11 / 92
第一章 長い長いプロローグ(だって二回も転生しますよね)
第10話 セクハラ
しおりを挟む
ラローリー婦人の告発は当初、王国の民である領民を自らの享楽のために殺害したことに対して行われる予定だった。隣国サマワールの貴族殺害は偶然が重なった結果に過ぎなかった。
他国とは言え貴族を殺害したラローリー婦人に対する悪評は瞬く間に広まり、奴隷や領民だけでなく貴族でさえ婦人の所業を強く非難した。
怯えた奴隷たちが、主人である貴族や商人に反抗して殺害にまで至る事件が発生するようになる。
こうした混乱が拡大する前に、俺は王国中に『奴隷への不当な虐待はこれを許さぬ』という布告を出し、『奴隷は城、奴隷は石垣……』のシンゲン宣言を広く知らしめた。
「あの布告以降、奴隷育成制度に反対だった貴族たちは一斉に鳴りを潜めましたからね」
「だが賛成に意見を変えたというわけではないだろう。実績を積み重ねていって、奴隷を大事に扱った方が利益を生むということを地道に覚らせていくしかない」
「陛下のおっしゃる通りです。ただ、以前とは違って制度改革への露骨な妨害や嫌がらせはなくなりました。正直なところ、それだけでも大変ありがたいと思います」
「まだまだ苦労を掛けるがよろしく頼むぞ」
「もちろんです。王と王の民に栄えあれ」
――――――
―――
―
~ ラヴェンナ大聖堂 ~
この王都にある大聖堂には、女神ラヴェンナが魔王を倒すため勇者に授けた『聖具』と呼ばれる聖剣と鎧具、指輪が保管されている。
「ふんぬぉぉぉぉ!」
防具はそれぞれ台座の上に乗せられているが、勇者以外のものでは持ち上げることさえできないとされている。そのため保管場所を移すためには数十人がかりで台座ごと動かすしかない。
「うほぉぉぉぉん!」
聖具を身に着けて勇者として認められれば、栄誉と金のみならず王国から魔王討伐の全面的バックアップが得られるとあって、毎日のように挑戦者が来ていた。
そのため祈りの時間以外に大聖堂を訪れると、挑戦者の奇声が響いているという司祭たちにとっては由々しき事態となっている。
また、いつの間にか勇者になったら王の孫娘アルテシアと結婚できるという噂まで広まっているらしく、それを目当てに挑戦する不届き者も増えているらしい。
馬鹿が! その穢れなき輝くような美しさから、明けの明星と称えられるアルテシアと結婚するのは俺に決まっているだろう!
俺なんかアルテシアが小さい頃に『大きくなったらおじいちゃんと結婚する!』と婚約まで交わしているのだぞ。
もし勇者がアルテシアと結婚するというなら――
俺が勇者をぶっ潰す!
「カシマさま」
隣にいる黒髪の女剣士が俺の偽名を使って呼び掛けてきた。その鋭く細い目から放たれる眼光を見て我に返った俺は、お忍びでこの大聖堂を訪れていたことを思い出し、彼女に頷くとそのまま司祭の前へと進み出た。
今ならもしかして聖具を動かせるのではないか? そんな希望を捨て切れず、俺は定期的に大聖堂を訪れては聖具に挑戦していた。
ただ失敗したとき恥ずかしいので、お忍びという形をとっている。隣のカルラは、俺が無茶しないようにと王妃が付けたお目付け役だ
「陛下……ではなく冒険者様、聖具の前へどうぞ」
見分役の司祭がいささかうんざりとした調子で、聖具に挑戦するよう俺に告げた。お忍びと言っても大聖堂の人間にはバレバレである。
「ぐおぉぉぉぉぉぉ!」
いつものように俺は端からひとつずつ挑戦していくが、結果はいつも通り1ミリも動かすことは叶わなかった。俺は聖具の前から退いて聖堂内の椅子に腰かける。
「……くそっ!」
「ご満足なされましたか? それでは次の冒険者様、聖具の前へ」
かなり無様な姿をさらしたが、挑戦者たちのそんな姿を毎日飽きるほど見続けている司祭は淡々と次の冒険者の見分を進めていく。
カルラの方はと見てみれば、真っ赤にした顔を隠しながら笑うのを必死に我慢していた。
