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第2章 異世界攻略編

第34話 勇猛果敢-メメントモリ-

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「言ってくれるじゃねぇか……」

『グラディウス』が禍々しい瘴気を放つ。その付近に立つだけで息苦しくなる、そんな強烈な威圧がフィールド全体に放たれる。

 ネブラの『剣術』は熟練度B。
 ルナよりも遥かに上だが大丈夫だろうか。

 ルナは『白輝の光斬剣ホワイト・ユニバース』を今度は決して離さないと強く握り込む。両者の表情は真剣そのもの、命の奪い合いが始まる。

「うりゃァァァ」
「はぁああああ」

 激しく火花が散る。金属音がギリリと耳を劈く。
 覚悟が表れた、そんな死闘とも呼べる一戦だ。

 全力を出し合い、騙し合う。

「いい動きするじゃねぇか……」
「山賊に褒めて貰っても嬉しくありませんね」

 ルナの切っ先が男の肌を僅かに掠める。
 体重が軽く、より機敏な動きが出来るルナの方が分があるか。それを男は経験による読みでカバーしている。

 元々ルナの剣は、二刀流仕様に作られた特注品だ。特に軽量さには秀でている。『グラディウス』は大剣カテゴリであり、両手で持たなければ装備は難しい。

「オラッ」
「ぐっ」

 唐突に男が足を蹴り入れる。
 武器に合わせた豪快な立ち回り。

「かはっ……、痛っ」

 鳩尾にクリーンヒットしたらしい。ルナが肺の空気を嘔吐きながら吐き捨てた。

「所詮は貧弱な身体。骨にヒビでも入ったか?」

 ここから怒涛の反撃が始まった。
 やはり奴は強い。豪語するだけの事はある。

 形勢がややネブラへと移行し始める。
 俺は傍から見守るだけだ。

 助けてはやりたい。
 ただ、ルナの目がこれ以上にないくらいギラギラとしている。好戦的な双眸がルナに活力を与えている。

「『軽業』」

 ルナが攻撃スタイルを変えた。
 フェイントを入れ、小刻みにステップを踏みながら男の周りを何度も回る。死角に少しでも入ったら一撃して離脱。それを繰り返し、確実なダメージを与える。

「その程度の動きについていけないと?」

 再び男の足が上がる。
 あの蹴りが来る。

 ルナは瞬時に身構える。

「遅せぇよ」
「誰が、遅いですか?」
「なっ!?」

 今度はルナのターン。
『軽業』で限界まで身体を逸らし攻撃を避け、その反動でありえない軌道から放たれる蹴りを男の首筋に叩き込む。

 ルナのスキル欄にあった『体術』スキル。
『軽業』との連携にこんな使い方があったのか。

「いいのが一発入ったぜ」

 これで一体一。意趣返しに放った一撃に、ネブラはパンパンと被った土を払った。ルナの体格では少し攻撃が軽かったか。

「面白ぇ……本気を出してやるよ。
 スキル【狂喜乱舞ヴァルツァー】ァァァッ」

『グラディウス』の認識がブレる。
 空間に三個の斬撃が同時に巻き起こる。

「うっ、ぁぁああああ……っ!?」

 ルナが悲鳴を上げる。
 ……!?

