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case3 異国日本からの転移者

クラスの連中への合流。

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 奥山には悩みがあった。
 他でもないアンネの事だ。

 奥山は剣崎達に早々に追放され、自由になった。
 奴隷達を侍らせ、気ままに振舞った。

 何でも出来る、と確信していた。

 日本人が異世界転移した時の、既に主人公軌道に乗ったなという実感もあった。だからこそ、最初に出会ったヒロインたる少女に未だに素っ気ない態度を取られるのは我慢ならなかった。

 自分の物にしたい、そんな支配欲がふつふつと湧いてくる。
 奥山はあのギルド職員に嫉妬していた。

 彼女の愛を一身に受ける男。
 あれ程の美貌、あれ程の恵まれた身体を持つ少女は他に何十といない。

 欲しい、あの子の身も心も真の意味で。
 全てが思い通りになる異世界で唯一手に入れられないもの。
 それを手にするために、もっと強くなろうと思った。

 剣崎へのざまぁは、その過程に過ぎない。
 言うなれば、コース料理の前菜だ。

 奥山は唇を舐めた。
 さて、


 □■□


「皆、よく聞け」

 エイハムは、一か月鍛錬した者達に声をかけた。

 一か月前、気弱で泣き喚くだけだった彼らはもういない。キッと戦士らしき双眸でエイハムを見つめる。これからエイハムが言う事を理解していた。

「この一か月、よく頑張った。過酷な鍛錬に耐え、武器を使いこなし、今では国を代表する戦力となった。そこで今日は早速実戦に移ろうと思う!」

「「「おおおぉぉぉおおおお!!!」」」

 彼らは、異世界日本から来た転移者。
 環境にも慣れ、現地にも友人が出来た。
 一か月前よりも、帰ろうという意識が希薄化していた。

 何故か。彼らが楽しむ事を覚えたからだ。

 この世界の食事や、様々な文化に触れて日々暮らしてきた。
 今じゃ長期旅行中としてこの生活に満足している。

 そして、剣や魔法の修練。
 これも、心を躍らせる要因になったらしい。


「俺達は強くなった。それを魔物共に示してやるぞ!」

 リーダーの男剣崎は剣を天に向けて掲げた。
 剣崎は鍛錬を人一倍頑張り、強くなる事に貪欲だった。

 彼だけは、強さへの執着を忘れていない。
 この世界において、強さは絶対的な権力だ。

 エイハムは全員の顔を見渡して頷いた。
 概ね、上手く纏まったなと自画自賛する。

 慣れない環境に精神を狂わせ、戦いから逃げる者もいくらかいると想像していたが、嫌々ながらも全員見事にこの場に居続けた。

「よし。では、今日行く迷宮について簡単におさらいだ」

 キャスター付きボードにイラストを書き込んでいく。

「目的地はここ、『シードの迷宮』だ。地下に点々とした小部屋が生成されるタイプの迷宮で、奇襲がしやすく初心者にはうってつけだ」

「ふむ。地下迷宮というからには、ここより少し離れた場所ですよね」

 聞き入っていた女の一人が、手を上げて発言した。

「どうしてそう思った?」

「地下に連続した空洞があるのに、その上に王都を築くのは危険でしょう。いつ地盤沈下が起こるか分からないですから」

「さすが、日本国の教養の深さは随一だな」

 言語の壁は『念話』効果を封じ込めた魔道具で解消している。
 そうすると転移前の日本という国の文明の発達度につくづく驚かされた。

「その通りだ。迷宮は王都郊外にある荒野にて発見された。雨によって土壌がぬかるみ、土砂が下に落下したおかげで発見されたのだ」

 発見されたのは、今から十年ほど前。
 迷宮は魔物が高頻度で湧くという不思議な性質を持っていた。

「出現する魔物は、スライムやゴブリンといった極めて弱い魔物しか出ない。ただし気を抜くな、ゴブリンは稀に、冒険者が落とした武器や防具を纏っているからな」

 とはいえ、怪我や全滅の心配はそうそうないと思っていた。
 転移者達の優れた『恩恵スキル』があれば、楽に討伐できる。

 何の憂いもない。

「騎士長エイハム様、至急お耳に入れて頂きたい事が」

 部下だ。エイハムの後ろで片膝をついた。

「なんだ」

「門前にてエイハム様に取り次いで貰いたいと申す者が現れました。名をと申しております」

「なにっ!?」

 奥山。奥山だと。
 奥山は初日にクラスによって追放された男の名だ。

 警戒対象とされたギルド職員ベリアルとも接触しており、奴隷商館にも赴いている。今更この地に足を運ぶ必要はないはず。

 奴の差し金か、とベリアルの顔を思い浮かべた。

「分かった。通せ」

「はっ」

 ざわざわと周囲もざわめきだす。
 いきなり奥山が帰ってきた事。そして、今から迷宮へ向かおうとしたこのタイミングでの登場に少なからず躊躇や警戒心を抱いていた。

 それはエイハムとて同じ事。

 不安の種を蒔きに来た。

 奥山はおずおずと身体を縮こませながら、この部屋へとやってきた。

「おい、のこのこと何しに来た、奥山」

「け、剣崎くん……今日から迷宮に行くって聞いて。それで、良かったらなんだけど、僕も連れて行ってくれないか。お願いだ、必ず邪魔はしないから」

 奥山は頭を下げた。
 剣崎はちっと舌打ちする。反抗心がまるでない。
 こちらに縋るしか方法が無かったのか、他所を当たる素振りもない。

「いきなり帰ってきたと思ったらそんな事かよ。奏の代わりに追放したってのに、全く恥とか知らねえのお前は。だからストーカーの変態野郎って言われんだ」

「な、なんと言ってくれても構わない。僕を助けてくれぇぇ」

 奥山は情けなく泣き叫ぶ。
 他の皆は既に同情の目を向けていた。

「なあ剣崎。もういいんじゃないか。奥山もこう言ってるしよ」

「そうよ。流石に可哀想……」

 奥山へ肩を持ち始める。
 奥山は表情を変えず、依然として地面に頭をこすりつけながら必死に頼み込んでいる。余程凄惨な生活を強いられたのだろう、と想像せずにはいられなかった。

 この場合、エイハムだけは別の意味で心臓が早鐘を打った。

「……」

 罠、の可能性が捨てきれない。
 見事な演技だったが、奥山は恐らく何らかの力を手にしていた。
 身に纏うオーラが、凡人のそれとは別物だ。

 目に見えない力、それを巧妙に隠している。
 重要な役回りを与えず、後方で控えさせる事にした。

「仕方あるまい、許可しよう。剣崎もいいな」

「あ、ああ……くそったれ」

 一瞬だが、奥山が白い歯を見せた気がした。
 気のせいだろうか、奥山は泣いて喜んでいた。

 これが全て演技なら彼の目的は……いったい何なのだろうか。
 答えが見つけられないまま、迷宮の入り口を目指した。
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