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第一章 長い長いプロローグ(だって二回も転生しますよね)
第13話 モブ転生
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二回目の転生でもミスをやらかしてしまった女神は、なんとか状況をリカバーしようと焦るあまり、手近にいた別の転生者を勇者として異世界に送り込んでしまっていた。
俺はその事実をポカンと口を開いてただ聞いていた。いやまぁ、魂だけで身体はないのだけれど。
しばらく永劫の時が過ぎ、ふと我に返った俺は女神に尋ねる。
「それで……俺はどうすればいいの? 勇者にはなれない? ならなくていいの?」
「わたしの権限では、ひとつの世界に二人の勇者を転生させることはできないんです。ごめんなさいぃぃぃ!」
「えっと、つまり俺はお払い箱ってことか?」
「そのようなことは決してございません……ございませんが勇者に転生することはできません。ごめんなさぃぃぃ!」
いちいち語尾にごめんなさいを付けながら頭を地面? に擦り付けるな。話が進まん。
「わかりました。それでは普通に話させていただきますね」
「やっぱり腹立つから語尾必須な」
「ひえぇぇ、ごめんなさいぃぃぃ!」
冗談だから! からかって悪かったから! 普通に話せ!
「ほ、本当ですか?」
「あぁ。とにかく俺は勇者に転生できないのはわかった。じゃぁ、どうすればいいんだよ」
「はい。鹿島様におかれましては、二度の転生で大変ご迷惑をおかけしたことと、勇者が活躍できる環境をお作りいただいたということで……」
女神によると、女神の上司にあたる神様が俺の現状を知り、せめてものお詫びにと、俺の希望をなるべく叶えた上で再び転生させるよう取り計らってくれたらしい。勇者転生できなかった魂は通常の輪廻転生に戻されるのだが……
「今回は俺の希望を聞いてくれると……」
「はい」
「二回も転生に失敗したことに対するお詫びと……」
「す、すみません」
「勇者に転生するわけじゃないんだよな」
「はい。あくまでお詫びということですので、平和な場所でまったりとしたスローライフを満喫していただいて結構です」
「転生にあたっての加護なんかは?」
「あくまで、わたしの付与できる範囲ということになりますが、なるべく善処させていただきますです」
ふむ。魔王討伐を別の転生者がやってくれるというのなら、それはそれで構わない。というかむしろ歓迎だ。とは言うものの、これからの王国の行く末を見届けたいという気持ちが俺の中には残っていた。
「まずひとつめの希望だが、ボルヤーグ連合王国へ転生したい。できるか?」
「はい。それは問題ありません」
「よし。あっ、その前に……」
「はい?」
俺は女神の眉間に人差し指を向けて『俺が許可を出すまで、いっさい転生の設定はするな』と念を押しておく。
次の転生について考えていると、ふと奴隷少年時代のことを思い出した。そういえば奴隷商人と冒険者から逃げた子どもたちはどうなったんだろう。ウルス王時代にも何度か気にしたことはあるけど調査まではしていなかった。
「奴隷だった俺が死んだとき、一緒にいた亜人の少女はどうなった? 優しい人達が保護していたみたいだったけど」
「その女の子でしたら、その優しい人たち――ロイド家に引き取られて屋敷のメイドとして働いていますね。目が見えないというのによく働く良い娘みたいです。あっ!?」
女神はフムフムと何やら調べ始めたようだった。
そういえば、俺と彼女は夜の森で魔物に視力を奪われていたな。そうか。目が見えないというのにあの娘は、あの奴隷に厳しい世界でしっかりと生きていたのか。よかった。
俺は今では顔もよく覚えていないロイド家の人々に心から感謝した。やはり人間も捨てたもんじゃないな。なんてことを考えていると、調べ物が終わった女神が俺に語り掛けてきた。
「あの、そのロイド夫人のお腹の中にちょうど転生枠が空いているようです」
「へっ?」
「懐妊したばかりの場合、他の魂との入れ替わりではないので、新しい命として世界に誕生することができます。真っさらからのスタートなので、付与できる加護も多くできますよ」
なるほど、かなり良い物件のようだな。
「ロイド子爵領は片田舎にある海と山に挟まれた小さな領地ですが、農地は大地の力に恵まれていて自然も豊かです。小規模ですが活気のある貿易港があって税収は安定しているようですね。子爵家自体はもの凄くお金持ちというわけではありませんが、ここに転生すれば十分な衣食住と教育を受けることはできるはずですよ」
ふむ。まったく知らないというわけでもないし、そこそこ安定した生活は約束されていると言うわけか。
「それに、何より良い人たちですし」
その一言を待つまでもなく、俺はロイド家の子どもとして転生することを決断していた。あの亜人の少女のことも気になるしな。
「わかった。ではロイド家の子どもとして転生する」
あとの問題は、女神からなるべく多くの加護を引き出すことと、何よりも何よりも転生に失敗させないことだ。今回はそもそも勇者転生ではないし、さすがにもう失敗は……いや、これはフラグだな。警戒度100%で臨まなくては。
「よっしゃぁぁ、どっからでも掛かってこいやぁぁ!」
「えぇぇぇえ!?」
――――――
―――
―
~ 結果 ~
無事に転生することができました。
俺はその事実をポカンと口を開いてただ聞いていた。いやまぁ、魂だけで身体はないのだけれど。
しばらく永劫の時が過ぎ、ふと我に返った俺は女神に尋ねる。
「それで……俺はどうすればいいの? 勇者にはなれない? ならなくていいの?」
「わたしの権限では、ひとつの世界に二人の勇者を転生させることはできないんです。ごめんなさいぃぃぃ!」
「えっと、つまり俺はお払い箱ってことか?」
「そのようなことは決してございません……ございませんが勇者に転生することはできません。ごめんなさぃぃぃ!」
いちいち語尾にごめんなさいを付けながら頭を地面? に擦り付けるな。話が進まん。
「わかりました。それでは普通に話させていただきますね」
「やっぱり腹立つから語尾必須な」
「ひえぇぇ、ごめんなさいぃぃぃ!」
冗談だから! からかって悪かったから! 普通に話せ!
