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第三章 勇者支援学校編 ー 基礎課程 ー
第47話 スライム
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ボルグル先生は、教師になる前は冒険者として王国を渡り歩いていた。討伐系のクエストをメインとしていたので、倒してきた魔物は数多い。当然、魔物についての造詣も深い。
ボルグル先生の授業は実際の魔物を使って行われる。リアルな魔物を前に実践的な
知識を得られるため、基礎課程以外のボルグル先生の講座も大人気だった。
ちなみに授業で使う魔物の確保は、基本的に授業の課題として上級生たちによって行われる。今日の授業で使われるスライムも、上級生が課外授業で森林を駆け回って捕まえてきたものだ。
ボルグル先生とぼくたちのクラスは修練場に集まっていた。ボルグル先生の隣にはクラス付きのがたいの良い奴隷が大きな壺を足元に置いて立っている。
「よし、ドナレス。壺をひっくり返せ!」
ドナレスと呼ばれた奴隷が壺の蓋を取って横に倒すと、中から重油の粘度をさらにあげたような液体がトロリとこぼれ出てきた。
パッと見た限りでは粘度を持った汚水のように見えるけれど、液体と違って何か違和感がある。
ニュッ。
液体の一部が盛り上って、その部分から液体が細い筋となって流れていく。最初は細かったその筋の先端に本体から徐々に液が流れて膨らんでいく。
「「「おおー」」」
この液体……生きてる! そりゃスライムだから当然だけど。わかっていても驚いてしまう。気味悪いけど、まぁカワイイ……気がしないでも……。
クラス全員がスライムに近づいて興味深げに観察し始めた。ぼくと同じように感じた人もいて「キモカワイイかも」なんて声も聞こえてくる。
スライムはそんなことを気にする様子もなく、また一本の筋を伸ばして少しずつ移動を続ける。液体の本体が移動した後には骨だけになった小動物の遺骸が残されていた。
「「「ひぃぃぃ」」」
生徒全員が一斉にバッと飛びのいた。
「これがスライムに喰われた奴の末路だ。よく目に焼き付けておけ」
何これ!? スライム怖い!
「諸君のほとんどがこのような魔物を見るのは初めてだろう。君たちが暮らしていた人間の世界ではまず見ることはない。王国の長い歴史の中で人の住む地域のほとんどが浄化され、こうした魔物は排除されている」
ボルグル先生は、たいまつに火を付けてスライムに近づけると、液体は火を避けるように移動していく。先程よりもわずかにスピードが速くなっている。
「人のいる場所に魔物が迷い込んだ場合でも、速やかに軍や冒険者たちによって駆除されている。君たちが魔物に出会うことなく今まで無事でこられたのは王国の庇護があってのことだということを忘れないように。そして……」
ボルグル先生がスライムにたいまつを押し付けると、ジュッと音がしてその部分が蒸発して消えた。
先生がさらにスライムにたいまつを押し付けていくが火は全く衰えることはない。スライムの水分が蒸発するというより、火の当たった部分が文字通り「消滅」していく感じだった。
「人の世界を一歩でも出れば、こうした魔物が当たり前のようにいる。王国内であっても、人里を離れた深い山や森――特に夜は彼らの世界だ」
「こ、こういうのがたくさんいますの?」
レイチェル嬢の顔が青ざめていた。魔獣などを相手にするならば、彼女は勇敢に立ち向かっていくだろうと思うけど、どうもスライムは生理的に受け付けなかったらしい。
ニュルッ。
たいまつを離してスライムを放置していると、ゆっくりと移動を再開していた。ずっと観察していた生徒のひとりが嫌なことに気が付く。
「こいつ、僕たちの方に動いてない!?」
「よく気が付いたな。そうスライムは人間の体温や魔力を感知して近づいてくる。蛭と同じだ。気味が悪い点では両方同じだが、蛭は獲物の血を吸うだけだが、こいつは丸ごと消化してくるぞ」
「「「ひぃぃぃぃ」」」
ぼくを含めた全員が一斉にスライムからさらに距離をとった。
「怖がり過ぎだ。目に見えている限りこいつは脅威ではない。火や塩あるいは聖灰で簡単に駆除することができる。浄化系の魔法も有効だし、指先の大きさまで細かく散らせば活動を停止する」
そういって先生が剣を抜いてスライムの一部を小さく切り取ると、小さく分断された方が動かなくなった。
「試すのはお勧めしないが、諸君の胃液の方がこいつらよりも強力だ。東方の国ではこいつを料理して喰ったり、薬にしたりすることもあるらしい」
「「「うげぇ」」」
「見えている限り脅威ではないと言ったが、そうじゃない場合こいつはドラゴンよりもやっかいだぞ。これにやられた冒険者の死因の一番は、寝ているところに顔に張り付かれるというものだ」
「ひぃぃぃ」
レイチェル嬢が普段の威厳をどこかに置き忘れたまま全力で後ずさる。だがみんな同じ気持ちだっただろう。
「だから野営するときは、必ず周りをラヴェンナ神の【祝福の輪】で囲むことを忘れないように。浄化された輪の中にこいつは入ってこれない。それに輪に近づくこともないからな」
そういうとボルグル先生は、たいまつの火を使ってスライムを完全に消滅させた。
「では、今日の授業は以上だ」
スライム怖い……。
アンゴール帝国ではこいつらとも共存しているのだろうか、今度シュモネー先生に聞いてみよう。そういえば東方ではスライムを料理にしていると言ってたけど、どんな風に調理するのかな。
