うっかり女神の転生ミスで勇者になれなかったし、もうモブ転生でゴールしてもいいんだよね?

帝国妖異対策局

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第二章 三度目の転生は子爵家の長男でした。

第22話 筆記試験

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 王都に到着して三日、明日からいよいよ勇者支援学校エ・ダジーマの入学試験が始まる。試験は筆記試験と面談を兼ねた実技試験をクリアしなければならない。

 これまで十分に準備はしてきたつもりだったが、いざ試験が目前に迫ると不安がどっと押し寄せてきた。

「も、もし試験に落ちたら……どどど、どうしよう」

 宿の食堂で先生たちと夜食をとっていたぼくは思わず口に出してしまった。肝っ玉がビー玉くらいしかないぼくは完全にビビッていた。

 見送りのときに母上とメイドに支えられてやっと立っていたシーアの姿が目に浮かぶ。あそこまでシーアに負担をかけておいて、いまさら入学できませんでしたなんて合わせる顔がない。いや、シーアは喜ぶかもしれないけど。

「ハハハ! キース、今から臆しているようじゃ話にならんな!」

「そうですよ、坊ちゃん。男は度胸です」

 エールをぐびぐびと飲み干しながら先生とシーク師匠がご機嫌に酔っぱらっている。

「坊ちゃまはヴィルがいないとただのヘタレですもんねー。あっ、いてもヘタレでしたっけ? フヒヒヒ」
  
 ノ、ノーラ! お前は酔っぱらってないで仕事しろよ!……と思って彼女を睨み付けたけれど、かえって酒の肴を提供しただけだった。

「ぐぬぬぬ……」

 三人の大人にからかわれて腹を立てた結果、明日への不安よりも怒りが勝って、そのおかげで緊張は解けた。確かに解けたけど、なんか腹が立つ。ぼくは目の前の肉にガブリと喰いついた。

「そうだキース! 肉を食い千切る感じでいけ!」

「坊ちゃん、その調子です。あっ、エールもう一杯お願いします!」

「坊ちゃま、ワイルドー! シーク、わたしにもエール!」

 この三人に人生の先達としての何か助言みたいなものを少しでも期待していたぼくが馬鹿だった。酔っ払い三人をジト目で睨みつけながら、ぼくは一気に食事を平らげて早々に部屋へと引き上げた。

 それにしても、今回の旅を通してノーラとシーク師匠がなんだか仲良くなってきているような気がする。

 もし二人が付き合うようなことにでもなったら、そのときは今日の仕返しに思いっきりからかってやるからな。心の中でその場面を想像して満足したぼくは、いつの間にか眠りに落ちていた。

――――――
―――


 エ・ダジーマの筆記試験会場は様々な人であふれていた。

 そのほとんどは、ぼくと同じような年齢の子どもだったけど、ところどころ大人もいるし外国人や亜人もいた。ぼくが試験会場の席につくと、となりには白髪交じりのおじさんが座っていた。

 試験が始まるまでの間におじさんと話したところでは、このおじさんは今年入学予定のある貴族に使える執事さんのようだった。

 エ・ダジーマの貴族寮には世話人を2名までしか置けないので、その貴族は生徒としてこの執事さんを入学させることで実質的な世話役を増やそうとしているのだそうだ。どんだけ金持ちなんだよ。
 
 席の反対どなりでは、犬系の獣人が全身から緊張感をみなぎらせて座っている。

 なんとなくシベリアンハスキーっぽいその獣人は完全に集中しきっていたので、何回かチラっと見てみたけれど目が合うことはなかった。緊張のためか全身の毛が逆立っており、それがこちらにまで移ってきそうだった。

 そんなぼくの気持ちを察したのか、となりの執事さんが声を掛けてきた。

「入学できたらお互い同級生ということですな。その節は、どうか良き級友としてよろしくお願いします」

「は、はい! こちらこそよろしくお願いしますです!」

 この執事さんは、元の世界でとてもお世話になった取引先の社長さんに似ていて、ぼくはなんだか妙に恐縮してしまい返事の声が裏返ってしまった。

「着席してください! 間もなく試験開始です!」

 試験官の声が会場に響き渡り、それまでザワザワしていた場の空気が一気に引き締まる。

 あとは全力を出し切るだけだ。 

 ぼくは両手をグッと握りしめた。

――――――
―――


 筆記試験が終わったその日の夜。

「それで坊ちゃま、筆記試験はどうでしたか?」

 夜食の席でノーラが聞いてきた。既に彼女は三杯目のエールで酔いが廻って出来上がりつつある。先生と師匠も杯を傾けながら、ぼくに報告するよう促してきた。

「意外と簡単だったよ。たぶん合格してると思う」

 別にフラグを立てているつもりはない。実際に筆記試験の内容は簡単だった。ぼくのとなりにいた執事さんは、試験時間の半分も経たないうちに答案を提出して会場を退出してしまった。
 
 ただ後から聞いたところによると、この筆記試験で受験者の8割が落ちていたそうだ。それなりに難関であったことは確からしい。 

「よーし! それじゃキースの筆記試験合格を祝して乾杯だ!」

「ですね! 坊ちゃんに乾杯!」

「かんぱーい! これでもし落ちてたら凄い楽しいよね!」

「ノーラ!?」

 ノーラはぼくのことをイジるのが大好きで昔からこんな感じだ。でもまぁ、ぼくの態度を見て、彼女も合格を確信したからこその冗談だということもわかってる。

「そんな酷いことを言うノーラはもう飲んじゃ駄目!」

 そう言ってお酒を取り上げようとするぼくの手を、ノーラはさっと立ち上がってヒラヒラとかわす。酔いのせいで足元がフラついていて危なっかしい。

「ちょっとノーラさん、ジョッキを持ったまま踊らないでください。とにかく座って!」

「はぁーい!」

 シーク師匠がノーラの腰に手を伸ばして、そのまま彼女を引き寄せて席に着かせた。ノーラはご機嫌な様子でシーク師匠の肩に頭を預けて飲み続ける。

「(ちょっ、先生!? これはいったいどういうことですか!?)」

 目にも見えそうなくらいラブ波動に包まれたノーラとシーク師匠を目撃してしまったぼくは、ポカンと口を開いたマヌケ顔で先生に視線を送る。 

 先生はニヤリと笑ってウィンクを返してきただけだった。



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