物凄く腹が立ったものの、ここで怒ると却って余計な燃料を投下してしまうことになるのでグッと堪えることに……するつもりだったが我慢できなかった。
「行くぞ!」
「きゃっ!?」
笑いを隠すために俺から顔を背けているカルラの尻を、立ち上がりざまに撫でてやった。訂正する。撫でまわしてやった。
セクハラという言葉はこの世界には存在しないし、何しろ俺は超権力者なので超問題ない。
だがきっと後から王妃の長い説教があるだろうことを考えると、今かなり後悔していることは正直なところ認めざるを得ない。
「カルラよ、いつまでふくれっ面で睨んでいるのだ。その顔もまた美しいとは思うが、通りすがりの連中がまるで俺がお前に酷いことをしたと勘違いするではないか」
「陛下……カシマさまは酷いことをしました!」
「馬鹿な。ジジイの尻撫では乳を大きくする効果があることを知らんのか」
カルラの美しい眉がピクリと動いた。カルラは細身のスラリとした美人だが、なぜか巨乳に対して憧れというかコンプレックスを持っている。
決してちっパイというわけでもないのに、どうしてそうも胸の大きさを気にしているのかはよくわからない。
そのことを知っている俺は悪いとは思いつつも、つい虫の居所が悪いときにはからかってしまうことがあった。
「胸が大きく……それは本当ですか!? これは王妃様に確認しなくては」
「わかった。昼は好きなものを好きなだけご馳走しようじゃないか。だからそれはやめなさい」
いくら彼女をからかったところで結局のところは、その代償を俺は支払うハメになるのだが。
その日は、カルラに連れまわされて高級料理店を2件はしごした後、さらに王妃に贈るお土産の買い物に付き合わされた。
聖具への挑戦で体力と気力を奪われくたくたになった俺は、城に戻った後で王妃に呼び出され、2時間の説教を喰らうことになる。
他国とは言え貴族を殺害したラローリー婦人に対する悪評は瞬く間に広まり、奴隷や領民だけでなく貴族でさえ婦人の所業を強く非難した。
怯えた奴隷たちが、主人である貴族や商人に反抗して殺害にまで至る事件が発生するようになる。
こうした混乱が拡大する前に、俺は王国中に『奴隷への不当な虐待はこれを許さぬ』という布告を出し、『奴隷は城、奴隷は石垣……』のシンゲン宣言を広く知らしめた。
「あの布告以降、奴隷育成制度に反対だった貴族たちは一斉に鳴りを潜めましたからね」
「だが賛成に意見を変えたというわけではないだろう。実績を積み重ねていって、奴隷を大事に扱った方が利益を生むということを地道に覚らせていくしかない」
「陛下のおっしゃる通りです。ただ、以前とは違って制度改革への露骨な妨害や嫌がらせはなくなりました。正直なところ、それだけでも大変ありがたいと思います」
「まだまだ苦労を掛けるがよろしく頼むぞ」
「もちろんです。王と王の民に栄えあれ」
――――――
―――
―
~ ラヴェンナ大聖堂 ~
この王都にある大聖堂には、女神ラヴェンナが魔王を倒すため勇者に授けた『聖具』と呼ばれる聖剣と鎧具、指輪が保管されている。
「ふんぬぉぉぉぉ!」
防具はそれぞれ台座の上に乗せられているが、勇者以外のものでは持ち上げることさえできないとされている。そのため保管場所を移すためには数十人がかりで台座ごと動かすしかない。
「うほぉぉぉぉん!」
聖具を身に着けて勇者として認められれば、栄誉と金のみならず王国から魔王討伐の全面的バックアップが得られるとあって、毎日のように挑戦者が来ていた。
そのため祈りの時間以外に大聖堂を訪れると、挑戦者の奇声が響いているという司祭たちにとっては由々しき事態となっている。
また、いつの間にか勇者になったら王の孫娘アルテシアと結婚できるという噂まで広まっているらしく、それを目当てに挑戦する不届き者も増えているらしい。
馬鹿が! その穢れなき輝くような美しさから、明けの明星と称えられるアルテシアと結婚するのは俺に決まっているだろう!