「ほ、本当ですか?」
「あぁ。とにかく俺は勇者に転生できないのはわかった。じゃぁ、どうすればいいんだよ」
「はい。鹿島様におかれましては、二度の転生で大変ご迷惑をおかけしたことと、勇者が活躍できる環境をお作りいただいたということで……」
女神によると、女神の上司にあたる神様が俺の現状を知り、せめてものお詫びにと、俺の希望をなるべく叶えた上で再び転生させるよう取り計らってくれたらしい。勇者転生できなかった魂は通常の輪廻転生に戻されるのだが……
「今回は俺の希望を聞いてくれると……」
「はい」
「二回も転生に失敗したことに対するお詫びと……」
「す、すみません」
「勇者に転生するわけじゃないんだよな」
「はい。あくまでお詫びということですので、平和な場所でまったりとしたスローライフを満喫していただいて結構です」
「転生にあたっての加護なんかは?」
「あくまで、わたしの付与できる範囲ということになりますが、なるべく善処させていただきますです」
ふむ。魔王討伐を別の転生者がやってくれるというのなら、それはそれで構わない。というかむしろ歓迎だ。とは言うものの、これからの王国の行く末を見届けたいという気持ちが俺の中には残っていた。
「まずひとつめの希望だが、ボルヤーグ連合王国へ転生したい。できるか?」
「はい。それは問題ありません」
「よし。あっ、その前に……」
「はい?」
俺は女神の眉間に人差し指を向けて『俺が許可を出すまで、いっさい転生の設定はするな』と念を押しておく。
次の転生について考えていると、ふと奴隷少年時代のことを思い出した。そういえば奴隷商人と冒険者から逃げた子どもたちはどうなったんだろう。ウルス王時代にも何度か気にしたことはあるけど調査まではしていなかった。
「奴隷だった俺が死んだとき、一緒にいた亜人の少女はどうなった? 優しい人達が保護していたみたいだったけど」
「その女の子でしたら、その優しい人たち――ロイド家に引き取られて屋敷のメイドとして働いていますね。目が見えないというのによく働く良い娘みたいです。あっ!?」
女神はフムフムと何やら調べ始めたようだった。
そういえば、俺と彼女は夜の森で魔物に視力を奪われていたな。そうか。目が見えないというのにあの娘は、あの奴隷に厳しい世界でしっかりと生きていたのか。よかった。
俺は今では顔もよく覚えていないロイド家の人々に心から感謝した。やはり人間も捨てたもんじゃないな。なんてことを考えていると、調べ物が終わった女神が俺に語り掛けてきた。
「あの、そのロイド夫人のお腹の中にちょうど転生枠が空いているようです」
「へっ?」
「懐妊したばかりの場合、他の魂との入れ替わりではないので、新しい命として世界に誕生することができます。真っさらからのスタートなので、付与できる加護も多くできますよ」
なるほど、かなり良い物件のようだな。
「ロイド子爵領は片田舎にある海と山に挟まれた小さな領地ですが、農地は大地の力に恵まれていて自然も豊かです。小規模ですが活気のある貿易港があって税収は安定しているようですね。子爵家自体はもの凄くお金持ちというわけではありませんが、ここに転生すれば十分な衣食住と教育を受けることはできるはずですよ」
ふむ。まったく知らないというわけでもないし、そこそこ安定した生活は約束されていると言うわけか。
「それに、何より良い人たちですし」
その一言を待つまでもなく、俺はロイド家の子どもとして転生することを決断していた。あの亜人の少女のことも気になるしな。
「わかった。ではロイド家の子どもとして転生する」
あとの問題は、女神からなるべく多くの加護を引き出すことと、何よりも何よりも転生に失敗させないことだ。今回はそもそも勇者転生ではないし、さすがにもう失敗は……いや、これはフラグだな。警戒度100%で臨まなくては。
「よっしゃぁぁ、どっからでも掛かってこいやぁぁ!」
「えぇぇぇえ!?」
――――――
―――
―
~ 結果 ~
無事に転生することができました。
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