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第2章 神隠し事件

第11話 出発前夜。

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「という事で明日から二、三日留守にするけど」 
「ふんふん、初のパーティー依頼ね。いいんじゃないかしら、新しいお友達が出来たみたいで私も嬉しいわっ!」

 家に帰った俺は、ラケナリアへ今日の出来事を報告する。
 エプロン姿が道に入ったラケナリアは後ろに纏めてポニーテールにした状態で俺の話に聞き入っていた。

 今日は油を使った料理か、パチパチとキッチンから音が立つ。
「早く戻れ」と言う前に、すぐにパタパタとキッチンへ戻ったので俺はリビングにあるベットに腰掛けて一息つく。

 ベットは一人用でいつも俺はその横のカーペットに直で寝ている。そのせいか最近肩が凝って仕方ないが、シングルなのに『一緒に寝よっ☆』などと言えば恐らく明日にでも監獄生活が始まる。もはや割り切る以外の選択肢はないのだ。

 熟れた様子で菜箸を使って揚げ物を突いているのがベットからでも見えた。対面型とはこういう時に便利だ。

「俺が心配してるのは寧ろお前の方なんだが」
「えっ、グラスに心配される事なんて何も無いわっ」
「嘘言え、魔族のお前が家に一人取り残されるんだぞ。俺のフォローなしで万が一が起きたらどうするつもりなんだ」
「その時はグラスがいる場所へ転移するわっ!」

 じゅわっち、と片腕だけあげて跳躍する姿勢をして見せる。

「なら仲間とそこの住民にもバレるだろうが。知り合って数日で関係に罅を入れさせる気か」
「うーん……大丈夫よ。グラスは何も心配しなくていいのに」

 ニマニマと何かを企んでいるその顔が一層怖い。

「何する気だ」
「な、何もしないわ……っ」
「おい。ならどうして目を逸らす。こっち見ろ」
「は、恥ずかしくてグラスを直視できないのっ」
「純真な乙女か。最もらしいこと言って言い逃れようとするな」

 ダメだ。まるで口を割ろうとしない。

「私子供じゃないんだから、一人で留守番くらい出来るわっ。事実ここ数日はちゃんと出来てるじゃない」
「む……確かに。それはそうか」
「料理も洗濯もお掃除も完璧♪ さすがリアちゃん」
「おいリアちゃんとやら。その揚げ物、お前の魔法で加熱してたか知らんが丸焦げになってるぞ」
「あれーっ! おかしいわっ!? 乱れ蔦の葉っぱがぁ!」
「おい。また変な具材入れてないか……?」

 物凄く不安ではあるが、いつも俺が居てやれる保証はない。ここは試験も兼ねて留守を託すしかないだろう。人族のリアちゃんのお手並みを信じるとしよう。

「本当に頼むからなマジで」
「お任せあれ~っ☆」

 ……不安だ。


 □■□


 夜中、俺はカーペットの上に横になる。
 ラケナリアと二人の夜を何回か経験したが、決して色気づいた雰囲気にはならない。ラケナリアにとって俺は人族でもかなり信頼におけるポジションを確立したと自負している。その俺が彼女の期待を裏切るような真似をしたくない。それだけの理由だった。

 だが、その日の夜は少し違った。

 寝返りを打って俯せになった俺の背中に、何やら柔らかい感触の物がのしかかってきたのだ。

「……なんだ?」

 照明は切れているので、夜闇に慣らして見るしかない。

「だめ、グラスはじっとしてて」
「ラケナリア、お前何して……」

 不覚にも心臓が高鳴る。まさか向こうから何かを仕掛けてくるとは思わなかった。もし彼女自身が心を許したならば、そういう展開もあったりするのかも……とは考えていたが。

 これは、もしかするのだろうか。
 そりゃそうだ、魔族と人族とは言え年頃の男女二人。ひとつ屋根の下で暮らしていれば自然の流れだ。

 俺はリードに任せて眠っていればそれで───。


「えっ」

 揉まれた。


 肩を。


「何してる」
「肩もみよ?」
「あ、あぁ……肩もみ」
「もしかして別の事期待した?」

 妖艶な笑みを浮かべ、ラケナリアは意味深に笑う。お尻から伸びる尻尾が擽るように俺の太腿を撫でる。

「お前はサキュバスか」
「違うわよっ、今日はグラスの為に疲れを取ってあげようと思って」
「……もしかして、俺が肩凝ってるの気付いてたのか」
「私だけベットを使わせてもらってるしもしかしたらと思ってただけだけど。やっぱり無理をさせちゃってたのね、ごめんなさい」
「どうしてお前が謝る。俺が勝手にしてるだけの事だ」
「なら今日はせめてベットを使って。私は床でいいわっ」
「やけに必死だな。何かあったか?」
「……明日になったらグラスが居なくなるって聞いたから、せめて最後くらい楽させてあげたいって思って」
「今生の別れか。別にすぐ戻ってくるよ」
「そうだといいけど、どうせ冒険者パーティーには女の子いるんでしょう? グラスがグレて帰ってきたりでもしたら大変だわっ」
「なる訳ないだろ」

 どうにも要領を得ないが、俺に立った仮説は、彼女は実は寂しがり屋の一面があったのではないかというものだ。

 これまで俺と一緒に生活してきて、会話する喜びを知った。
 だからまた暫く一人にさせるのは……彼女が前までいた魔界と同様の孤独感を味合わせてしまうのではないか。

「……そう言うなら、魔法で何か作ってくれよ。遠距離通話出来る魔道具的なやつ」
「うーん、緊急時に一時的な魔道具程度なら明日起きてからでも出来ると思うわ。形状に指定は?」
「動きに支障が無いやつで」
「なら指輪型にしましょう」
「よりにもよって指輪かよ……」
「? 人族の風習で指輪って特別な意味を持つのかしら」
「いや、別になんでも。ならその指輪、明日用意しておいてくれ。必ず付けていく、これでいいだろ?」
「うん約束よっ、グラス!」

 その後十分くらい続いた肩もみによって肩凝りも随分楽になった。明日からのEランク初依頼、必ず成功で収めて見せる。
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