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case2 連れ去られた幼馴染

最終局面。

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 シスア・マイスターが放つ言葉。
 あれは、ケージが敗北した世界線で聞いた言葉だった。

 招待された際の夕食に毒が盛られており、カナリアは毒殺される。その未来を変える為の決闘が───無駄に終わった。

 勝敗に関わらず、屋敷でのパーティーは開催される。
 即ち、カナリアの暗殺は必ず起こるという事。

「アイシャさん。少し野暮用を思い出したので出口で待っていてください。この後二人用のディナーを予約してあるので野暮用が終わり次第向かいましょう」

「えっ……本当ですかっ」

 思いもよらない申し出に困惑している様だった。
 だが、食事の約束自体は向こうから言い出した事だ。
 予定とは少し違うが、気に入らないならまた行けばいい。

「分かりましたっ、じゃあ待ってますねっ!」

 俺の心配が杞憂に終わった。
 パタパタと駆けていくアイシャを尻目に、俺はすぐ側までやって来ていた傭兵のアルドへと目を移した。

「たった今、ベイタから連絡が来てな、指示通りに調べて来た。かなり興味深い情報が手に入ったぜ」

「ゆっくり聞いていたいのは山々ですが、手短にお願いします。早急に動く必要が出てきました」

「ああ」

 俺は、報告を聞くたびに不思議な感覚に襲われた。
 まるで、遠かった点同士が結び付いていく感覚。
 複雑に絡み合った思惑が徐々に紐解いていく。

「ケージ様はその事を知っておられるのでしょうか」

「多分知らねぇ。なんでも、すぐに発ったらしいからな」

 この後の展開を予想する。
 気になるのは、ケージが『先見』の内容を伏せた点。

 未来は絶え間なく見ていたはず。
 そして、彼が見た未来の真実とは……。

「待てよ……」

 ピンと何かが降り下りた。
 それがきっかけに、全てが繋がる。

「そうか……分かった!」

「旦那? 何が分かったんだ……?」

「すみませんが、説明している時間はありません。このまま放っておけば恐らく、

「はあ? それってどういう意味……ったく、相変わらず旦那はいつも一人で動きやがる。俺達に労いの言葉一つねぇのかよ」

「お疲れ様で~す」

「聞こえてたなら、せめて説明を……旦那っ」

 俺は闘技場の客席を全速力で進み、場内に出た。

 予定変更だ、出入り口近くにいたアイシャに声をかける。

「あ、野暮用終わったんですね。お疲れ様です」

「アイシャさん。少し、俺に付き合ってください」

「へあっ!?」

 この闘技場は、マイスター家が保有する施設の一つで、屋敷はこの近くだ。
 歩きで移動しているなら、そう遠くに行っていないはず。

 見つけた。

「探しましたよケージ様。見事な活躍でした」

 俺が追い付いて、ケージの背中に手をかけた。
 俺の姿を見るや否や、僅かに表情を曇らせて微笑んだ。

「こちらはどなたかな?」

「一週間、ボクに稽古を付けて貰っていた、ギルド職員の方で、名をベリアルさんと言います。横にいるのは……」

「すみません、俺の連れでついでにと思って」

「アイシャです。先の戦闘は本当にお見事でした。まさかあの有名なオルゴ様と互角に張り合うばかりか勝利して見せるとは!」

 アイシャは急展開ながらもすらすらと言葉をかわす。特に考えるまでもなく、素直に感じたからこそ余計な演技をする必要が無かったのだろう。

 横にいたオルゴはバツが悪そうに頭をかきつつも、はあとわざとらしく息を吐いた。

「なるほど、優秀なギルド職員がいたものだ。私が一週間前に彼を見た時は、とても戦える風貌には見えなかったが、僅かな間に見違えた様だったぞ」

 素直に負けを認める辺り、悪い人間ではないのだろう。
 それはそうだ、カナリアを連れ去ったのは決してこの男の私欲ではなかったのだから。

「ケージの関係者という訳か、なら君たちの屋敷に歓迎しよう。パーティーの来賓者は既にこちらで決めているが、予め明きを作っておいたのだ。よかったら如何かな」

 やはり、勝敗に関わらずケージを呼ぶつもりだったか。
 当のケージはキッと目を細める。
 殺される未来を知っている人間ならば当然の反応か。

「では喜んで。アイシャさんもそれで宜しいですよね」

「はい、勿論です」

 貴族の誘いを無下にすれば、後でどんな文句を言われるか分かったものじゃない。その辺りは既に心得ているのか、機械的に応答していた。

 この集団にはもう一人、争いの火種となった人物がいる。
 ケージの横で顔を俯かせる少女の名、カナリア。

 絶望に満ちた顔。
 まるでオルゴの敗北を予期していなかったらしい。

 未来を変えたのはたった一つの『恩恵スキル』だ。
 それが、大きく歯車を狂わせる。

 それを証明したのは、ケージであり、今からそれを再び証明するのは、俺になる。

 さて、最終局面だ。

 この後、俺は手にする───を。

 邪魔する奴は容赦しない。
 それは、例え相手が依頼者であってもだ。




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