずっとシーアとは手をつないで歩いていると言ってもいいくらいだ。今ではお互いの手の握り方でかなりの意志疎通ができるようになっている。
(シーア、足元に水たまりがあるよ、ちょっとジャンプして)
(わかりました)
(今だよ!)
なんて会話が手の握り方や力加減だけで成立するのだ。もちろんシーアがぼくの腕を取っている状態でもある程度の意志疎通はできる。
そのまま歩き続けていると約100メートル先まで障害物がない広い道に出た。ちょっとイタズラがしたくなったぼくはシーアの手をにぎにぎする。
ニギッ(シーア好き!)
ニギッ(シーア好き!)
ニギッニギッ(シーア大好き!)
「ムフーっ!」
シーアの頭から蒸気が音を立てて噴き出した……ように見えた。次の瞬間、シーアはぼくを後ろから抱え上げギューッとしたままスタスタスタスタと歩いて進む。
スタスタ歩きで約100メートルを進んだところで、シーアにストップをかけて降ろしてもらう。全力でスタスタしたシーアは今では落ち着きを取り戻していた。
ここまで体感10秒。スタスタ歩きで世界を狙えるぞシーア! まぁ元の世界基準でだけど。
――――――
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パン屋さんにつくと、シーク師匠のご両親がわざわざ店先で出迎えてくれた。ノーラと師匠は店内でお客様の相手をしている。
「キース坊ちゃま、わざわざ遠くまでお越しいただきありがとうございます」
「坊ちゃま、基礎課程修了おめでとうございます」
「いや、単に半年過ぎただけだよ。でもありがとう!」
テーブルに着くと、店内からノーラが大きなタルトケーキを持ってぼくの前に置いた。
たっぷりのクリームで覆われたケーキには、季節のフルーツが贅沢に盛られており、さらに上からベリー系のフルーツソースがかけられていた。見た目だけでおいしいことが確信できる。
「凄い! すごく美味しそうなケーキだね! これ食べていいの?」
「もちろんですよ。坊ちゃんのためにノーラと一緒に作ったんです」
「師匠が!?」
師匠とノーラもぼくのところにやってきた。それにしても師匠がケーキ作りなんて、想像の遥か斜め上のサプライズだった。
「美味しい! 美味しい! このケーキ、すごく美味しいねシーア!」
「はい! とっても美味しいです!」
ぼくたちはケーキを堪能しながら大はしゃぎする。その騒がしさに何事かと通りを歩く人がこちらを見る。
その中でパンの匂いにひかれて店内に入っていくもの、銀髪巨乳の美人が目に入ってついふらふらとシーアの近くのテーブルでケーキとお茶を注文するもの、そんな感じで客が増えていった。
忙しくなり始めたので、シーク師匠のご両親とノーラが店内へと戻っていく。
「ノーラ、なじんでるね」
「坊ちゃまのお世話もあるでしょうに、うちの手伝いまでさせてしまって申し訳ありません」
「ううん。師匠といるときが一番楽しそうだし、まったく問題ないよ」
「ノーラが出かけるときはいつも機嫌がいいですね」
「いつもノーラが手伝ってくれて助かると親父やおふくろも喜んでますよ。それに毎日うちのパンを買ってまでいただいて、本当にありがとうございます」
ん? 毎日!? そういえば貴族寮の部屋にはいつでもパンやケーキが用意されていたけど、ノーラが毎日ここまで買いに来ていたのか。
毎日二時間の往復……もしかするとエ・ダジーマの男組より足腰強いかもしれない。
「あとは師匠がノーラのご両親に気に入られれば完璧だね」
「ご挨拶したときには、娘をよろしくとは言っていただけましたが……どうなんでしょうね」
そう言って師匠は少し頭を掻いて照れ隠しする。
(なにその「まんざらでもない」って顔!?)
師匠をちょっとからかって言っただけなのに、予想の斜め上の答えが返ってきた。ん? ノーラの実家は王都からもロイド領からもめちゃくちゃ遠いんですが!? いつの間にそんな重要イベントが発生してたの!?
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