8 / 92
第一章 長い長いプロローグ(だって二回も転生しますよね)
第7話 やるべきこと
しおりを挟む
うん。気持ちを切り替えていこう。そう自分に言い聞かせて行動することにする。
前回の奴隷少年時代と違って、今度は老いたりとはいえ大国の王。できることは幾らでもあるはずだ。
魔王がいつ現れるかわからないが、うっかり女神の話を信じるならまだ何年か先のことだろう。あの女神のことだ、ややもすれば俺が生きている間には現れないかもしれない。
もしできるなら魔王の芽を摘んでしまう方法も試してみようと思っている。ウルス王の力なら、幼年期の魔王を見つけることだってできるかもしれない。何しろやれることは全部やってみよう。
「諦めたらそこで終わりだからな!」
「陛下!?」
俺がいきなり大声を上げてしまったので、隣にいた王妃を驚かせてしまった。
「いやすまん。考え事をしていてな」
王が健康を回復したと聞きつけて、王族や貴族だけでなく、連合諸国からも毎日のように使者が訪れる。
もちろん単なるお見舞いではない。王位継承について全員が何かしら腹に抱えているのはわかっている。正直なところ、あまりにも露骨過ぎて辟易とするばかりだ。
そうした日々の面会を適当にこなしつつ、俺はこれからやるべきことを整理していった。ざっとこんな感じだ。
・聖具を手に入れて勇者になる。
・勇者が活躍できる環境づくり。
・魔王の調査。可能なら発見次第これを駆逐。
・労働環境改善を主軸とした奴隷制度改革。
何よりまずは聖具を手に入れて、予定より早く魔王が出現した場合でも対応ができるようにする。同時に、勇者としての力を十分に発揮できる環境を整えていくつもりだ。
魔王については早急にその所在を特定して、可能であれば芽が出る前に潰してしまいたい。
奴隷制度については前世の辛い経験もあるので、最初は奴隷解放までやってしまいたいと考えていた。
しかし検討を進めるに従って、食糧を始めとしてあらゆるモノの生産能力が低く、天災に対しても虚弱な今の世界では、どうしても奴隷に頼らざる得ないという実状も理解するようになった。
こんな状況で奴隷解放なんて掲げたら国中が戦火に包まれかねない。
そこで、とりあえず奴隷を家畜以下の扱いとする状況を改めさせることから始めることにした。
奴隷を大事に扱って、彼らの生活環境を改善する投資を行うことで労働生産性が上がり、さらには彼らから忠誠心を得ることができる。そのことを王侯貴族に理解させれば、後は勝手に改革が進んでいくだろう。
やるべきことは山のようにあるが、俺はまず手近なところから手をつけていくことにした。
「ふむ。まずはすぐに出来る『聖具』の入手からいくか」
「はい? 『聖具』とおっしゃられましたか? すぐに出来る?」
近衛騎士長のエルヴァスが、素っ頓狂な声を上げて俺に尋ねる。エルヴァスは長年に渡って共に戦場を駆け抜けてきた盟友であり、信頼できる臣下の一人だ。俺より6つ年下ではあるが、互いにジジイであることに変わりはない。
「まだ耳が遠くはなっていないようだな、エルヴァス。そうだ!今から『聖具』を受け取りに行くぞ」
「陛下はこれまで何度も聖具に挑戦して失敗しているではありませんか」
「そうだな。しかし、今なら聖具に受け入れられるような気がするのだ」
「わかりました! それでは早速、大聖堂に連絡いたしましょう」
エルヴァスの表情には、俺がきまぐれに何か面白いことを始めようとしているのだと確信していることがありありと見えた。
まぁ、失敗する様子を脳裏に思い描いているのだろう。それはそれで仕方がない、エルヴァスは俺が勇者転生していることを知らないのだから。
――――――
―――
―
大聖堂。
「んごぉぉぉぉぉぉ!」
俺は聖剣を持ち上げようと顔を真っ赤にして奮闘するが、1ミリも動かすことができなかった。その場にいた全員が俺から顔を背け、口元に手をやって噴き出すのを堪えているのが先程からチラチラ見える。
笑った奴らは後で死刑に処そう。
「ぐぬぅぅぅぅぅぅ!」
聖なる兜も鎧も小手もグリーブも全く動かすことができなかった。エルヴァスは大爆笑し、司祭やシスターらも肩を震わせている。同行していた王妃まで口元に手を当てて笑っていた。
畜生! みんな覚えてろ!
