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第2章 神隠し事件
第17話 事件の真相。
しおりを挟む夕暮れが近づくにつれ、今日の捜査の終わりが近づく。その前に俺は一人になった。
右手の指輪に手を触れる。ズキンと頭に痛覚が宿る。でもそれは一瞬だった。魔道具を正常に起動した。
パチパチと油が弾ける音がしている。
『こら、いきなり手を離しちゃだめよっ』
『いや、違くて……その連絡がっ。そう、そうなの緊急の事なのよっ……本当っ、分かったわ!』
誰かと話しているな。話し声は遠くて聞こえないが、何かの作業中だったのは確かだ。まさか魔族にコンタクトを取る人物がいたとは。帰ったら詳しく問い詰めようと心に決める。
『悪い、忙しかったか』
『ああ、グラスっ、久しぶりに声が聞けて嬉しいわぁ~、えっ忙しかったかって? 何もしてないわよっ、本当なのよっ。疑っているでしょう』
『後ろで人の声が聞こえたんだが』
『ええぇ! 嘘でしょうっ、グラスへのサプライズが……っ、違っ、何でもないの!』
そこまで言って何でもない、は厳しくなかろうか。
『それでグラス、何か緊急の用事かしら』
『まあ緊急って程でもないが、出来れば教えて欲しい事がある』
俺は、ラケナリアなら知っているであろう情報を問うと、少し考えてから頷いた。
『ええ。この時期なら確かにありえると思うけど……』
『分かった。それだけの情報があれば、十分だ』
『ねぇ、グラス?』
『ん?』
『無事に……帰ってきてね』
そんなもの。答えはひとつだ。
『ああ』
□■□
日が暮れて、闇夜に包まれた第13地区。俺達5人はそれぞれに領域を分けて、寝静まろうとしていた。依頼の期限は最大三日。そのうち、一日を消化した。
寝る準備だけ整えて、談笑に耽ける。
といっても、盛り上がる程テンションは高くなかった。
男女は別に分かれている。近くにテントを張って野宿という形になるが、お互いの音は僅かに聞こえる程度だろうか。
「グラジオラス。ひとつ聞いていいかな?」
「なんだ?」
「君には大切な人はいるかい?」
何をいきなり、と俺は動揺する。
「男同士で恋バナかよ」
「ち、違うさ。真面目に答えてくれないか!」
「……そうだな。いるかも知らない」
ラケナリア。たった数日一緒に過ごしただけの存在。
でも彼女は、今の俺にとってどこか『特別』になりつつある。それは恋愛的な意味か、親愛的な意味かは分からない。
でも、かけがえのない存在だ。
俺が冒険者として戦う事を後押ししてくれた。
止まった時計の針を動かしてくれた。
「お前はどうなんだ。俺にだけ言わせるのは卑怯だぜ」
「ふふ。そうだね、いるよ。僕にも」
俺は隣で寝転がる彼の横顔を眺めた。
「家族さ。家族は何よりも大切だ」
そうか。俺は静かに目を伏せた。
「だからなのか。スターチス」
俺は、核心に迫った。
「薄々気が付いているとは思っていたよ」
どうやらスターチスは元から言い逃れするつもりが無かったらしい。俺は少し安心した。
「夜中に悪いが皆集まってくれないか。少し話がしたい。皆にとっても、凄く大切な話なんだ」
女性陣営を交えて話をする。互いに親交を深めた今だからこそ語れる話もあるのだろう。パジャマ姿の彼女達が目を擦りながらぞろぞろと俺達の元へと集まってくる。
「なあに、話って」
「プロテア……眠いとこ悪い。話は簡単に纏めるから」
「ね、眠くないし……はい、目覚めたわ~余裕余裕」
さいですか、俺は苦笑を零した。
「で、グラジオラス。スターチスはどうしたのさ?」
僅かな沈黙を突き破って俺は口にする。
「そうだな。それは本人から後で直接聞くとしよう」
俺は、表情に影を落とす彼をよそに正体を暴く。
「それでいいな、スターチス=レノア」
俺の言葉に瞠目したのは、他でもないコットンとプロテアだ。顔を見合せて驚きを露わにする。
「待って、噓でしょ……レノアって」
「三件目に訪れた、神隠し事件最初の被害者だ」
俺は、レノア家での会話を振り返る。
「最初にひかかったのは、『バカ息子』って発言だ。俺はあの時、攫われた子供かと思ったが違ったな。子供の事は大層褒めていたし、別人だと思ったんだ」
「そっか。その子供に年の離れた兄がいたって事ね。でも、どうしてスターチスがレノア家だと思ったの?」
「その前のあの人の発言を覚えているか。『冒険者はあんた達だけかい?』ってまるでその場には他にいるべき人がいるみたいな言い方が気になったんだ」
以上をまとめるとこうだ。
「『バカ息子』が仮に冒険者なら、ここに来ていてもおかしくないと思ったんじゃないかなって」
「……それだけじゃやや強引すぎる気がしますが」
コットンは未だ俺の解釈に難色を示していた。無理は無い、彼女はまだこの事件の核心に気付いていない。
「いいか。この事件は、全てがスターチスによって。いやレノア家の母親以外の街の住人全体によって仕組まれていたんだ」
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