うっかり女神の転生ミスで勇者になれなかったし、もうモブ転生でゴールしてもいいんだよね?

帝国妖異対策局

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第三章 勇者支援学校編 ー 基礎課程 ー

第38話 魔王討伐絵図

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 今から約二百年前、北方の地に突如として現れた魔王が無数の魔物を率いてゴンドワルナ大陸の国々を侵攻し始めた。

 稲妻のように素早く拡大し続ける勢力に人々は恐れおののき、なかには自ら進んで魔王軍に協力するものまで出始めていた。

 侵攻してきた魔王軍に対して、一切抵抗することなく国を明け渡した悪魔王エノクの話は有名だ。

 自らの命と財産を守るために、魔王軍が自分の王国を蹂躙するのに協力した王は、その罪業の深さ故に身体までもが悪魔のように変化してしまったと言われている。

 ラヴェンナ神の導きにより勇者が現れて魔王が倒された後、エノクは怒れる民衆によって打ち倒されたと言われている。その後エノクの国は、ボルヤーグ連合王国に組み込まれて完全に消滅した。

 魔王が滅びたからといって魔物がこの世界から消えてなくなるわけでもなく、その後も数十年にわたって厳しい戦いは続いた。魔王が残した爪痕は今なおこの大陸のあちこちに暗い影を落としている。

「魔王が魔王たるもっと恐ろしい理由は、勇者以外に打ち倒すことができないということです!」

 アンリ先生が魔王の恐ろしさを強調しようと、一生懸命に声を上げて教卓をパンっと叩く。強く叩いたせいで痺れた手をワキワキする。うっすら涙目がもう可愛い。

「勇者よりも武技や魔術に優れたものが、何度も魔王を追い詰めて止めを刺しました。刺したはずでした。しかし、魔王は地獄の業炎で焼かれようとも、灰の中から再び立ち上がってきたと言われています」

 アンリ先生はその恐ろしさを表現しようと、自分の身体を両腕で抱きプルプルと震えてみせる。超可愛い。

「慈愛溢れる美しきラヴェンナ神により使命を授かった勇者ナインが、聖剣ロックスライサーで魔王の首を落とすまで、何人も魔王の命を終わらせることはできなかったのです!」

 怖がらせたいという気持ちは十分に伝わってくるものの、どこからどうみてもただ可愛いだけのアンリ先生だった。

 しかも、そんな話はエ・ダジーマの全生徒どころか、ほとんどの王国民が子どもの頃から何度も聞かされている話だし。

「先生! 勇者が鬼人族だったというのは本当なんですか!?」

 キャロルがアンリ先生に手を振りながら質問する。

「本当のところはわかりません。現在、残されている文献には『二本の角』があったと記されていることから鬼人族ではないかと言われています」

 アンリ先生が両手の人差し指を頭に当ててぴこぴこと動かし、二本の角を表現する。何しても可愛い。

「しかし、大聖堂に奉納されている百五十年前に描かれた魔王討伐絵図では、勇者は二本角の兜をかぶっている状態となっています。また当の鬼人族には、彼らの間から勇者が出たという伝承は残っていません」

 コホンッとアンリ先生はいったん話を止める。コホン可愛い。

「そもそも勇者は女性だったという話もありますよ。先生としては、今のように曖昧なままでもいいのではないかと思ってます。鬼人族が勇者だったという説は、鬼人だけでなく獣人や他の亜人にとって誇らしいものと思われているようですし、女性だったという説も同じです」

「ええっ!? 勇者って女だったの?」

 どうやら知らなかったらしいキャロルや他の女生徒がザワザワと騒ぐ。

「あくまでそういう説があるというだけです。でも先生は勇者女性説を子どもの頃に聞いて、それに憧れているうちに、いまはこうして勇者支援学校で先生をしていますよ」

 女生徒たちにドヤッという顔を決める先生。可愛ええ。

「勇者が女性だったら素敵じゃない?」
「女で鬼人かも知れないぞ」
「それうちのかーちゃんだわ」
 
 生徒が騒ぐのをしばらくそのままにして、自然と静まるのを待ってからアンリ先生は授業を続けた。

 勇者が女性だったかもしれない説は、キャロルの関心をたいそう強く掴んだらしく、その後の先生のお話にいつになく真剣に耳を傾けていた。

――――――
―――


「キース様! ちょっとこっちに来て!」

 ぼくが貴族寮へ帰ろうと廊下を歩いているときに、キャロルが走り寄ってきて壁の隅にひっぱり込む。

「な、なにごと!?」
「ねぇねぇ、キース。お願いが……」
「よしわかった」

 赤毛の可愛い女の子に上目遣いのひそひそ声でお願いされたら、その時点でもう返事は決まっているじゃないか。

「――って、まだ何も言ってないじゃない! なに先に返事してるのよ!」

 誰にも聞かれたくないのかキャロルは、ぼくの耳元で抗議した。まさかこの世界で美少女の耳元ささやきボイスが楽しめるとは。

「もう一回お願い」
「なにが!? ――って、もう! とにかくわたしの話を聞きなさい! ほら耳を貸して」

 ぼくの耳をギューッとキャロルがひっぱって、ひそひそと話をし始めた。こんなところ誰かに見られたら逆に目立つし、聞き耳が立つんじゃないかと思ったけど、ぼく的には何の問題もない。

「あのね。先生が話していた魔王討伐絵図。あれって大聖堂にあるんでしょ?」
「あるね」

「あるね――って、あんた見たことあるの?」
「以前、王都に来たときにチラッと」

 前世のウルス王時代にも何度か……とまでは言わない。

「あれ、あたしも見たいの! 連れてって!」
 
 連れてってと言われましても……。




☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆*:.。. o(≧▽≦)o  
【 関連話 】
※エノク王
終わりの国のコメディアン 
https://www.alphapolis.co.jp/novel/362159105/618625003
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