うっかり女神の転生ミスで勇者になれなかったし、もうモブ転生でゴールしてもいいんだよね?

帝国妖異対策局

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第二章 三度目の転生は子爵家の長男でした。

第21話 勇者支援学校

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 勇者支援学校エ・ダジーマは、勇者を支援するための人材を育成するための学校で、前世でウルス王だったぼくが創立したものだ。身分を問わず志と実力さえあれば誰でも入学することができる。

 実力の中には「お金」も含まれており、貴族や有力な商人の子息はそれを使えば面接試験だけで入学できる。彼らの場合、半年間の基礎課程が終われば後は座学と礼儀作法だけで卒業することも可能だ。

 ただ座学においては徹頭徹尾「勇者を支援することがとてつもない栄誉であること」を洗脳レベルで叩き込まれる。あと一応ラヴェンナ信仰も。

 勇者の力は人々のラヴェンナ信仰に支えられるところもあるから、前世のぼくはそれなりに配慮していた。

 学校の庭園にはラヴェンナ像を立てて毎日礼拝させるようにしたし、さらにお抱えの劇団には「ラヴェンナ様がみてる」という脚本を書かせて王国全土で上演させたりした。

 その脚本はラヴェンナ像の前で出会った二人の美少女が、学園イチャラブ生活を満喫するというものなんだけど……

 えっ? パクリ? そうかもしれないけど、もし罪があるとしたらウルス王が悪いのであって、今のぼくは何の関係もないからね。

 この演劇の効果は上々で、現在でもこれを見たことがきっかけとなって入学を希望するものが多く、そのせいか学園の男女比率ではやや女生徒の方が上回っているほどだ。

 学校内における優雅な華組(貴族や大商人の子息を指す隠語)の間では、物語に触発されたような学園ドラマがあちこちで展開されていたりするとか。

 一方、実質的な実力が勝負の一般庶民クラス(男組と呼ばれている)の中にも、演劇を見て入学を志したという女生徒は多く、地獄のような訓練の合間を縫ってお姉さまと妹たちの関係をゆりゆりと紡いでいるらしい。

 正直、学校で直接見ることができるのをかなり楽しみにしてます。

「キース、さっきから何ニヤニヤしてるんだ?」
 御者台の上から先生が声を掛けてきた。そうだった。10歳になったぼくは、いまエ・ダジーマで入学試験を受けるために王都へ向かう馬車の中。色々考え事をしているうちにボーッとしちゃってたらしい。

「坊ちゃんはときどきオヤジくさい顔しますよね」

「シーク師匠!?」
 
「ヴィルに甘えるときの坊ちゃまは、いつもおっさんって感じですよ」

「ノーラ!?」

 ノーラは妹の世話係のメイドで、先生とシーク師匠と一緒にぼくの受験に同行している。

 以前、先生に連れられてシーアと王都に来たことはあるけれど、そのときと違って今回は観光じゃない。試験やその他いろいろな準備が必要なのでノーラが来ることになったのだ。

 約一ヵ月の旅程だったので、ぼくと一緒に行きたいと駄々をこねるシーアを説得するのが凄く大変だった。
 
「シーアは大丈夫かな……」

「もうそろそろ死んでるんじゃないでしょうか」

「ノーラ!?」

 ノーラはボブカットの頭を傾けてぼくの目を覗き込む。黒髪黒目で小柄なノーラは見た目はそのまま日本人の美少女だ。彼女にからかわれると、過去世の記憶部分が揺り動かされるようでいつもドギマギしてしまう。
 
「ふふっ。これは失礼しました。言い過ぎ……でもないと思いますけど」

 ぼくの瞳が動揺していることを確認すると、ノーラは満足そうな笑顔を浮かべてから、スカートを整えて座りなおす。くやしい。でも可愛いから許しちゃう。

 それにしても、ぼくの記憶にある限りシーアと一ヵ月も離れるなんて生まれて初めてのことだ。屋敷を出発してまだ5日ほどだが、もうすでにシーア成分不足によるホームシック症状が出始めている。
 
 ぼくがこんな状況なのだから、きっとシーアはなおさらだろう。シーアが今どんな状況なのかわからないけれど、ぼくたちが出発するまでのシーアの様子は……

とても酷かった。

――――――
―――


「いやぁぁぁぁ」

 王都への同行ができないことを知ったシーアは、ちょっと洒落にならないくらい動揺した。それは、ぼくが前前世の最後にみたシーア、両親と先生が見た最初のシーアの姿を思い起こさせるほどだった。

「わたしも坊ちゃまと一緒に行かせてくださいぃぃぃ」

 言ってることはただの我侭で駄々をこねているだけなのだが、シーアが本気で嫌がっているのは家中の誰もが理解しただろう。父も母も必死になってシーアをなだめに掛かっていた。

「あわわ……ヴィル……ヴィル……おち、おちおち落ち着いて……」

「あなたが落ち着いて。ヴィル……わたしたちも、あなたをキースと一緒に行かせてあげたいの。だけど今回だけは我慢してね……」
 
 今回シーアを王都へ連れて行かないという決断をしたのはぼくだ。もし学校に入学したら半年の間は外出も面談も許されなくなる。

 貴族寮に入ればお世話係として執事やメイドを置くことができるけど、ぼくは一般枠での入学を予定しているので一般寮に入る予定だ。それに貴族寮に入ったとしても、目の不自由なシーアではお世話係としての許可が下りない可能性だってある。

 シーアの【見る】をいつ取り戻せるのかわからないし、下手すると卒業するまでの間、休暇以外はシーアと離れ離れになってしまうかもしれない。

 そのための準備というか、慣れというか、どんな感じなのかを知るためにも今回はシーアに留守番をと思ったのだけど……、  

「わだじも坊ちゃまといぎだいでずぅぅぅぅぅ」

 顔をぐしゃぐしゃに濡らして床をジタバタするシーアの姿に、その場にいるものすべてが氷結魔法でも掛けられたかのようにフリーズしていた。

 普段は物静かで滅多なことで感情を表に出すことのないシーアが、ここまで駄々っ子な姿はぼくを含めた家中の誰もが見たことなかったのだ。

「づれでってくだざいぃぃぃぃ」

 皆のジトっとした視線が自然とぼくに集まる。視線のすべてが「お前がなんとかしろ」と言っていた。確かにぼくに責任があると言えばあるんだけど。

 結局、それから王都へ出発するまでの一週間、ぼくは自由になる時間の全てをシーアをなだめるためだけに費やした。

 なんとか出発当日までにはシーアを落ち着いた状態にすることに成功したものの、ぼくたちを見送る時のシーアは青ざめた顔で母上とメイドになんとか支えられて立っている状態だった。

 ちなみに父上からは、旅の間は必ずシーアに手紙を出すように何度も念を押されている。

「手紙が届かない日があったりすると、あの娘、本当に衰弱して死んじゃうかもしれませんよ」
 馬車からシーアの様子を見ていたノーラがぼそっと怖いことを言った。

 というわけで、ぼくは毎日シーアに手紙を書いて、途中で立ち寄った街や村だけでなく、街道を行く子爵領へ向かう馬車にまで手紙を届けてもらうよう依頼するようにした。



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