『猛毒』のスキルがあの剣には付与されていた。一度攻撃を受けただけで、毒が激痛を伴って全身を蝕む。

 身体中が紫色に染まっていく。

「はぁ、はぁ、はぁぁ……ッ」
「ヒャッハァ、お前はもう終わりだァッ」

 いや……違うな。

 キィィンンン……凄まじい音波だ。

 見た事ない色で、ルナの剣が光っている。
 自浄作用……『浄化』の光だ。

 ルナは剣を杖に立ち上がる。
 肩で息をしながらも、何とかといった状況。

『解毒』して、いくら全身がマシになったからといっても手足に残る痛覚や麻痺した神経が元には戻らない。

 ただルナは、死にかけの野生動物のようなしぶとさで男の前に立ちはだかり、再び剣を向ける。

「ス、キル…… 【勇猛果敢メメントモリ】」

 ルナのユニークスキル【勇猛果敢メメントモリ】。
 効果は生命力が一定以下に陥ると自動発動する身体強化。その倍率はなんと五倍。馬鹿げた数値だ。

 生命力の定義は、ギルドカードに表記された体力や傷等の損傷具合、魔力損耗率その他から算出される。

 ルナは死線を彷徨い、そして見事発動させた。
 今のルナの推定『剣術』熟練度は凡そAランク。
 第一級冒険者並みの火力。

「うぁぁあああああああああッッッ……!」

 次の一撃で決まる。
 俺には根拠のない予感があった。

 ルナの移動が見えない。
 何をしたのか、分からない。

 ネブラとルナは、神速の動きで交錯する。
 次に俺が見えたのは、ルナが剣を振り切った後。

 気が付くと。
 ネブラの首は、地面に転がっていた。

「ふっ」

 血糊を落とす。キチンと小気味良い音と共に剣は鞘へと収められた。その瞬間に、思わず見惚れてしまいそうな、綺麗な青白い光が放たれる。

 ジンエイの言っていた剣の自動『修復』機能。

 ルナは俺に近寄って来る。でも途中で躓いた。

 俺は駆け寄ってルナに肩を貸した。

「ルナ」
「はい……」
「俺のスキルより強くね?」
「はは……主は相変わらず」

 馬鹿、ですね。
 そう言ってスースーと寝息を立て始めた。
 気絶しやがった。

 俺はルナの軽い身体を持ち上げて背中に背負う。
 小柄な割に胸の感触はそこそこあって複雑だ。

 前にちんちくりんとか言った気がするが、着痩せするタイプだったのか? 女の子の身体はイマイチ分からん。

「レイ。これドッグタグ」
「この盗賊、冒険者だったのか?」

 ノエルが何かを持ってきた。
 冒険者ギルドで無料配布しているドッグタグだ。ギルド証とは違って首に提げられる分携帯しやすい。

 とはいえ、少し昔のタイプみたいだけど。

「もしかしたら懸賞金がかかっているかも」
「えっ、それってまさか」
「ん。金貨沢山入る」

 ノエルがキリッとサムズアップする。

 俺はぶわっと涙を流す。

 ルナ、俺お前が好きだ。
 こんな稼いでくれるなんて、凄く幸せだよ。

 俺、一生ヒモとして暮らしたい。
 それでルナが稼いだ金で、奴隷を沢山買うんだ。

「んんっ……」
「……」

 幾ら何でもクズ過ぎるか。
 ルナが寝ながら怒っている。

 器用なヤツめ。

「何にせよお疲れ様、ルナ」

 久しぶりに労ってやるか。


「レイさん。少し見てくださいっ!」

 暴走状態を解除したクレアが森の奥を指さしてぴょこぴょこと跳ねている。横にいるシャルも意外そうに目を丸めていた。

 恐る恐る俺も眺める。

「これは、? 奥まで続いているみたいだ」
「もしかしたら、この盗賊達が常日頃から使っていたルートかもしれませんねっ! 更なるお宝の予感……」

 クレアは大はしゃぎだった。

 二層の濃霧は厄介で、行った道を帰れる保証が無い。その逆に、再びこの場所に戻って来られる保証もない訳だ。

 つまりこの道は一回きり通行可能。
 行って確かめてみる価値は十分ある。

 それにこの道を盗賊達がずっと使っていたのなら、それなりに価値がある場所に繋がっているに違いない。

「行くか」

 俺の決断に、期待と不安を滲ませる各々。
 されど冒険者ならば、前へ往く───。

「分かったよ」
「ん。異論なし」

 二人の了承も得たところで、クレアに声をかける。 

「クレアは持てるだけ持って行ってくれ」
「はーい、換金するんですねっ!」
「違うっ、使!」

 これは元々人の物。
 それを俺達が使うのは気が引ける。

 それにこの一件は上手く使えば、また一つの伝説を生むに違いない。感謝され好感度も爆上げ間違いなし。
 ふはは……利用出来る物は全部利用してやる。

 とらいえ、即換金という発想に至るとは。
 クレアは俺をなんだと思っているんだ。

「この『インサニア』と、さっきの男が持ってた『グラディウス』。この剣の性能も確かめられるといいな」

 俺の愛剣だったロングソードが破壊され、鞘も余った。代わりの『インサニア』はなんとか上手く収納出来そうだ。

 裏道を歩く事、十分程度。これ以上は遭難の危険もある為、退避するべき、という判断が頭にチラついた。

 しかし、懸念は一瞬にして払拭された。視界が白く染まり、濃霧がようやく終わりを見せた。長いトンネル濃霧の道を抜けた後に浮かび上がった光景は、あまりにも意外で驚愕に値する物だった。

「レイくん、これって……」
「ああ、間違いなさそうだな」

 。正規ルートで一ヶ月かかる道を、俺達は濃霧を突っ切り、たった一週間の攻略で辿り着いたらしい。
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