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第三章 勇者支援学校編 ー 基礎課程 ー
第33話 シーアの幸せサンド
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変わり者貴族と盲目のお世話人の噂によって、当然ながらぼくたちは悪目立ちするようになってしまった。しかし、そのおかげで貴族連中からは自然と距離が取られるようになってもいる。
「シーア、いまから剣術の練習に付き合ってよ!」
「かしこまりました」
時折、修練場の一角を借りてぼくはシーアに剣術を教わっている。もちろん僕自身の剣術スキルを上げるためではあるけれど、それ以外にも目的があった。
そのひとつが物珍しそうにぼくたちを見物するために集まってきたギャラリーだ。
盲目のシーアがしずしずとぼくの肘を掴んで歩く姿を見た人は、まず彼女をか弱い存在だと判断する。
それだけなら問題はないのだけれど、か弱いというだけでなく巨乳の美人とくれば、不埒な考えを持つ連中が出てくるのは当然といえば当然のことだ。
カンッ! カンッ!
木剣がぶつかる音が修練場に響き渡る。
「キース様、右がガラ空きです!」
パシッと音がしてぼくの右わきにシーアの木剣が入る。音は派手だけど、実はそれほど痛くない。
「だ、大丈夫ですか?」
「全然平気だよ! さすがシーア!」
と言いつつ同時にぼくはシーアに木剣を振るったけど軽く躱されてしまった。
シーアは剣術においても相当な腕を持っている。ぼくも、エ・ダジーマに来る前から、先生やシーアに稽古をつけてもらっていたけれど、ぼくの木剣がシーアの身体に当ったことは一度もない。
「すげぇな、あの亜人。相当の手練れだぜ」
「相手がヘタレ過ぎるからそう見えるんじゃないの?」
「あの剣筋、かなりの手練れですな」
「もしあなたが相手したらどうなの?」
「おそらく勝つことはできるでしょうが、油断は一切できないですな」
「あのメイド、目が見えないんだってさ」
「えぇ!? 嘘だろ!?」
ぼくたちの稽古を見てあれこれと外野がおしゃべりをする。
「シーア!」
ぼくの声のトーンからその意図を察したシーアが、半開きだった目を完全に閉じる。そのままぼくは気合と共に強くシーアに連続して打ち掛かっていくが、それはすべてあっさりと捌かれてしまう。
「ほんとだ!? あのメイド、目を閉じたまま剣を受けてやがる!」
「さっきから沢山動いているのに汗ひとつかいてないわ」
「あの揺れがたまらん。朝食三杯はいける」
ギャラリーの中から不穏な発言も聞こえてきたが、ともかくこの立ち合いを見たもので今後シーアを見くびるようなおバカさんはいないだろう。
「それじゃ、今日はこの辺にして部屋に戻ろうか」
「はい」
剣の練習を終えて、部屋へ戻ろうとするとギャラリーの中から何人かがぼくたちに声をかけてくる。いつものことだ。
「お疲れ様です。ロイド様、ヴィルフェリーシアさん。いつもながら鋭い太刀筋ですね。できれば私もヴィルフェリーシアさんにご教授いただきたいものです」
「すごく素敵でしたわ、お姉さまとお呼びさせていただいても?」
近づいてくる連中の目的はシーアと少しでもお近づきになることだ。なかにはそのためにまずぼくと仲良くなろうと考えるものもいたりする。
「ありがとうございます。それでは急ぎますので失礼致します」
シーアはいつものように塩対応だ。大抵のものはこれでそそくさと退散するが、なかには変わりものもいて、ハイライトオフで半開きの目から放たれる威圧感と人を寄せ付けない冷たい声がたまらないと、今では常連まで生まれつつあった。
部屋へ戻るとシーアがお湯と着替えを用意してくれたので、ぼくは体の汗を拭ってさっぱりする。
「そういえばノーラはどこにいるの?」
「今は買い出しに、ついでにシーク様のところに寄って来るとのことでした」
「シーク師匠に会う。そのついでに買い出しね。特に用事もないからいいや」
同じ黒髪黒目のラブラブカップルを見ると、どうしても元の世界で獲得していたマスタースキル【リア充爆発しろ】が発動しそうになる。
けど、ぼくにとってはノーラは大切な家族の一員だし、シーク師匠はぼくに魔法弓を教えてくれた恩師だ。
「さっさとくっついて結婚しちゃえばいいのに……」
「きっとそうなりますよ。シーク様もノーラを好ましく思っていらっしゃるようですし、あとは時間の問題ですね」
シーアの尻尾がパタパタ揺れる。他人の恋バナでも楽しいものなのだろう、シーアは自分がノーラから聞かされたシーク師匠とのイチャラブエピソードをぼくに語り始めた。
「そうなのかー。まぁお似合いの二人ではあるよね」
ぼくはといえば、他人の恋愛沙汰にはまったく興味はないけれど、シーアが楽しそうに話すのはとても楽しいので、膝枕をしてもらいながらシーアの声に耳を傾ける。
「それでですね。ノーラったらシーク様に甘え過ぎて……」
「そりゃ師匠もびっくりしただろうね」
「ええ。でもそのおかげで、二人の距離がいっきに縮んだってノーラが言ってました。でもそれだけじゃないんですよ、この前だって……」
いつまでも聞いていたいシーアの声。後頭部に感じるシーアの柔らかいふとももと、視界を圧倒する巨大な乳袋による幸せサンドに挟まれて、いつの間にかぼくは眠りに落ちてしまっていた。
「シーア、いまから剣術の練習に付き合ってよ!」
「かしこまりました」
時折、修練場の一角を借りてぼくはシーアに剣術を教わっている。もちろん僕自身の剣術スキルを上げるためではあるけれど、それ以外にも目的があった。
そのひとつが物珍しそうにぼくたちを見物するために集まってきたギャラリーだ。
盲目のシーアがしずしずとぼくの肘を掴んで歩く姿を見た人は、まず彼女をか弱い存在だと判断する。
それだけなら問題はないのだけれど、か弱いというだけでなく巨乳の美人とくれば、不埒な考えを持つ連中が出てくるのは当然といえば当然のことだ。
カンッ! カンッ!