そろそろ昼食の時間だったので空腹を感じていたぼくは、ついそんなことを考えてしまった。
スライムよりも空腹の方が恐ろしいということかもしれない。
ボルグル先生の授業は実際の魔物を使って行われる。リアルな魔物を前に実践的な
知識を得られるため、基礎課程以外のボルグル先生の講座も大人気だった。
ちなみに授業で使う魔物の確保は、基本的に授業の課題として上級生たちによって行われる。今日の授業で使われるスライムも、上級生が課外授業で森林を駆け回って捕まえてきたものだ。
ボルグル先生とぼくたちのクラスは修練場に集まっていた。ボルグル先生の隣にはクラス付きのがたいの良い奴隷が大きな壺を足元に置いて立っている。
「よし、ドナレス。壺をひっくり返せ!」
ドナレスと呼ばれた奴隷が壺の蓋を取って横に倒すと、中から重油の粘度をさらにあげたような液体がトロリとこぼれ出てきた。
パッと見た限りでは粘度を持った汚水のように見えるけれど、液体と違って何か違和感がある。
ニュッ。
液体の一部が盛り上って、その部分から液体が細い筋となって流れていく。最初は細かったその筋の先端に本体から徐々に液が流れて膨らんでいく。
「「「おおー」」」
この液体……生きてる! そりゃスライムだから当然だけど。わかっていても驚いてしまう。気味悪いけど、まぁカワイイ……気がしないでも……。
クラス全員がスライムに近づいて興味深げに観察し始めた。ぼくと同じように感じた人もいて「キモカワイイかも」なんて声も聞こえてくる。
スライムはそんなことを気にする様子もなく、また一本の筋を伸ばして少しずつ移動を続ける。液体の本体が移動した後には骨だけになった小動物の遺骸が残されていた。
「「「ひぃぃぃ」」」
生徒全員が一斉にバッと飛びのいた。
「これがスライムに喰われた奴の末路だ。よく目に焼き付けておけ」
何これ!? スライム怖い!
「諸君のほとんどがこのような魔物を見るのは初めてだろう。君たちが暮らしていた人間の世界ではまず見ることはない。王国の長い歴史の中で人の住む地域のほとんどが浄化され、こうした魔物は排除されている」
ボルグル先生は、たいまつに火を付けてスライムに近づけると、液体は火を避けるように移動していく。先程よりもわずかにスピードが速くなっている。
「人のいる場所に魔物が迷い込んだ場合でも、速やかに軍や冒険者たちによって駆除されている。君たちが魔物に出会うことなく今まで無事でこられたのは王国の庇護があってのことだということを忘れないように。そして……」
ボルグル先生がスライムにたいまつを押し付けると、ジュッと音がしてその部分が蒸発して消えた。
先生がさらにスライムにたいまつを押し付けていくが火は全く衰えることはない。スライムの水分が蒸発するというより、火の当たった部分が文字通り「消滅」していく感じだった。
「人の世界を一歩でも出れば、こうした魔物が当たり前のようにいる。王国内であっても、人里を離れた深い山や森――特に夜は彼らの世界だ」
「こ、こういうのがたくさんいますの?」
レイチェル嬢の顔が青ざめていた。魔獣などを相手にするならば、彼女は勇敢に立ち向かっていくだろうと思うけど、どうもスライムは生理的に受け付けなかったらしい。
ニュルッ。
たいまつを離してスライムを放置していると、ゆっくりと移動を再開していた。ずっと観察していた生徒のひとりが嫌なことに気が付く。
「こいつ、僕たちの方に動いてない!?」
「よく気が付いたな。そうスライムは人間の体温や魔力を感知して近づいてくる。蛭と同じだ。気味が悪い点では両方同じだが、蛭は獲物の血を吸うだけだが、こいつは丸ごと消化してくるぞ」
「「「ひぃぃぃぃ」」」
ぼくを含めた全員が一斉にスライムからさらに距離をとった。
「怖がり過ぎだ。目に見えている限りこいつは脅威ではない。火や塩あるいは聖灰で簡単に駆除することができる。浄化系の魔法も有効だし、指先の大きさまで細かく散らせば活動を停止する」
そういって先生が剣を抜いてスライムの一部を小さく切り取ると、小さく分断された方が動かなくなった。
「試すのはお勧めしないが、諸君の胃液の方がこいつらよりも強力だ。東方の国ではこいつを料理して喰ったり、薬にしたりすることもあるらしい」
「「「うげぇ」」」
「見えている限り脅威ではないと言ったが、そうじゃない場合こいつはドラゴンよりもやっかいだぞ。これにやられた冒険者の死因の一番は、寝ているところに顔に張り付かれるというものだ」
「ひぃぃぃ」
レイチェル嬢が普段の威厳をどこかに置き忘れたまま全力で後ずさる。だがみんな同じ気持ちだっただろう。
「だから野営するときは、必ず周りをラヴェンナ神の【祝福の輪】で囲むことを忘れないように。浄化された輪の中にこいつは入ってこれない。それに輪に近づくこともないからな」
そういうとボルグル先生は、たいまつの火を使ってスライムを完全に消滅させた。
「では、今日の授業は以上だ」
スライム怖い……。
アンゴール帝国ではこいつらとも共存しているのだろうか、今度シュモネー先生に聞いてみよう。そういえば東方ではスライムを料理にしていると言ってたけど、どんな風に調理するのかな。
そろそろ昼食の時間だったので空腹を感じていたぼくは、ついそんなことを考えてしまった。
スライムよりも空腹の方が恐ろしいということかもしれない。
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