上 下
33 / 43
第3章 冒険者ギルド

第33話 失った記憶。

しおりを挟む
「グラジオラス!」

 グロリオサだ。大剣を背負い、魔物の血肉を浴びながら、俺達が倒れるその場所までやって来た。

 彼女はAランク冒険者だ。俺達よりも遥かに経験が豊富で適切な判断を下す。更には、昇格試験で実力を目の当たりにしていただけに、ここまでやって来られるのも不思議ではなかった。

 ただ何故。なぜ彼女がここにいる。

「目撃者がいた。グラジオラスが向かった鉱山にて、ドラゴンの目撃情報が得られたんだ。推奨難易度は一気にAランクへと跳ね上がり、討伐隊にあたしが参加した」

 視線を後ろへと向ける。

「他の仲間も一緒だ。皆グラジオラスを心配している」

 そうか、それは良かった。
 助かったんだ、俺達は生きて帰れるんだ。

「大丈夫かい、グラス!」
「ちょっとボロボロじゃないの……」
「うわっ、痛そ……コトちゃん回復魔法っ」
「う、うん。分かった……!」

 スターチスにプロテア。コットンにルスカスまで。
 皆来てくれたんだ。

 急いで駆け寄ってくる。
 俺は安堵しきっていた、だから忘れていた。

「グラジオラス。?」

 え?



 しまった。今のラケナリアやカトレアは、憔悴しきっていて認識阻害魔法をかけられていない。角やしっぽが完全に露出している状態で見つかってしまった。

「こ、れは……」
「詳しくは後で聞こう……グラジオラス以外の2人も一応は治癒をしてやってくれ。その後連行する」

 癒しの光に包まれる。
 四肢の感覚が久しぶりに蘇る。

 ここで意識で手放してしまう方が楽だった。でも今の俺は一つだけ確認しておかなければならない。


「グロリオサさん。彼女達をどうするつもりですか」
「お前が聞いてどうする。関係がないだろ」
「もし、危害を加えるつもりならいくら貴女でも容赦はしない。リアとカトレアは、俺の仲間だ」

 グロリオサの眉が少しだけ上がった。

「───もし、殺すといったら?」

 俺は刀を持ち上げる。

「俺が止める」

 グロリオサはふっと笑って警戒を解いた。

「意外だなっ、お前がそこまで言うとは。余程大切な仲間とみた。お前達、その者達に布を被せておけ。今は混乱を避ける為、出来るだけ誤魔化すんだ」

 いつもの陽気な彼女に戻ると、四人に指示を送る。プロテアやコットンは率先してラケナリア達の保護に回った。

 魔族と人族が手を取り合う。
 そんな未来もかつてはあった。

 そして現代にも、その可能性はあるんだ。

 □■□

 あれから、数日が経った。
 皆には事情を説明し、俺が糾弾されるような事態に陥る事無く、平穏な日々を暮らしていた。

 グロリオサが中心となって事態を隠蔽し、落ち着くまでは俺が責任者となって二人を管理することになった。

 そう。戻った平穏な日々。
 でも、元通りにはいかなかった。


?」

 きっかけはラケナリアからの問いだ。
 その指輪を指差しながら。

……グラスなの?」

 思い出のあの人を、思い返すように。

「グラスが、私を助けた人族の冒険者なの?」

 俺は大切なナニカを忘れていた。
 だが記憶は戻ってきた。

 俺が鉱山からこの家に戻り、落ち着いた頃には───。
 指輪が爛々と光を発する。

「この指輪、『クロノリング』は魔物を倒した時に発生する魔力の残滓を吸収して魔法発動を助ける。それと同時に、俺がこの魔法で失った記憶が、戻ったんだ」


 アルデバラン。アンタレス。そしてドラゴン。
 強力な魔物を倒し、大量の魔力を吸収した『クロノリング』はようやくその本能を発現した。

 そして、俺という人間が誰なのかも全て思い出した。


 俺がFランク冒険者だった理由。
 ラケナリアを救ったという謎の過去。
 俺とは別の『俺』という存在。
 殺された俺の母親。

 ありとあらゆる謎が、記憶の解放によって解決された。


 そして、次に俺がする行動も全て理解した。


「リア。落ち着いて聞いてくれ。俺は───」







 次回、最終章。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

異世界最強のレベル1

銀狐
ファンタジー
世界的人気VRMMO【The World of Fantasy】略してTWF。 このゲームでは世界大会があり、1位を勝ち取った者のみだけ入れるギルドがある。 そのギルドに一通のメッセージが届いた。 内容は今まで見たことが無いクエストが書かれている。 俺たちはクエストをクリアするために承諾した。 その瞬間、俺たちは今までに見たことが無いところへ飛ばされた。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

忘れられた元勇者~絶対記憶少女と歩む二度目の人生~

こげ丸
ファンタジー
世界を救った元勇者の青年が、激しい運命の荒波にさらされながらも飄々と生き抜いていく物語。 世の中から、そして固い絆で結ばれた仲間からも忘れ去られた元勇者。 強力無比な伝説の剣との契約に縛られながらも運命に抗い、それでもやはり翻弄されていく。 しかし、絶対記憶能力を持つ謎の少女と出会ったことで男の止まった時間はまた動き出す。 過去、世界の希望の為に立ち上がった男は、今度は自らの希望の為にもう一度立ち上がる。 ~ 皆様こんにちは。初めての方は、はじめまして。こげ丸と申します。<(_ _)> このお話は、優しくない世界の中でどこまでも人にやさしく生きる主人公の心温まるお話です。 ライトノベルの枠の中で真面目にファンタジーを書いてみましたので、お楽しみ頂ければ幸いです。 ※第15話で一区切りがつきます。そこまで読んで頂けるとこげ丸が泣いて喜びます(*ノωノ)

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界に行けるようになったんだが自宅に令嬢を持ち帰ってしまった件

シュミ
ファンタジー
高二である天音 旬はある日、女神によって異世界と現実世界を行き来できるようになった。 旬が異世界から現実世界に帰る直前に転びそうな少女を助けた結果、旬の自宅にその少女を持ち帰ってしまった。その少女はリーシャ・ミリセントと名乗り、王子に婚約破棄されたと話し───!?

処理中です...