俺なんかアルテシアが小さい頃に『大きくなったらおじいちゃんと結婚する!』と婚約まで交わしているのだぞ。
もし勇者がアルテシアと結婚するというなら――
俺が勇者をぶっ潰す!
「カシマさま」
隣にいる黒髪の女剣士が俺の偽名を使って呼び掛けてきた。その鋭く細い目から放たれる眼光を見て我に返った俺は、お忍びでこの大聖堂を訪れていたことを思い出し、彼女に頷くとそのまま司祭の前へと進み出た。
今ならもしかして聖具を動かせるのではないか? そんな希望を捨て切れず、俺は定期的に大聖堂を訪れては聖具に挑戦していた。
ただ失敗したとき恥ずかしいので、お忍びという形をとっている。隣のカルラは、俺が無茶しないようにと王妃が付けたお目付け役だ
「陛下……ではなく冒険者様、聖具の前へどうぞ」
見分役の司祭がいささかうんざりとした調子で、聖具に挑戦するよう俺に告げた。お忍びと言っても大聖堂の人間にはバレバレである。
「ぐおぉぉぉぉぉぉ!」
いつものように俺は端からひとつずつ挑戦していくが、結果はいつも通り1ミリも動かすことは叶わなかった。俺は聖具の前から退いて聖堂内の椅子に腰かける。
「……くそっ!」
「ご満足なされましたか? それでは次の冒険者様、聖具の前へ」
かなり無様な姿をさらしたが、挑戦者たちのそんな姿を毎日飽きるほど見続けている司祭は淡々と次の冒険者の見分を進めていく。
カルラの方はと見てみれば、真っ赤にした顔を隠しながら笑うのを必死に我慢していた。
物凄く腹が立ったものの、ここで怒ると却って余計な燃料を投下してしまうことになるのでグッと堪えることに……するつもりだったが我慢できなかった。
「行くぞ!」
「きゃっ!?」
笑いを隠すために俺から顔を背けているカルラの尻を、立ち上がりざまに撫でてやった。訂正する。撫でまわしてやった。
セクハラという言葉はこの世界には存在しないし、何しろ俺は超権力者なので超問題ない。
だがきっと後から王妃の長い説教があるだろうことを考えると、今かなり後悔していることは正直なところ認めざるを得ない。
「カルラよ、いつまでふくれっ面で睨んでいるのだ。その顔もまた美しいとは思うが、通りすがりの連中がまるで俺がお前に酷いことをしたと勘違いするではないか」
「陛下……カシマさまは酷いことをしました!」
「馬鹿な。ジジイの尻撫では乳を大きくする効果があることを知らんのか」
カルラの美しい眉がピクリと動いた。カルラは細身のスラリとした美人だが、なぜか巨乳に対して憧れというかコンプレックスを持っている。
決してちっパイというわけでもないのに、どうしてそうも胸の大きさを気にしているのかはよくわからない。
そのことを知っている俺は悪いとは思いつつも、つい虫の居所が悪いときにはからかってしまうことがあった。
「胸が大きく……それは本当ですか!? これは王妃様に確認しなくては」
「わかった。昼は好きなものを好きなだけご馳走しようじゃないか。だからそれはやめなさい」
いくら彼女をからかったところで結局のところは、その代償を俺は支払うハメになるのだが。
その日は、カルラに連れまわされて高級料理店を2件はしごした後、さらに王妃に贈るお土産の買い物に付き合わされた。
聖具への挑戦で体力と気力を奪われくたくたになった俺は、城に戻った後で王妃に呼び出され、2時間の説教を喰らうことになる。
0
☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆*:.。. o(≧▽≦)o
【 関連話 】
異世界転生ハーレムプラン ~ 最強のスキルが【幼女化】ってマジですか?~
うっかり女神の転生ミス……って今度は護衛艦ですか? しかも艦長が幼女とか、もういい加減にしろ!
終わりの国のコメディアン
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。
ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった
16歳の少年【カン】
しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ
これで魔導まで極めているのだが
王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ
渋々それに付き合っていた…
だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう
この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである
※タイトルは思い付かなかったので適当です
※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました
以降はあとがきに変更になります
※現在執筆に集中させて頂くべく
必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします
※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ
Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_
【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】
後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。
目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。
そして若返った自分の身体。
美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。
これでワクワクしない方が嘘である。
そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる