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第二章 三度目の転生は子爵家の長男でした。
第26話 消えたシーアを探せ
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ぼくと先生は全速力で馬を飛ばし続け、結果的に予定よりも早くロイド伯領へ戻ることができた。出迎えてくれた父上と母上はぼくたちが戻ったことを喜んでくれたが、二人の顔はシーアを心配するあまり、その疲れが隠し切れないでいた。
「すぐにヴィルフェリーシアを連れ戻す。いままでの状況を詳しく説明してくれ」
先生が両親に声をかけると、その言葉に安堵したのか二人の顔に少しだけ色が戻ってきた。父上が詳しい経緯を先生に説明する。
「ガラム……ヴィルをお願い」
そう言って母上は口元を押さえて父上の肩に身体を預ける。その目には涙が浮かんでいた。
普段のシーアなら、母上にこれほど心配をかけるようなことは絶対にしない。これはぼくがそう思っているだけではなく、ロイド家にいるものなら誰もがシーアの忠誠心の高さを知っている。
それだけじゃない。シーアの忠誠はぼくたち家族に対してだけではなく、ロイド家で働く全ての人たちに向けられていることも、シーアを知る全てのものが理解しているはずだ。
その昔、うちで働き始めたばかりのメイドが近隣の村へ買い物に行ったとき、その村の酒場でたむろしていた若者たちにからわれて泣いて帰ってきたことがあった。
そのことを知ったシーアは、すでに日も落ちかけているというのに――まぁ周りが暗くてもシーアには関係ないけど――すぐに屋敷を飛び出してその村の酒場へ乗り込んで行った。
そして酒場にいた一人ひとりに対し、
「ロイド家のメイドに手を出したのはお前か?」
と氷のように冷たい視線と声で問いかけた。その場でその様子を見ていた全員が心底恐怖に震えたらしい。そしてシーアは相手の魂のゆらぎから犯人を的確に見分け、加害者である全ての若者たちを制裁していった。
こんなエピソードは他にもたくさんある。そのおかげで、いまでは近隣の村や街の人間でロイド家の悪口を言うものはいない。少なくともシーアには聞かれないように注意を払っている。
ロイド家の人間に敵意を向けるものには血気盛んなシーアも、父上と母上の言葉は絶対に従った。先程のようなトラブルで頭に血が上ったシーアが屋敷を飛び出しそうになったときでも、両親が止めたらシーアは必ずその通りにした。
そんなシーアが王都行きに同行できないことを知ったとき、両親がいる前で子どものように泣いて駄々をこねるなんて、本当に異常でありえないことだったのだ。
それを目の当たりにしておきながら、事の重大さをぼくは全く理解できていなかった。ぼくは本当にバカだった。
――――――
―――
―
父上と母上が先生とシーアを探すための相談をしていた。先生はギルドに依頼を出したことを両親に報告していた。
「とりあえずギルドにはシーアの捜索依頼を出しておいた。それと王都へ向かう吟遊詩人がいたから金貨を渡して、道中でキースが家に戻ったこと歌ってもらうようにも頼んでいる」
先生はぼくにシーアの行動についての推測を話してくれた。先生は、シーアが昼間は街道沿いの山林に潜み、夜の間に道を進んでいると考えているようだった。
「ヴィルフェリーシアは当然おまえが帰途にある可能性も考えているはずだ。おまえとすれ違いになりたくはないだろう。なら街道からあまり離れるわけにはいかんだろうな」
「ガラム! ヴィルは無事よね? 悪い人に捕まったりとか怪我なんてしてないわよね。ねっ」
母上が先生の腕を引っ張りながら、シーアが無事だという情報を先生から引き出そうとする。それが予測でもなんでも先生の言葉で安心したいのだろう。
「大丈夫。ガラムは【追跡】のマスタースキル所持者なんだ。きっとすぐにヴィルを見つけてくれるさ……」
父上が母上を安心させようと、先生のスキルを自信たっぷりに推した。二人の長い付き合から、きっと父上も先生の能力を信頼しているのだろう。
「……見つけてくれるよね?」
うん。それほど信頼していないのかもしれない。
「ヴィルフェリーシアなら大丈夫だ。もし悪い奴らが近づいてきたとしたら、むしろそいつらの方を心配してやるべきだろう。それに王都に向かうには必ずアドオールド川を渡らねばならん」
そう言って先生が父上の方へ顔を向ける。
「ああ、大橋にある街道関にはもう通達を出してある。船で渡ろうとしても昼間なら必ず見かる」
父上の言葉に先生がうなずくと、母上とぼくの顔を交互に見ながら、
「明日の早朝から捜索に出る。家に戻ったばかりだがキースも連れて行くぞ。ヴィルフェリーシアを引き寄せる釣り餌のようなものだからな」
「うふふキース、しっかりヴィルを釣り上げてくるのよ」
先生の言葉に安心を得られたのか、母上も冗談を口に出せるようになったみたいだ。よかった。
そのあと父上と母上に、ぼくがエ・ダジーマの貴族寮に入りシーアをお世話係として連れて行くつもりであることを話した。二人ともあっさりと同意してくれた。それどころか、なぜ最初からそうしなかったのかと説教されてしまった。
確かに最初から貴族寮で話を進めていればシーアの家出はなかったわで、今となっては本当に反省してる。
明日以降の行動が決まったところで、ミーナとハンスがぼくのところへ走り寄ってきて、王都での出来事を話して欲しいとおねだりしてきた。
そのまま二人はぼくの部屋に集まって夜遅くまで話し込み、ひさびさに兄妹三人が同じベッドで一緒に眠った。
翌日早朝、妹と弟が眠ったままのベッドからそっと抜け出して、ぼくはシーアの捜索に向かった。
「すぐにヴィルフェリーシアを連れ戻す。いままでの状況を詳しく説明してくれ」
先生が両親に声をかけると、その言葉に安堵したのか二人の顔に少しだけ色が戻ってきた。父上が詳しい経緯を先生に説明する。
「ガラム……ヴィルをお願い」
そう言って母上は口元を押さえて父上の肩に身体を預ける。その目には涙が浮かんでいた。
普段のシーアなら、母上にこれほど心配をかけるようなことは絶対にしない。これはぼくがそう思っているだけではなく、ロイド家にいるものなら誰もがシーアの忠誠心の高さを知っている。
それだけじゃない。シーアの忠誠はぼくたち家族に対してだけではなく、ロイド家で働く全ての人たちに向けられていることも、シーアを知る全てのものが理解しているはずだ。
その昔、うちで働き始めたばかりのメイドが近隣の村へ買い物に行ったとき、その村の酒場でたむろしていた若者たちにからわれて泣いて帰ってきたことがあった。
そのことを知ったシーアは、すでに日も落ちかけているというのに――まぁ周りが暗くてもシーアには関係ないけど――すぐに屋敷を飛び出してその村の酒場へ乗り込んで行った。
そして酒場にいた一人ひとりに対し、
「ロイド家のメイドに手を出したのはお前か?」
と氷のように冷たい視線と声で問いかけた。その場でその様子を見ていた全員が心底恐怖に震えたらしい。そしてシーアは相手の魂のゆらぎから犯人を的確に見分け、加害者である全ての若者たちを制裁していった。
こんなエピソードは他にもたくさんある。そのおかげで、いまでは近隣の村や街の人間でロイド家の悪口を言うものはいない。少なくともシーアには聞かれないように注意を払っている。
ロイド家の人間に敵意を向けるものには血気盛んなシーアも、父上と母上の言葉は絶対に従った。先程のようなトラブルで頭に血が上ったシーアが屋敷を飛び出しそうになったときでも、両親が止めたらシーアは必ずその通りにした。
そんなシーアが王都行きに同行できないことを知ったとき、両親がいる前で子どものように泣いて駄々をこねるなんて、本当に異常でありえないことだったのだ。
それを目の当たりにしておきながら、事の重大さをぼくは全く理解できていなかった。ぼくは本当にバカだった。
――――――
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父上と母上が先生とシーアを探すための相談をしていた。先生はギルドに依頼を出したことを両親に報告していた。
「とりあえずギルドにはシーアの捜索依頼を出しておいた。それと王都へ向かう吟遊詩人がいたから金貨を渡して、道中でキースが家に戻ったこと歌ってもらうようにも頼んでいる」
先生はぼくにシーアの行動についての推測を話してくれた。先生は、シーアが昼間は街道沿いの山林に潜み、夜の間に道を進んでいると考えているようだった。
「ヴィルフェリーシアは当然おまえが帰途にある可能性も考えているはずだ。おまえとすれ違いになりたくはないだろう。なら街道からあまり離れるわけにはいかんだろうな」
「ガラム! ヴィルは無事よね? 悪い人に捕まったりとか怪我なんてしてないわよね。ねっ」
母上が先生の腕を引っ張りながら、シーアが無事だという情報を先生から引き出そうとする。それが予測でもなんでも先生の言葉で安心したいのだろう。
「大丈夫。ガラムは【追跡】のマスタースキル所持者なんだ。きっとすぐにヴィルを見つけてくれるさ……」
父上が母上を安心させようと、先生のスキルを自信たっぷりに推した。二人の長い付き合から、きっと父上も先生の能力を信頼しているのだろう。
「……見つけてくれるよね?」
うん。それほど信頼していないのかもしれない。
「ヴィルフェリーシアなら大丈夫だ。もし悪い奴らが近づいてきたとしたら、むしろそいつらの方を心配してやるべきだろう。それに王都に向かうには必ずアドオールド川を渡らねばならん」
そう言って先生が父上の方へ顔を向ける。
「ああ、大橋にある街道関にはもう通達を出してある。船で渡ろうとしても昼間なら必ず見かる」
父上の言葉に先生がうなずくと、母上とぼくの顔を交互に見ながら、
「明日の早朝から捜索に出る。家に戻ったばかりだがキースも連れて行くぞ。ヴィルフェリーシアを引き寄せる釣り餌のようなものだからな」
「うふふキース、しっかりヴィルを釣り上げてくるのよ」
先生の言葉に安心を得られたのか、母上も冗談を口に出せるようになったみたいだ。よかった。
そのあと父上と母上に、ぼくがエ・ダジーマの貴族寮に入りシーアをお世話係として連れて行くつもりであることを話した。二人ともあっさりと同意してくれた。それどころか、なぜ最初からそうしなかったのかと説教されてしまった。
確かに最初から貴族寮で話を進めていればシーアの家出はなかったわで、今となっては本当に反省してる。
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そのまま二人はぼくの部屋に集まって夜遅くまで話し込み、ひさびさに兄妹三人が同じベッドで一緒に眠った。
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