好感度に応じて強くなるギャルゲー的異世界に転移してしまったんだが。

TGI:yuzu

文字の大きさ
上 下
19 / 58
第2章 異世界攻略編

第18話 レイス・パレード。

しおりを挟む
 
 バサッ。ルナの身体は俺に畳み掛けるように覆い被さった。汗やら血やらとあまりいい香りのしない味気ないムードの中、それでもルナは無い胸を押し付けて俺に抱き着いてきた。

「一言余計ですよ……」
「俺の心をサラッと読むな」

 それなのに一向に離そうとしない。
 普段悪口を言っている癖に。
 これじゃまるで、ひっつき虫じゃないか。

「無茶しすぎですよ」
「悪かった。反省してる」
「してません。鏡見て下さい、バカっ」

 ルナが目を充血させながら俺にしがみついて話さない。これでも割と満身創痍なだけに、ルナの抱擁を離せなかった。

「あのー、ルナさん。ボス部屋が開いたのでそろそろ解放してくれないとヤバいのですが……」

 忘れていた。
 俺達がこの部屋に入った元々の理由を。

 俺達は決して最初からボスを倒そうと考えていた訳じゃない。波のような大量の魔物に追い詰められ、やむなくこの場所に避難してきたのだ。

「今度こそ策はありますか?」
「なんだよ、含みのある言い方だな」
「ふんっ、もう主は知りません」

 ルナは珍しく怒っている。
 いや、珍しくもなかったな。

「策という策は無い。生き残るには……」

 ボス部屋の奥。二階層に続く階段を指さした。

「奥に進むしかない」
「その身体で、奥に進む、馬鹿なんですか!?」
「なんでカタコト!?」

 俺の胸ぐらを掴んでぐわんぐわんと上体を揺らす。
 うえ~吐きそうだ……っ。

「二階層には俺達以外のベテラン冒険者がいるはずだ。助けを求めれば高確率で上に帰れるだろう」

「な、なるほど……」

 思い付かなかったとルナはハッとする。

 ゴゴゴゴ……扉が開く。
 魔物達がなだれ込んでくる。

「さあ、急ごう……」

 ルナの肩を借りて、下へと向かう。
 その刹那、不思議な現象を目にした。

「なんだこれ……赤い、煙?」

 一階層の回廊から赤い煙が吹き込んだ。
 ルナは咄嗟に口を塞ぐ。毒の類だろうか。

「『鑑定眼』」

『誘導弾』
 ランク:A
 スキル:『挑発』

「これは……」

 煙は、ダンジョン内に充満している。
 使用したのはもっと前だ。

 つまり、俺の予想が正しければ。

「扉が開いた……?」
「急ごう、もしかしたら」
「う、うん……」

 二人の女の声が近づいてくる。
 煙を突き破って俺達を見つけた。

「い、いるよ!?」

 活発なポニーテールの赤髪少女に、おっとりとした印象のウェーブのかかった薄い青髪を持つ少女。そんな対象的な容姿を持つ二人が慌てて駆け寄って来た。

「シャルは戻ってギルドに連絡を。私は二人を治癒する」
「分かった、ノエルも治癒を終えたら地上に来て」

 慌ただしくも、迅速に行動する二人。
 ノエルと呼ばれた少女は、俺に手を伸ばす。

「酷い怪我……」

 温かい翠の光が俺を包む。
 回復魔法か。便利だな。

「主を助けてください、お願いします……」

 ルナが切実に頭を下げている。
 猫耳のしゅんと下に垂れていた。

「ん。任せて」

 痛みは確実に引いてきた。
 思考もクリアになっていく。

 杖から淡い光が放たれて、患部を癒していく。
 先輩冒険者は偉大だな。

「もう大丈夫?」
「もう少し……ああ、そこそこ」
「何やってるんですか、変態!」

 膝枕をしてもらいながら、甲斐甲斐しく世話してくれていたので、ついここが天国かと錯覚してしまった。現世に戻って来たのは、耳に鋭い痛覚が訪れたからだ。

 ルナが険しい表情で俺の耳を引っ張っていた。

「大丈夫、おねーさんになら甘えていいからね」
「あ。膝枕もう一回いいすか」
「だから、もう!」

 俺の頭が今度はルナの膝に落ち着いた。

「あ……」
「なに貴女も残念そうな顔しているんですか。膝枕してほしいなら私に言えばいいでしょう! なんで今日会ったばかりの人に甘えているんですか!」

 それもそうだ。
 事が事なら、セクハラで訴えられていた。

 あれだ、死の間際だと性欲が上がるってやつ。
 あれは本当だったのかもしれない。

「残念」
「残念がらないでください。主も!」
「いや、俺は十分これで幸せだよ」
「~~~っ」

 ふはは、なんて罪な男だ俺は。
 ルナの照れ顔が一番健康に効く。

「さてと。俺はそろそろ地上に向かうかな」
「魔物の群れは大丈夫でしょうか」

 ルナが不安そうに固唾を飲む。

「大丈夫。『誘導弾』は放ってある」
「やっぱり貴女達の仕業でしたか」
「さあ、今のうちに行こう」

 シャルロットを追いかけるように地上へと向かう。

「敵が来ます」

 ルナの『敵感知』が物陰に潜む敵を捕らえた。
 やはり、漏れた敵が潜んでいたか。

「行くよ。魔法『石礫ロック・バレット』」

 土属性魔法。石の弾丸が的確に魔石を穿つ。
 消費魔力が少なく、継戦能力に長けている。

 なるほどな。
 こうやって、体力と魔力を温存するのか。

 急所の狙いも正確だ。勉強になるな。

「急いで。後ろは足止めする。魔法『石壁ロック・ウォール』」

 瓦礫が狭いダンジョンの道を防ぐ。
 簡易的な物だが、足止めには十分だ。

「あの魔物達。どうして暴走したのかな」

 確かに俺もそれは気になっていた。第一階層で起きた緊急事態イレギュラー。その裏には、何か重要な事実が隠されている気がする。

 直接的な原因になった最初に聞いた怨嗟のような声。

「ぐ、ぐぅ……ッ」

 その時、目の前から人が落ちてきた。
 片腕を負傷し、血を垂らしている。

 その正体は、俺達を助けに来た人だった。

「シャルっ」

 髪色と同じ真紅の鮮血に塗れていた。
 顔は青ざめ、息も絶え絶えになっている。
 掠れる声で、懸命に彼女は叫んだ。

「逃げ、て……奴が、来るっ」

 オオォォォォ……。

 そうだ、俺が聞いた声はこんなやつだった。
 ノエルは急いでシャルロットを治癒する。

「何があったのっ!?」
「魔物、アストラル系……の」

 壁からぬっと白い幽体が現れた。
 その腕は、鋭く尖った牙のよう。

「ルナ、そいつから離れろ!」

 俺は指示を飛ばしつつ「鑑定」する。

幽霊レイス』『幽霊レイス』『幽霊レイス
幽霊レイス』『幽霊レイス』『幽霊レイス

「オォォオオオ……ッ!!」

 白い魂の如きゆらゆらと揺らめく幽体がまるで川のように回廊を支配していく。後ろに作った石壁を平然と抜け、俺達と迫ってくる。

 奴が持つスキルは恐らく『憑依』の類。
 あの魔物達は全部こいつらに操られていたのか……!

「逃げるぞ!」
「はいっ」

幽霊レイス』は普通、光が苦手がはず。
 つまりは地上。鬼ごっこデスゲームが始まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

処理中です...