うっかり女神の転生ミスで米寿なのに勇者にされたんじゃが

帝国妖異対策局

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第1話 うっかり米寿転生

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 相模進三郎は88歳の米寿祝いを迎えていた。

 子供や孫たちに囲まれて幸せに打ち震えている中、彼の身体が光に包まれて消失する。

 平成の神隠しと呼ばれるこの事件。当初は家族に哀しみをもたらしたものの、時が過ぎるに従って「祖父ちゃんは本当に天国に行けたんだね」と綺麗な思い出として相模家において語り継がれることになる。

 ある意味それは間違いではなかった。

「ようこそ天上界へ! 相模進三郎さん、あなたはこれから勇者となって異世界の魔王を倒すのです!」



 相模進三郎は、これが孫たちが良く言っていた異世界転生というものかとすぐに納得し、女神ヴァルキリエの命を受け、ファフナール大陸の覇を狙う魔王を倒すために転生する。

 女神ヴァルキリエは勇者転生の際に必要となる進三郎の戦果ポイントを確認して目を見張る。

「さすが元大日本帝国陸軍少尉相模進三郎、 アンガウルの戦いでたった一人で米戦艦を沈めただけのことはあるわね。これなら沢山【スキル】を付けてあげられるわ!」

「おぉ、それはありがたいのぉ」

「それじゃ早速転生するわね! 転生開始! って……あぁっ!?」

「どうされましたかの」

「あぁぁぁ、転生ミスったぁぁ」

――――――
―――


 相模進三郎はファフナール大陸に転生していた。

 しかし、孫たちから聞いていた転生とは違っているような気がした。

「ふむ。若返ったり、外人さんに変身したりはせんのじゃな」

 相模進三郎88歳はそのままの年齢と姿で転移されていた。進三郎の視界には数々のスキルが表示されている。なるほど、この中から必要な機能を選んでいけばいいのだなと進三郎はすぐに理解した。

「紫電改の操縦と比べたら簡単なものじゃわい。どれ、このスキル【見守りGPS】を使ってみるかの」

 スキルを発動すると視界にマップがあらわれ、魔王のいる方向が矢印で示されていた。進三郎は杖に使えそうな木の棒を拾うと、とことこと歩き始めた。

「よう爺さん! どこに行くんだい!」

 農夫が進三郎に声を掛けてきた。進三郎が行きたい方向を指さすと、農夫は自分の時間の許す限りのところまで送ってくれた。

「じゃぁ爺さん、たっしゃでな!」

 ……ということを繰り返しているうちに、進三郎は魔王軍の本部前まで送ってもらうことができた。

「ジイサン・ゲンキ・デ・ナ」
「おお、地獄の赤鬼さんにこんなに親切にしてもらえるなんて。冥途の良い土産ができたわい」
「ソンナ・コト・イワズ・ナガイキ・シテ・クレヨ」

 ギガントオーガは手を振りながら魔の森へと消えていった。

「結局ここまで【見守りGPS】でこれてしまったの。次は……これかの?スキル【ナースコール】、来て欲しい人を呼び寄せることができるようじゃが」

 ブーっと周囲に音が響くと、魔王が必死で進三郎の前まで走ってきた。

「な、なんじゃ、わらわの身体が勝手に!?」

「なんと魔王はめんこいおなごじゃったか」

「ジジイ、貴様人間だな! どうやってここまで来た!」

「おぉ、おめぇは梅!?……梅じゃねーか! 戦争から生きて帰ってきたら、おめぇが行方不明だって聞いて、俺は……俺は……まぁ、仕方ねぇから松と見合いして子・孫には恵まれたけどよ。お前のことは一日足りとも忘れたこたぁねえんだぜ」

「なっ!? ジジイ! どうしてばっちゃんの真名を知っている!」

「……ってことは、お前は梅の孫なのか?」

「……ってことは、爺さんはばっちゃんの初恋の相手……」

 こうして女魔王は祖母の初恋相手を厚遇し、進三郎はサキュバスナースたちに介護されて122歳まで生きた。

 彼の存命中、女神から新たに転生された勇者が3名魔王城に訪れたが、2名は進三郎が一喝しただけで逃げ帰ってしまう。大日本帝国陸軍少尉の一喝は駆逐艦辺りであれば容易に轟沈させることができるのだ。

 三人目の勇者はなんとか踏みとどまった。進三郎はこの胆力がある勇者を大層気に入って、昔の恋人の孫娘との縁談を進めさせる。大日本帝国陸軍少尉の縁結び力はかつて敵対していた長州と薩摩の手を握らせたことでも知られている。

 こうして女魔王と勇者はめでたく夫婦となり、魔王国と人間国もみとのまぐわいの如くついには一つに結ばれることになった。大日本帝国陸軍少尉は国と国をもまぐわいさせてしまうのである。

 こうして122歳まで生きた進三郎はついにその生涯を終え……ようとしたところを、サキュバスナースのものすんごいテクニックによって133歳まで頑張ってしまう。

 88歳にして異世界へ来た相模進三郎は、45年の間に12人の子どもを設けたという。


~ お終い ~

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