うっかり女神の転生ミスで勇者になれなかったし、もうモブ転生でゴールしてもいいんだよね?

帝国妖異対策局

文字の大きさ
上 下
34 / 92
第三章 勇者支援学校編 ー 基礎課程 ー

第33話 シーアの幸せサンド

しおりを挟む
 変わり者貴族と盲目のお世話人の噂によって、当然ながらぼくたちは悪目立ちするようになってしまった。しかし、そのおかげで貴族連中からは自然と距離が取られるようになってもいる。

「シーア、いまから剣術の練習に付き合ってよ!」
「かしこまりました」

 時折、修練場の一角を借りてぼくはシーアに剣術を教わっている。もちろん僕自身の剣術スキルを上げるためではあるけれど、それ以外にも目的があった。

 そのひとつが物珍しそうにぼくたちを見物するために集まってきたギャラリーだ。

 盲目のシーアがしずしずとぼくの肘を掴んで歩く姿を見た人は、まず彼女をか弱い存在だと判断する。

 それだけなら問題はないのだけれど、か弱いというだけでなく巨乳の美人とくれば、不埒な考えを持つ連中が出てくるのは当然といえば当然のことだ。
 
 カンッ! カンッ!
 木剣がぶつかる音が修練場に響き渡る。

「キース様、右がガラ空きです!」

 パシッと音がしてぼくの右わきにシーアの木剣が入る。音は派手だけど、実はそれほど痛くない。

「だ、大丈夫ですか?」
「全然平気だよ! さすがシーア!」

 と言いつつ同時にぼくはシーアに木剣を振るったけど軽く躱されてしまった。

 シーアは剣術においても相当な腕を持っている。ぼくも、エ・ダジーマに来る前から、先生やシーアに稽古をつけてもらっていたけれど、ぼくの木剣がシーアの身体に当ったことは一度もない。

「すげぇな、あの亜人。相当の手練れだぜ」
「相手がヘタレ過ぎるからそう見えるんじゃないの?」

「あの剣筋、かなりの手練れですな」
「もしあなたが相手したらどうなの?」
「おそらく勝つことはできるでしょうが、油断は一切できないですな」

「あのメイド、目が見えないんだってさ」
「えぇ!? 嘘だろ!?」

 ぼくたちの稽古を見てあれこれと外野がおしゃべりをする。

「シーア!」

 ぼくの声のトーンからその意図を察したシーアが、半開きだった目を完全に閉じる。そのままぼくは気合と共に強くシーアに連続して打ち掛かっていくが、それはすべてあっさりと捌かれてしまう。

「ほんとだ!? あのメイド、目を閉じたまま剣を受けてやがる!」
「さっきから沢山動いているのに汗ひとつかいてないわ」
「あの揺れがたまらん。朝食三杯はいける」
 
 ギャラリーの中から不穏な発言も聞こえてきたが、ともかくこの立ち合いを見たもので今後シーアを見くびるようなおバカさんはいないだろう。

「それじゃ、今日はこの辺にして部屋に戻ろうか」
「はい」

 剣の練習を終えて、部屋へ戻ろうとするとギャラリーの中から何人かがぼくたちに声をかけてくる。いつものことだ。

「お疲れ様です。ロイド様、ヴィルフェリーシアさん。いつもながら鋭い太刀筋ですね。できれば私もヴィルフェリーシアさんにご教授いただきたいものです」

「すごく素敵でしたわ、お姉さまとお呼びさせていただいても?」
 
 近づいてくる連中の目的はシーアと少しでもお近づきになることだ。なかにはそのためにまずぼくと仲良くなろうと考えるものもいたりする。

「ありがとうございます。それでは急ぎますので失礼致します」

 シーアはいつものように塩対応だ。大抵のものはこれでそそくさと退散するが、なかには変わりものもいて、ハイライトオフで半開きの目から放たれる威圧感と人を寄せ付けない冷たい声がたまらないと、今では常連まで生まれつつあった。

 部屋へ戻るとシーアがお湯と着替えを用意してくれたので、ぼくは体の汗を拭ってさっぱりする。

「そういえばノーラはどこにいるの?」

「今は買い出しに、ついでにシーク様のところに寄って来るとのことでした」

「シーク師匠に会う。そのついでに買い出しね。特に用事もないからいいや」

 同じ黒髪黒目のラブラブカップルを見ると、どうしても元の世界で獲得していたマスタースキル【リア充爆発しろ】が発動しそうになる。

 けど、ぼくにとってはノーラは大切な家族の一員だし、シーク師匠はぼくに魔法弓を教えてくれた恩師だ。

「さっさとくっついて結婚しちゃえばいいのに……」

「きっとそうなりますよ。シーク様もノーラを好ましく思っていらっしゃるようですし、あとは時間の問題ですね」

 シーアの尻尾がパタパタ揺れる。他人の恋バナでも楽しいものなのだろう、シーアは自分がノーラから聞かされたシーク師匠とのイチャラブエピソードをぼくに語り始めた。

「そうなのかー。まぁお似合いの二人ではあるよね」

 ぼくはといえば、他人の恋愛沙汰にはまったく興味はないけれど、シーアが楽しそうに話すのはとても楽しいので、膝枕をしてもらいながらシーアの声に耳を傾ける。
 
「それでですね。ノーラったらシーク様に甘え過ぎて……」

「そりゃ師匠もびっくりしただろうね」

「ええ。でもそのおかげで、二人の距離がいっきに縮んだってノーラが言ってました。でもそれだけじゃないんですよ、この前だって……」

 いつまでも聞いていたいシーアの声。後頭部に感じるシーアの柔らかいふとももと、視界を圧倒する巨大な乳袋による幸せサンドに挟まれて、いつの間にかぼくは眠りに落ちてしまっていた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

領地育成ゲームの弱小貴族 ~底辺から前世の知識で国強くしてたらハーレムできてた~

黒おーじ
ファンタジー
16歳で弱小領地を継いだ俺には前世の記憶があった。ここは剣と魔法の領地育成系シュミレーションゲームに似た世界。700人の領民へ『ジョブ』を与え、掘削や建設の指令を出し、魔境や隣の領土を攻めたり、王都警護の女騎士やエルフの長を妻にしたりと領地繁栄に努めた。成長していく産業、兵力、魔法、資源……やがて弱小とバカにされていた辺境ダダリは王国の一大勢力へと上り詰めていく。 ※ハーレム要素は無自覚とかヌルいことせずにガチ。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...