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第3章 異世界王国編
第53話 連合軍の結成。
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その日、冒険者ギルドは大量の人で溢れていた。無論、これは俺が計画した事に他ならないが、それにしても凄い数が集まった物だ。
例えば近くで火事が起きたか。
あるいは花火の音を聞いて駆け付けた住民のように。
周囲からの視線は、憧憬へと変わっている。
中には好感度が2や3に膨れ上がっている人まで。
完全に英雄扱いじゃないか。
主人公万歳、と俺は集まった視線の中悠然と歩く。
「ちょ、ちょ……レイくん! この騒ぎって」
「ん。どういう事なの?」
シャルとノエルがギルド前で立ち尽くしていた。
ではそろそろ種明かしといこうか。
俺が立てた作戦。
ルナを取り戻す方法、その全容を。
「俺が主人公になったのさ」
「おさらいしようか。相手は【死霊術師】。第三階層に住まう全てのアストラル系モンスターを使役するチート持ち。しかもそいつは、王国最強の騎士であるシンシア・オルデンを圧倒する実力の持ち主、《神級精霊》のニルを味方に付けている」
それだけ聞けば、絶望。
俺だって最初は諦める事を視野に入れた。
「だが、方法はある。奴らが大勢の敵を引き連れて戦いに来るのなら、俺達も相応の味方をつけて戦えばいいってだけの話だ」
愉快に、俺は種を明かしていく。
まず俺が思いついた案。
ランドルフの言葉によると、俺の目的の為に、味方の犠牲を考える必要はない。まずは俺のやりたいようにやる。そしてその後に最善の方法を考えるのだ。
『お前は才能がある。戦闘とかそういう枠組みじゃねぇ、人々を惑わし、凌駕し、纏める才能だ。いい意味でも悪い意味でも、お前は主人公だ。なら、迷う必要なんてねぇ。誰が死のうが知った事か、お前の大事な物を取り返してこい』
そう。そのアドバイスに従って。
「でも待ってよ。それにしたってたった一日で」
シャルの疑問は最もだった。
一介の下級冒険者に集められる量じゃない。
「一つ目。あれを見てみろ」
そう言って指さしたのはギルドの掲示板。そこには冒険者ギルドの貢献度ランキングが掲載されている。受付嬢は最初にこう言った。
『またこちらのギルドでは、貢献度に応じて掲示板に最大五十位までランキングを掲載するシステムを導入しております。名前を売りたい場合は是非ランキング入りを目指してくださいね』
俺は短期間で階層主を二体撃破した実績がある。
デビュー間もない俺の快進撃は、冒険者達の耳にも多少なりと入っていた。ランキング入りは、俺に一切の不正が無かった事の裏付け。今後這い上がるであろう期待の新星だと、皆に宣伝した。これで俺は只者でない事を周知出来た。
「二つ目はタレコミだ」
「タレコミ?」
今度はノエルが疑問を呈する。
「第一階層での不審な魔物の動き。第三階層にいるはずの『幽霊』の出現。更には第二階層での強制転移など。迷宮への調査依頼をギルド側に打診した」
即ちこれは、ギルド側からの強制クエスト。
冒険者達を従わせる口実を作ってやった。
受付嬢は同様の報告が多数見つかっていると、この問題を上へと報告し。かくて冒険者達はこうして集められるに至った。シャルとノエルには俺から伝えると言っておいた。
「そして三つ目。第二階層に蔓延る盗賊の討伐」
武器を奪われたりという被害が後を絶たず、更には冒険者達を惑わしていた霧の一部を排除した功績は思いの他大きく、ギルドからの特別報酬も出された。所持金貨は30枚を超えた。
更には周りの冒険者達にも感謝され、俺の呼びかけに応じる理由も作った。借りを返すという意味でも義理堅い冒険者達は進んでこの地に集まった。
「四つ目。それは……」
バタン。冒険者ギルドの扉が開く。
「お持ちしましたですよ~!」
「「「「「「うぉぉおおおお!!!」」」」」
すると、大量の武器を抱えたクレアに、大勢の冒険者達が駆け寄っていく。今まで上げた理由以外に、これが最も大部分を占めるに違いない。
「クレアちゃんがどうして」
「小僧が儂に頼んできよったのだ。武器の補修を頼むと」
例の第二階層で手に入れた武器達。それらは少し傷んでいたりと補修箇所が目立っていた。俺はそれらの武器を出来る限りクレアに持ち帰らせ、ジンエイへ修繕するように頼み込んだ。クレアの説得もあってか、どうにか引き受けてくれた。
「ああ、だからあの時!」
シャルは思い出したように声を上げる。
それは、盗賊を討伐し終えた後のクレアとの会話。
『クレアは持てるだけ持って行ってくれ』
『はーい、換金するんですねっ!』
『違うっ、別の事に使うんだ!』
これが、この時の布石だったと理解しただろう。
「恩を売るには絶好の機会だと考えていた。だが、まさかこんなに早く使う事になろうとは思わなかったがな。ただ、希少な『鍛冶種』が修繕してくれるって聞けば、誰だって飛びつきたくもなる。これがこの集団の理由って訳さ」
俺は後ろから肩に腕を回される。
「すげぇじゃん。盗賊を根絶やしにしたんだってな。しかも、俺の愛剣がこんなに綺麗な状態で帰って来た。この恩は一生忘れねぇ、なんでも言ってくれ!」
「この武器は祖父の形見で。ありがとうございますっ」
「英雄の誕生だァア!!」
これが、主人公になるって事だ。
大騒ぎの冒険者ギルドの中、俺は密かに笑みを漏らす。物事の中心に俺というパーツを組み込むことで、膨大な戦力を手に入れた。
「これだけいれば、第三階層も攻略できるかもっ」
シャルは華やいだ声で、そう口にする。
俺は首を傾げると、
「何言ってるんだ。これでまだ半分だぞ?」
バァンと盛大に扉が開かれた。
甲冑姿の騎士達が、途端に場を支配していく。
冒険者達は一瞬身構えるも、俺は手で制する。
集団の先頭にいた、可憐な少女。
俺とアイコンタクトを取って、ふっと微笑む。
「待たせたわね」
《王国要塞》と冒険者ギルド連合軍。
総勢三百に至ろうかという軍勢がその場に押しかけた。
例えば近くで火事が起きたか。
あるいは花火の音を聞いて駆け付けた住民のように。
周囲からの視線は、憧憬へと変わっている。
中には好感度が2や3に膨れ上がっている人まで。
完全に英雄扱いじゃないか。
主人公万歳、と俺は集まった視線の中悠然と歩く。
「ちょ、ちょ……レイくん! この騒ぎって」
「ん。どういう事なの?」
シャルとノエルがギルド前で立ち尽くしていた。
ではそろそろ種明かしといこうか。
俺が立てた作戦。
ルナを取り戻す方法、その全容を。
「俺が主人公になったのさ」
「おさらいしようか。相手は【死霊術師】。第三階層に住まう全てのアストラル系モンスターを使役するチート持ち。しかもそいつは、王国最強の騎士であるシンシア・オルデンを圧倒する実力の持ち主、《神級精霊》のニルを味方に付けている」
それだけ聞けば、絶望。
俺だって最初は諦める事を視野に入れた。
「だが、方法はある。奴らが大勢の敵を引き連れて戦いに来るのなら、俺達も相応の味方をつけて戦えばいいってだけの話だ」
愉快に、俺は種を明かしていく。
まず俺が思いついた案。
ランドルフの言葉によると、俺の目的の為に、味方の犠牲を考える必要はない。まずは俺のやりたいようにやる。そしてその後に最善の方法を考えるのだ。
『お前は才能がある。戦闘とかそういう枠組みじゃねぇ、人々を惑わし、凌駕し、纏める才能だ。いい意味でも悪い意味でも、お前は主人公だ。なら、迷う必要なんてねぇ。誰が死のうが知った事か、お前の大事な物を取り返してこい』
そう。そのアドバイスに従って。
「でも待ってよ。それにしたってたった一日で」
シャルの疑問は最もだった。
一介の下級冒険者に集められる量じゃない。
「一つ目。あれを見てみろ」