「んほぉぉぉぉぉぉ!」
一番小さくて動かせそうに見えた聖なる指輪でさえ、微動だにさせることはできなかった。
頭に血が上り過ぎて額に血管が浮き出るようになると、さすがに王妃が顔を真っ青にして俺に駆け寄ってきて、これ以上の挑戦を止めるよう懇願してきた。
「むぅ。何故だ……」
「お身体に触ります。お願いですからもうお止めになって」
俺を心配するあまり王妃の顔が青ざめていた。仕方がない。俺は司祭に向かって挑戦を断念する旨を伝えた。
「数多の戦場を勇猛に駆け抜けた炎王ウルスであってさえ聖具はその身を預けようとしませぬ。未だ見ぬ勇者とはいかばかりの猛者でありましょうな」
遠い目をしてそう言う司祭に対して、俺は少しでもくやしさを紛らわそうと適当に言葉を返す。
「そうだな。しかし、意外と非力そうな少女が軽々と聖剣を掲げるのかも知れんぞ」
「女神の加護なれば、そういうこともあるやもしれませぬ」
いや、自分で言っておいてなんだが、そんなことはないはずだ……。俺は聖堂の最奥部に立つ大きな女神ラヴェンナ像を睨みつけながら、心の中でポンコツ女神に罵詈雑言を浴びせかけた。
あのルーキー、またやらかしやがったな。俺をこの老体に転生させただけじゃなく、勇者転生にも失敗してるじゃねーか! つまり今の俺は……
ただのジジイじゃねーかよ!
「ちっきしょーめぇぇぇ!」
俺の悔しい気持ちが精一杯に込められた魂の叫びが大聖堂に響き渡った。
前回の奴隷少年時代と違って、今度は老いたりとはいえ大国の王。できることは幾らでもあるはずだ。
魔王がいつ現れるかわからないが、うっかり女神の話を信じるならまだ何年か先のことだろう。あの女神のことだ、ややもすれば俺が生きている間には現れないかもしれない。
もしできるなら魔王の芽を摘んでしまう方法も試してみようと思っている。ウルス王の力なら、幼年期の魔王を見つけることだってできるかもしれない。何しろやれることは全部やってみよう。
「諦めたらそこで終わりだからな!」
「陛下!?」
俺がいきなり大声を上げてしまったので、隣にいた王妃を驚かせてしまった。
「いやすまん。考え事をしていてな」
王が健康を回復したと聞きつけて、王族や貴族だけでなく、連合諸国からも毎日のように使者が訪れる。
もちろん単なるお見舞いではない。王位継承について全員が何かしら腹に抱えているのはわかっている。正直なところ、あまりにも露骨過ぎて辟易とするばかりだ。
そうした日々の面会を適当にこなしつつ、俺はこれからやるべきことを整理していった。ざっとこんな感じだ。
・聖具を手に入れて勇者になる。
・勇者が活躍できる環境づくり。
・魔王の調査。可能なら発見次第これを駆逐。
・労働環境改善を主軸とした奴隷制度改革。
何よりまずは聖具を手に入れて、予定より早く魔王が出現した場合でも対応ができるようにする。同時に、勇者としての力を十分に発揮できる環境を整えていくつもりだ。
魔王については早急にその所在を特定して、可能であれば芽が出る前に潰してしまいたい。
奴隷制度については前世の辛い経験もあるので、最初は奴隷解放までやってしまいたいと考えていた。
しかし検討を進めるに従って、食糧を始めとしてあらゆるモノの生産能力が低く、天災に対しても虚弱な今の世界では、どうしても奴隷に頼らざる得ないという実状も理解するようになった。
こんな状況で奴隷解放なんて掲げたら国中が戦火に包まれかねない。
そこで、とりあえず奴隷を家畜以下の扱いとする状況を改めさせることから始めることにした。
奴隷を大事に扱って、彼らの生活環境を改善する投資を行うことで労働生産性が上がり、さらには彼らから忠誠心を得ることができる。そのことを王侯貴族に理解させれば、後は勝手に改革が進んでいくだろう。
やるべきことは山のようにあるが、俺はまず手近なところから手をつけていくことにした。
「ふむ。まずはすぐに出来る『聖具』の入手からいくか」
「はい? 『聖具』とおっしゃられましたか? すぐに出来る?」
近衛騎士長のエルヴァスが、素っ頓狂な声を上げて俺に尋ねる。エルヴァスは長年に渡って共に戦場を駆け抜けてきた盟友であり、信頼できる臣下の一人だ。俺より6つ年下ではあるが、互いにジジイであることに変わりはない。
「まだ耳が遠くはなっていないようだな、エルヴァス。そうだ!今から『聖具』を受け取りに行くぞ」
「陛下はこれまで何度も聖具に挑戦して失敗しているではありませんか」
「そうだな。しかし、今なら聖具に受け入れられるような気がするのだ」
「わかりました! それでは早速、大聖堂に連絡いたしましょう」
エルヴァスの表情には、俺がきまぐれに何か面白いことを始めようとしているのだと確信していることがありありと見えた。
まぁ、失敗する様子を脳裏に思い描いているのだろう。それはそれで仕方がない、エルヴァスは俺が勇者転生していることを知らないのだから。
――――――
―――
―
大聖堂。
「んごぉぉぉぉぉぉ!」
俺は聖剣を持ち上げようと顔を真っ赤にして奮闘するが、1ミリも動かすことができなかった。その場にいた全員が俺から顔を背け、口元に手をやって噴き出すのを堪えているのが先程からチラチラ見える。
笑った奴らは後で死刑に処そう。
「ぐぬぅぅぅぅぅぅ!」
聖なる兜も鎧も小手もグリーブも全く動かすことができなかった。エルヴァスは大爆笑し、司祭やシスターらも肩を震わせている。同行していた王妃まで口元に手を当てて笑っていた。
畜生! みんな覚えてろ!