木剣がぶつかる音が修練場に響き渡る。
「キース様、右がガラ空きです!」
パシッと音がしてぼくの右わきにシーアの木剣が入る。音は派手だけど、実はそれほど痛くない。
「だ、大丈夫ですか?」
「全然平気だよ! さすがシーア!」
と言いつつ同時にぼくはシーアに木剣を振るったけど軽く躱されてしまった。
シーアは剣術においても相当な腕を持っている。ぼくも、エ・ダジーマに来る前から、先生やシーアに稽古をつけてもらっていたけれど、ぼくの木剣がシーアの身体に当ったことは一度もない。
「すげぇな、あの亜人。相当の手練れだぜ」
「相手がヘタレ過ぎるからそう見えるんじゃないの?」
「あの剣筋、かなりの手練れですな」
「もしあなたが相手したらどうなの?」
「おそらく勝つことはできるでしょうが、油断は一切できないですな」
「あのメイド、目が見えないんだってさ」
「えぇ!? 嘘だろ!?」
ぼくたちの稽古を見てあれこれと外野がおしゃべりをする。
「シーア!」
ぼくの声のトーンからその意図を察したシーアが、半開きだった目を完全に閉じる。そのままぼくは気合と共に強くシーアに連続して打ち掛かっていくが、それはすべてあっさりと捌かれてしまう。
「ほんとだ!? あのメイド、目を閉じたまま剣を受けてやがる!」
「さっきから沢山動いているのに汗ひとつかいてないわ」
「あの揺れがたまらん。朝食三杯はいける」
ギャラリーの中から不穏な発言も聞こえてきたが、ともかくこの立ち合いを見たもので今後シーアを見くびるようなおバカさんはいないだろう。
「それじゃ、今日はこの辺にして部屋に戻ろうか」
「はい」
剣の練習を終えて、部屋へ戻ろうとするとギャラリーの中から何人かがぼくたちに声をかけてくる。いつものことだ。
「お疲れ様です。ロイド様、ヴィルフェリーシアさん。いつもながら鋭い太刀筋ですね。できれば私もヴィルフェリーシアさんにご教授いただきたいものです」
「すごく素敵でしたわ、お姉さまとお呼びさせていただいても?」
近づいてくる連中の目的はシーアと少しでもお近づきになることだ。なかにはそのためにまずぼくと仲良くなろうと考えるものもいたりする。
「ありがとうございます。それでは急ぎますので失礼致します」
シーアはいつものように塩対応だ。大抵のものはこれでそそくさと退散するが、なかには変わりものもいて、ハイライトオフで半開きの目から放たれる威圧感と人を寄せ付けない冷たい声がたまらないと、今では常連まで生まれつつあった。
部屋へ戻るとシーアがお湯と着替えを用意してくれたので、ぼくは体の汗を拭ってさっぱりする。
「そういえばノーラはどこにいるの?」
「今は買い出しに、ついでにシーク様のところに寄って来るとのことでした」
「シーク師匠に会う。そのついでに買い出しね。特に用事もないからいいや」
同じ黒髪黒目のラブラブカップルを見ると、どうしても元の世界で獲得していたマスタースキル【リア充爆発しろ】が発動しそうになる。
けど、ぼくにとってはノーラは大切な家族の一員だし、シーク師匠はぼくに魔法弓を教えてくれた恩師だ。
「さっさとくっついて結婚しちゃえばいいのに……」
「きっとそうなりますよ。シーク様もノーラを好ましく思っていらっしゃるようですし、あとは時間の問題ですね」
シーアの尻尾がパタパタ揺れる。他人の恋バナでも楽しいものなのだろう、シーアは自分がノーラから聞かされたシーク師匠とのイチャラブエピソードをぼくに語り始めた。
「そうなのかー。まぁお似合いの二人ではあるよね」
ぼくはといえば、他人の恋愛沙汰にはまったく興味はないけれど、シーアが楽しそうに話すのはとても楽しいので、膝枕をしてもらいながらシーアの声に耳を傾ける。
「それでですね。ノーラったらシーク様に甘え過ぎて……」
「そりゃ師匠もびっくりしただろうね」
「ええ。でもそのおかげで、二人の距離がいっきに縮んだってノーラが言ってました。でもそれだけじゃないんですよ、この前だって……」
いつまでも聞いていたいシーアの声。後頭部に感じるシーアの柔らかいふとももと、視界を圧倒する巨大な乳袋による幸せサンドに挟まれて、いつの間にかぼくは眠りに落ちてしまっていた。
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