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第1章 出会い
第7話 昇格試験。
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その日、冒険者ギルドは険悪な雰囲気に包まれていた。空は分厚い雲に覆われて、これからの未来を暗示しているようだった。大勢の視線に囲まれて、俺は口を噤む。
「では、これより略式裁判を始める。被告、前へ」
何やら壮大な舞台が築かれた(想定の)その場で、俺は腕を後ろに組まれ、突き飛ばされるように壇上(ただの机)に向かう。
「なんだよ、これ何が始まるんだ」
「静粛に。被告は口を慎め」
「おい、明らかに口悪くなってるぞ裁判官。俺に何を言うのか知らんが、俺は裁かれるような事はしてないぞ」
これは"嘘"だ。何故なら人族全てを敵に回す行動、あろう事か人族の敵を家に連れ込むという所業を犯している。バレたとあれば、冒険者資格剥奪じゃ済まない、最悪死刑か。
額から汗がつぅと落ちる。
俺を取り囲むのは街の男冒険者達。明らかに俺の何かに怒りを覚え、一致団結している様子だ。逃げる事は出来ない。
「では、貴様の罪状を言おう」
「……」
俺はどうすればいい。ラケナリアの正体を隠す為に最悪俺がここで取るべき行動は……。
「女の子と昨日、商店街デートをしていた件だ」
「……なあ、お前らやっぱ馬鹿だろ」
「何を言うか裏切り者! 非モテ三原則、彼女を持たず、持たせず、作らせずの禁忌に触れた!」
「彼女じゃない。それに誰と俺が話していようとお前らに関係ないだろ。あと勝手に謎の三原則を作るな」
「あくまでシラを切る気か、その後の調べではお前はその子と共にお前の家近くまで一緒していたという報告が上がっている。これは事実か!?」
「黙秘権を行使する」
「こいつ、やはり裏切り者に違いない……っ」
「俺は黙秘しただけで認めた訳ではないぞ」
とんでもない仕打ちに俺はげんなりと肩を下ろす。冒険者ギルドの言わばお祭り行事みたいな物だ。女との交流を持った者はその後怨嗟の如く、ねちねちと文句を垂らされる。
かく言う俺も、これまで何度も裁かれる被告を傍から見ていたが、まさか自分がこの場に立つ日が来ようとは。
「ほら、あんた達っ、グラジオラスが困ってるでしょうがぁ!」
そう声をかけてくれたのは、受付嬢の一人ラベンダーだ。彼女はリーリアと同期で彼女の親友でもある。少し日焼けした肌と、荒くれ者の多い冒険者に対し一切物怖じしない性格は、儚くも美しい印象を持つリーリアと対照的に、一方で同等以上の人気を博していた。
「そ・れ・に、先約はリーリアだぞ、あんた達がいくら妬もうが彼に勝てやしないからねぇ~」
「くぅ……っ、言わせておけば! 畜生、覚えてろよ、グラジオラス~!!!」
男性冒険者達は、全く反論できず涙を浮かべながらギルドを出て行ってしまった。
とんだ茶番だよ、ほんと。
「で、グラジオラス。その子とえっちな事したの」
「いい加減にしろ馬鹿たれ」
おっと、思わず職員に対して口が悪くなった。
「すみません、ラベンダーさん」
「うん、いいわよ~どうせ取り繕うには遅いから」
ご尤もで。
「ら、らべんだーぁ、黙って話を聞いていれば先約ってなんですか、もう。グラジオラスさんも何か言ってやってください」
どこからともなく、リーリアはやってきた。やや顔を赤らめ、彼女の悪ふざけに対応した。
「これはラベンダーさんのいつもノリでしょう、いいじゃないですか」
「私が良くないんです。す、すいませんなんかこんな話」
「ああ、そうだ。あいつらのせいで本題を言うのが遅くなりました」
俺は、椅子から立ち上がってギルドの受付へと向かった。その際、リーリアに目配せをしたので何かを察した彼女は受付業務を承った。