「んほぉぉぉぉぉぉ!」
一番小さくて動かせそうに見えた聖なる指輪でさえ、微動だにさせることはできなかった。
頭に血が上り過ぎて額に血管が浮き出るようになると、さすがに王妃が顔を真っ青にして俺に駆け寄ってきて、これ以上の挑戦を止めるよう懇願してきた。
「むぅ。何故だ……」
「お身体に触ります。お願いですからもうお止めになって」
俺を心配するあまり王妃の顔が青ざめていた。仕方がない。俺は司祭に向かって挑戦を断念する旨を伝えた。
「数多の戦場を勇猛に駆け抜けた炎王ウルスであってさえ聖具はその身を預けようとしませぬ。未だ見ぬ勇者とはいかばかりの猛者でありましょうな」
遠い目をしてそう言う司祭に対して、俺は少しでもくやしさを紛らわそうと適当に言葉を返す。
「そうだな。しかし、意外と非力そうな少女が軽々と聖剣を掲げるのかも知れんぞ」
「女神の加護なれば、そういうこともあるやもしれませぬ」
いや、自分で言っておいてなんだが、そんなことはないはずだ……。俺は聖堂の最奥部に立つ大きな女神ラヴェンナ像を睨みつけながら、心の中でポンコツ女神に罵詈雑言を浴びせかけた。
あのルーキー、またやらかしやがったな。俺をこの老体に転生させただけじゃなく、勇者転生にも失敗してるじゃねーか! つまり今の俺は……
ただのジジイじゃねーかよ!
「ちっきしょーめぇぇぇ!」
俺の悔しい気持ちが精一杯に込められた魂の叫びが大聖堂に響き渡った。
0
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説
スマートシステムで異世界革命
小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 ///
★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★
新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。
それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。
異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。
スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします!
序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです
第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練
第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い
第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚
第4章(全17話)ダンジョン探索
第5章(執筆中)公的ギルド?
※第3章以降は少し内容が過激になってきます。
上記はあくまで予定です。
カクヨムでも投稿しています。
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります
まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。
そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。
選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。
あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。
鈴木のハーレム生活が始まる!
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
異世界エステ〜チートスキル『エステ』で美少女たちをマッサージしていたら、いつの間にか裏社会をも支配する異世界の帝王になっていた件〜
福寿草真@植物使いコミカライズ連載中!
ファンタジー
【Sランク冒険者を、お姫様を、オイルマッサージでトロトロにして成り上がり!?】
何の取り柄もないごく普通のアラサー、安間想介はある日唐突に異世界転移をしてしまう。
魔物や魔法が存在するありふれたファンタジー世界で想介が神様からもらったチートスキルは最強の戦闘系スキル……ではなく、『エステ』スキルという前代未聞の力で!?
これはごく普通の男がエステ店を開き、オイルマッサージで沢山の異世界女性をトロトロにしながら、瞬く間に成り上がっていく物語。
スキル『エステ』は成長すると、マッサージを行うだけで体力回復、病気の治療、バフが発生するなど様々な効果が出てくるチートスキルです。
異世界でスキルを奪います ~技能奪取は最強のチート~
星天
ファンタジー
幼馴染を庇って死んでしまった翔。でも、それは神様のミスだった!
創造神という女の子から交渉を受ける。そして、二つの【特殊技能】を貰って、異世界に飛び立つ。
『創り出す力』と『奪う力』を持って、異世界で技能を奪って、どんどん強くなっていく
はたして、翔は異世界でうまくやっていけるのだろうか!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる