上 下
21 / 40
case3 異国日本からの転移者

新たなる来訪者。

しおりを挟む
 
「ひぐ、ううっ……悠里」

 こうなるだろうと予想していた。
 俺の過去は正直、かなり心にくる話ばかりだ。

 三年前の話を今まで引きずっている訳ではない。
 それだけの月日が経てば、誰だって人は変わる。今の俺は、昔ほど情報に執着していないし、人を物のように見る事はなくなった。

 アルド、ベイタ、ガルムの傭兵三人は今じゃ俺の立派な仲間だ。

「泣くなって……今は幸せだからさ」

「幸せって、悠里。彼女さんとか出来たの……ああ、そっか。さっき悠里の隣に座ってた受付嬢のお姉さん、かなり美人さんだったもんね。三年も経てば仕方ないか」

「いやいや。話すようになったのも随分最近の話で、奏が思ってるような関係じゃない。それに最近は仕事の方がかなり忙しくてそれどころじゃないんだ」

 俺が制服の裾をくいっと引っ張ると、奏は俺が今何をやっているかを理解した様だ。生前のゲーム経験やライトノベルの知識が役に立ったのだろう。

「前にって言っても、結構昔だけど、色々貸してくれてたから知ってる。冒険者ギルドって言うんでしょ、そういうの。悠里は直接戦ったりしないの?」

「俺は、冒険者のサポートをしているのが性に合ってるみたいだ」

「ふぅん……。受付嬢さんと一緒に居たいから?」

「ね、根に持ちすぎだろ。関係ないって」

 妙な勘繰りをされてしまった。確かにアイシャは、この世界の女性の中ではかなり仲のいい部類に入る。それは、一生懸命な生き方が、俺には眩しく見えて俺の知らない世界だと思えたからだ。関わっているのは一種の教養の為、のはずだ。

 下心は多分、ない。

「怪しいなぁ、まあいいや」

 奏は何とか引き下がってくれた。
 顔を見つめてくすくすと笑っている。ここに来る前の落ち込んだ表情が嘘の様だ。そんな事を思っていると、ようやく疑問が湧いてきた。

「ってか、奏はここで何してんの」

「あーそれ聞いちゃう。実は奏ね」


「はあ? 追放された!?」

「そうなんだ。異世界転移させられたはいいんだけど、奏が弱っちいせいで国王様に無能の烙印を押されちゃった」

「なら早く言ってくれ。今度のざまぁ対象は国王の野郎に決定だ」

「ちょ、ちょ、ちょ待って待って。早い早い、展開が早すぎ!」

 俺は待つつもり等なかった。
 勝手に召喚して、用なし宣言。これを黙って見ておく方がおかしい。ざまぁをするに十分すぎる動機だ。奏が止めても俺は国相手に喧嘩を始めるだろう。

「まあ、でも確かに変ではあるな。奏の『恩恵スキル』だけがその《鑑定機》とやらで見れなかったのには、何か理由があるはずだ。折角だし、俺の『鑑定』で見てみるか」

 俺は女神に貰った特別な『目』で奏を眺めた。

「『恩恵スキル』発動、『鑑定』ッ!!!」


 結果は。

 バチンッ!

 強烈な音と共に俺の『鑑定』が弾かれた。
 覗こうとしても、見えない障壁にぶつかったみたいだ。

「俺の『鑑定』でも見られない……?」

「やっぱり、奏にはないのかな」

「いや、違う。正確にはあるのに見る事が出来ないんだ。だが、これが最大のヒントでもある。奏の『恩恵スキル』は『恩恵スキル』を無効化する『恩恵スキル』なんだ」


 俺は試しに、『水球』を作り出した。数ある『恩恵スキル』の中でも比較的簡単な物だ。掌に乗っけたそれを奏の頭から被せて見る。奏は、んっと目を瞑ったが、ひんやりとした水気も、滴る水滴すら現れなかった。奏の体表に触れる前に水が霧散したのだ。

「やはりか。『恩恵スキル』で作り出した物質は奏に触れる事すら出来ない。この世界の対人戦じゃ無双する事間違いなしなのに、馬鹿な奴だな国王は」

「そうなの」

 この世界に来たばかりの奏はいまいちその強さがピンと来ていないらしい。俺は一番分かりやすい例えを考えて説明する。

「例えば、この世界の防具は『錬金』によって作られた金属を元に生成されている。だが、奏がぽんと一度触れただけできっとその防具は消失するはずだ。だって防具は実質『恩恵スキル』で作られているのだから」

「ああ、言われてみれば……確かに」

「他にもこの世界の殆どは『恩恵スキル』の力を借りて生活している。だから、奏という存在そのものがこの世界にとってのバランスブレイカーなんだ」

 きっと公に情報が広まれば、引っ張りだこになる事間違いない。どこぞの解体業者なんかには、建物の破壊に重宝するだろうか。

「とはいえ、『恩恵スキル』を自在に操れる様になるまではここから出ない方がいいだろうな。ちなみに昨晩は何してたんだ?」

「宿に泊まった。言葉が伝わらなかったから、身振り手振りを交えてね。宿主さんが親切な方で助かったよ、でもお風呂昨日から入れてなくて」

「仕方ないな。今日は俺の家に泊めてやる」

「ほんとっ、悠里大好き~!」

 女性にとってお風呂は死活問題だ。冒険者ギルドの仮眠室でおとなしくしとけと言われても至難の業だろう。ならば、簡単に解決策を提示してやる方がいい。

 三年ぶりとは言え、家の風呂を貸すのには慣れている。

「とと、結構話込んじゃったな。そろそろ仕事に戻るけど」

「奏は、悠里の働きぶりを見てる。あ、今はベリアルって名乗ってるんだっけ。えっへへ、格好いいよねべリアル。どうせウルト〇マンが元ネタでしょ」

「バレたか。じゃ、大人しくしとけよ」

「はあい」

 一気に騒がしくなった。
 それと同時に、何かが変わった。

 今まででも十分だった生活に確かな色が添えられた。元の日常が帰ってきたような、本当の平穏を手に入れられたような、そんな感覚だった。

 だから、今日からどんな生活が始まるのだろう、と少し楽しみにしていた。夜が待ち遠しい、まだ話していない事が沢山ある。三年もの月日を語り終わるにはまだ早い。

「あ、ベリアルさん。依頼者がお見えになっていますよ」

 立て続けの来訪者とは勘弁してほしい。
 とはいえ、仕事は仕事、メリハリは付けるべきだ。

 俺はパンと頬を叩いて営業へと戻る。


「僕は、追放された。何とかしてくれ」


 追放処理の方か。
 俺はふと後ろを見る。奏が驚愕してその男を見ていた。


「お、奥山君……?」

 その男は、奏の同級生だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...