「本題、とは……」
「俺、やる事にします」
「やる、とは。なにかの依頼についてですか?」
「いえ、俺がやるのは……昇格試験です」
「では、これより略式裁判を始める。被告、前へ」
何やら壮大な舞台が築かれた(想定の)その場で、俺は腕を後ろに組まれ、突き飛ばされるように壇上(ただの机)に向かう。
「なんだよ、これ何が始まるんだ」
「静粛に。被告は口を慎め」
「おい、明らかに口悪くなってるぞ裁判官。俺に何を言うのか知らんが、俺は裁かれるような事はしてないぞ」
これは"嘘"だ。何故なら人族全てを敵に回す行動、あろう事か人族の敵を家に連れ込むという所業を犯している。バレたとあれば、冒険者資格剥奪じゃ済まない、最悪死刑か。
額から汗がつぅと落ちる。
俺を取り囲むのは街の男冒険者達。明らかに俺の何かに怒りを覚え、一致団結している様子だ。逃げる事は出来ない。
「では、貴様の罪状を言おう」
「……」
俺はどうすればいい。ラケナリアの正体を隠す為に最悪俺がここで取るべき行動は……。
「女の子と昨日、商店街デートをしていた件だ」
「……なあ、お前らやっぱ馬鹿だろ」
「何を言うか裏切り者! 非モテ三原則、彼女を持たず、持たせず、作らせずの禁忌に触れた!」
「彼女じゃない。それに誰と俺が話していようとお前らに関係ないだろ。あと勝手に謎の三原則を作るな」
「あくまでシラを切る気か、その後の調べではお前はその子と共にお前の家近くまで一緒していたという報告が上がっている。これは事実か!?」
「黙秘権を行使する」
「こいつ、やはり裏切り者に違いない……っ」
「俺は黙秘しただけで認めた訳ではないぞ」
とんでもない仕打ちに俺はげんなりと肩を下ろす。冒険者ギルドの言わばお祭り行事みたいな物だ。女との交流を持った者はその後怨嗟の如く、ねちねちと文句を垂らされる。
かく言う俺も、これまで何度も裁かれる被告を傍から見ていたが、まさか自分がこの場に立つ日が来ようとは。
「ほら、あんた達っ、グラジオラスが困ってるでしょうがぁ!」
そう声をかけてくれたのは、受付嬢の一人ラベンダーだ。彼女はリーリアと同期で彼女の親友でもある。少し日焼けした肌と、荒くれ者の多い冒険者に対し一切物怖じしない性格は、儚くも美しい印象を持つリーリアと対照的に、一方で同等以上の人気を博していた。
「そ・れ・に、先約はリーリアだぞ、あんた達がいくら妬もうが彼に勝てやしないからねぇ~」
「くぅ……っ、言わせておけば! 畜生、覚えてろよ、グラジオラス~!!!」
男性冒険者達は、全く反論できず涙を浮かべながらギルドを出て行ってしまった。
とんだ茶番だよ、ほんと。
「で、グラジオラス。その子とえっちな事したの」
「いい加減にしろ馬鹿たれ」
おっと、思わず職員に対して口が悪くなった。
「すみません、ラベンダーさん」
「うん、いいわよ~どうせ取り繕うには遅いから」
ご尤もで。
「ら、らべんだーぁ、黙って話を聞いていれば先約ってなんですか、もう。グラジオラスさんも何か言ってやってください」
どこからともなく、リーリアはやってきた。やや顔を赤らめ、彼女の悪ふざけに対応した。
「これはラベンダーさんのいつもノリでしょう、いいじゃないですか」
「私が良くないんです。す、すいませんなんかこんな話」
「ああ、そうだ。あいつらのせいで本題を言うのが遅くなりました」
俺は、椅子から立ち上がってギルドの受付へと向かった。その際、リーリアに目配せをしたので何かを察した彼女は受付業務を承った。
「本題、とは……」
「俺、やる事にします」
「やる、とは。なにかの依頼についてですか?」
「いえ、俺がやるのは……昇格試験です」
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