そう言って指さしたのはギルドの掲示板。そこには冒険者ギルドの貢献度ランキングが掲載されている。受付嬢は最初にこう言った。
『またこちらのギルドでは、貢献度に応じて掲示板に最大五十位までランキングを掲載するシステムを導入しております。名前を売りたい場合は是非ランキング入りを目指してくださいね』
俺は短期間で階層主を二体撃破した実績がある。
デビュー間もない俺の快進撃は、冒険者達の耳にも多少なりと入っていた。ランキング入りは、俺に一切の不正が無かった事の裏付け。今後這い上がるであろう期待の新星だと、皆に宣伝した。これで俺は只者でない事を周知出来た。
「二つ目はタレコミだ」
「タレコミ?」
今度はノエルが疑問を呈する。
「第一階層での不審な魔物の動き。第三階層にいるはずの『幽霊』の出現。更には第二階層での強制転移など。迷宮への調査依頼をギルド側に打診した」
即ちこれは、ギルド側からの強制クエスト。
冒険者達を従わせる口実を作ってやった。
受付嬢は同様の報告が多数見つかっていると、この問題を上へと報告し。かくて冒険者達はこうして集められるに至った。シャルとノエルには俺から伝えると言っておいた。
「そして三つ目。第二階層に蔓延る盗賊の討伐」
武器を奪われたりという被害が後を絶たず、更には冒険者達を惑わしていた霧の一部を排除した功績は思いの他大きく、ギルドからの特別報酬も出された。所持金貨は30枚を超えた。
更には周りの冒険者達にも感謝され、俺の呼びかけに応じる理由も作った。借りを返すという意味でも義理堅い冒険者達は進んでこの地に集まった。
「四つ目。それは……」
バタン。冒険者ギルドの扉が開く。
「お持ちしましたですよ~!」
「「「「「「うぉぉおおおお!!!」」」」」
すると、大量の武器を抱えたクレアに、大勢の冒険者達が駆け寄っていく。今まで上げた理由以外に、これが最も大部分を占めるに違いない。
「クレアちゃんがどうして」
「小僧が儂に頼んできよったのだ。武器の補修を頼むと」
例の第二階層で手に入れた武器達。それらは少し傷んでいたりと補修箇所が目立っていた。俺はそれらの武器を出来る限りクレアに持ち帰らせ、ジンエイへ修繕するように頼み込んだ。クレアの説得もあってか、どうにか引き受けてくれた。
「ああ、だからあの時!」
シャルは思い出したように声を上げる。
それは、盗賊を討伐し終えた後のクレアとの会話。
『クレアは持てるだけ持って行ってくれ』
『はーい、換金するんですねっ!』
『違うっ、別の事に使うんだ!』
これが、この時の布石だったと理解しただろう。
「恩を売るには絶好の機会だと考えていた。だが、まさかこんなに早く使う事になろうとは思わなかったがな。ただ、希少な『鍛冶種』が修繕してくれるって聞けば、誰だって飛びつきたくもなる。これがこの集団の理由って訳さ」
俺は後ろから肩に腕を回される。
「すげぇじゃん。盗賊を根絶やしにしたんだってな。しかも、俺の愛剣がこんなに綺麗な状態で帰って来た。この恩は一生忘れねぇ、なんでも言ってくれ!」
「この武器は祖父の形見で。ありがとうございますっ」
「英雄の誕生だァア!!」
これが、主人公になるって事だ。
大騒ぎの冒険者ギルドの中、俺は密かに笑みを漏らす。物事の中心に俺というパーツを組み込むことで、膨大な戦力を手に入れた。
「これだけいれば、第三階層も攻略できるかもっ」
シャルは華やいだ声で、そう口にする。
俺は首を傾げると、
「何言ってるんだ。これでまだ半分だぞ?」
バァンと盛大に扉が開かれた。
甲冑姿の騎士達が、途端に場を支配していく。
冒険者達は一瞬身構えるも、俺は手で制する。
集団の先頭にいた、可憐な少女。
俺とアイコンタクトを取って、ふっと微笑む。
「待たせたわね」
《王国要塞》と冒険者ギルド連合軍。
総勢三百に至ろうかという軍勢がその場に押しかけた。
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