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第2章 異世界攻略編

第35話 二階層ボス戦

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 二階層ボス。


 ここまで一週間。

 驚異的なスピードなのは間違いない。だが二階層は一階層に比べて魔物の質は格段に高く強かった。上澄みや連携だけで踏み込んでいい領域じゃないのは確かだ。

 しかし、ここから帰路につくのは常識的じゃない。そもそも正規ルートで一ヶ月も攻略に要する道のりだぞ。

 恐らく挑戦権は一回。
 次来れるのはいつになる事やら。

 だが、俺達はあまりにも疲弊している。
 道中の武器強奪イベント。盗賊との度重なる戦闘で回復薬ポーションとかも心許ない。

 加えてルナは気絶状態。
 これで戦えってのは無茶だ。

 俺は皆をもう危険に合わせられない。
 ここに潜る前の俺とはもう別人だ。

 所詮失ってもいい消耗品。違うだろ、この世にただ一人しかいない大切な仲間達を、ここで失う訳には行かない。

 やっぱり、万全な状態でまた挑もう。

「皆、ここは一旦」
~っ!」


 っ!
 クレアは純心な眼差しで扉を開けた!

「?」

 見よ、自分が何をしたのか分かっていない目だ。曇りなき眼に悪気が一ミリも含まれない。これでは怒るに怒れない。

 !!

「この、馬鹿ァァァっっ!!!」

 そして現在。

 ボウ、ボウ、ボウ……。
 室内に青い炎が宿っていく。

 これを見るのは二度目だ。
 地獄の入り口と言われた方がまだ納得できる。

 一階層と違うのは壁面に蔦のような植物がみっしりと覆い茂っているという点だ。装飾にしては随分凝っているように見えるが、そういうコンセプトなのだろうか。

 二階層は確かに、植物をモチーフとしているは明らかだ。つまり、階層主もまた、同様の見た目と攻撃パターンをしてくるに違いない。

「はぁ」

 俺はあからさまな溜息をつく。

 くそっ、入ってしまったものは仕方ない。
 迷宮の扉がゴゴゴ……と音を立てて閉まっていく。

「へっ、出られないんですかっ!?」
「知らなかったのかよ!!!」

 そういやクレアは迷宮完全初心者、一階層すらまともに攻略した事の無い初見攻略勢でしたね!

 ああそうだよ。いつもこうだ。
 ボス戦は、望まずしてやってくる。

 せめてルナが無事であれば……。

「大丈夫ですよ、主」
「ルナっ、気が付いたのか!?」

 背中に背負っていたルナが顔を起こす。

「いつまでもおんぶされて、私の胸の感触を味合わせるのも癪ですからね、頑張りますよ」
「失敬な。俺は何もしてない」

「(……へたれ)」

「おい今なんて言った」
「なんでもありませーん」

 ルナはいそいそと、愛剣を片手にする。
 こんな状況だというのによく落ち着いていられる。

 一階層の一件からルナの肝が据わったのは言うまでもない。自分に与えられた役割を誰よりも理解しているし、戦闘の才能は天性のものだ。

「来ますね」

 階層主がゆっくりと姿を現す。
 ゴゴゴ……と地面が揺れる。重低音を響かせて、部屋の奥でナニカが起き上がった。俺達はその闇の向こう側にいるであろう生命体を見ようと必死に目を凝らす。

「スキル《鑑識眼》」

 名前『世界樹霊魔ユグドラシル
 備考:第二階層主

 そして遂に姿を現した。

 膨大な蔦と葉っぱが、まるで生き物のように蠢き合い、本体は遥か頭上で俺達を睥睨している。俺という存在がちっぽけな羽虫に感じるような、圧倒的な質量感。あまりの驚愕に俺は声すら出せなかった。

 攻略、そんな二文字が疲弊した身体に絶望を与える。どうやってこの魔物を倒すのか、いくら方法を考えたところで、一つの斬撃、一つの魔法が無意味にすら感じる。

「あ、主……」

 ルナが震える手で俺の手を握り込む。
 そうだ、俺にはルナがいる。

 これまでもこの迷宮を攻略してきた。
 今更ここで死ぬなんて言わせない。

「ぜ、全員……戦闘用意」

 《演算領域》発動。
 頭が割れる様に痛かった。
 高度演算で攻略方法を模索する。

 弱気になるな。絶対に勝つ。
 ああそうだ、俺は生きて帰る使命がある。

 忘れてはいないぞ。
 俺にはという誰にも止められぬ夢がある事をなァ!!

「主」
「あ。はい」

 自重した。ルナの目は階層主より怖い。
 さて、皆の様子を確認だ。

「うひゃぁ……おっきいですね~っ」

 クレアは何故か呑気だった!
 まるで山を目にした登山家のような感想だ。

「お母さん、私もそっちに行くね……」

 シャルは既に死んだ前提だった!
 三途の川から無理やり引っ張り出してやろう。

「死ぬ前だったら、最悪何してもいいのかな」

 ノエルは舌なめずりしながら俺ににじり寄ってくる。
 待て、俺に何するつもりだ。

 好感度10やそこらのお前が俺に手を出そうというのか。誰にでも股を開くビッチでもあるまい、ここを死地と決めつけるにはあまりに早いだろう!

「さあ……来るぞ」

 蔦の連撃が迫りくる。
 一本一本の速さは十分見切れる程度だ。

「うわっ!?」
「くっ……」

 だが特筆すべきはその威力。
 衝撃だけで肌が一瞬裂けて血が弾けた。

 そして連撃スピードが異常。
 百に上る蔦が俺達を絶え間なく襲い来る。

 ダメだ、息をする間もない!

「シャル、魔法で蔦を焼けっ!」
「う、うん……! 魔法『灼熱ブレイズ』ッ」

 蔦は火属性に弱い。
 俺の魔法も幾らかは有効打になるはずだ。

 轟ッ、と万物を焼き焦がす熱波が蔦を黒灰へと帰す。魔力を消費して、蔦の数をどんどんと減らしていく。堪らずルナと俺は前に出て応戦した。

 畜生ッ、ここからは持久戦だ!


 蔦は幸いにして再生している様子がない。
 数百の蔦を燃やし尽くせば俺達の勝ちだ。

 
 冗談じゃない、一発食らえば致命傷な攻撃をそう何度も避けられない。絶対どこかでボロが出る。そうなったら最後、一気に崩される!

「きゃぁああ!」
「シャルっ、う……きっつぅ……!」

 シャルとノエルが蔦に捉えられた。
 蔦が全身を巻き付き始める。

「……」

 ……!

 あれ。

 なんだろう。

 その。

「主、早く助けてあげてください」
「わ、分かってる!」

 こんな時だってのに、って思った俺はやっぱり男だった。手首や腰、そして胸に纏わりつく蔦。ワンチャン、このまま放置決め込むのもありかなと思ったのもある種の不可抗力だ。

「はぁ、はぁぁ……蔦が急に現れて」
「多分地面から、だと思う」

 ノエルは忌々しく地下を睨む。
 タイルの隙間から蔦を伸ばしてくるのか。

 さて、真面目な話。

 この階層主……
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