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第2章 異世界攻略編
第18話 レイス・パレード。
しおりを挟むバサッ。ルナの身体は俺に畳み掛けるように覆い被さった。汗やら血やらとあまりいい香りのしない味気ないムードの中、それでもルナは無い胸を押し付けて俺に抱き着いてきた。
「一言余計ですよ……」
「俺の心をサラッと読むな」
それなのに一向に離そうとしない。
普段悪口を言っている癖に。
これじゃまるで、ひっつき虫じゃないか。
「無茶しすぎですよ」
「悪かった。反省してる」
「してません。鏡見て下さい、バカっ」
ルナが目を充血させながら俺にしがみついて話さない。これでも割と満身創痍なだけに、ルナの抱擁を離せなかった。
「あのー、ルナさん。ボス部屋が開いたのでそろそろ解放してくれないとヤバいのですが……」
忘れていた。
俺達がこの部屋に入った元々の理由を。
俺達は決して最初からボスを倒そうと考えていた訳じゃない。波のような大量の魔物に追い詰められ、やむなくこの場所に避難してきたのだ。
「今度こそ策はありますか?」
「なんだよ、含みのある言い方だな」
「ふんっ、もう主は知りません」
ルナは珍しく怒っている。
いや、珍しくもなかったな。
「策という策は無い。生き残るには……」
ボス部屋の奥。二階層に続く階段を指さした。
「奥に進むしかない」
「その身体で、奥に進む、馬鹿なんですか!?」
「なんでカタコト!?」
俺の胸ぐらを掴んでぐわんぐわんと上体を揺らす。
うえ~吐きそうだ……っ。
「二階層には俺達以外のベテラン冒険者がいるはずだ。助けを求めれば高確率で上に帰れるだろう」
「な、なるほど……」
思い付かなかったとルナはハッとする。
ゴゴゴゴ……扉が開く。
魔物達がなだれ込んでくる。
「さあ、急ごう……」
ルナの肩を借りて、下へと向かう。
その刹那、不思議な現象を目にした。
「なんだこれ……赤い、煙?」
一階層の回廊から赤い煙が吹き込んだ。
ルナは咄嗟に口を塞ぐ。毒の類だろうか。
「『鑑定眼』」
『誘導弾』
ランク:A
スキル:『挑発』
「これは……」
煙は、ダンジョン内に充満している。
使用したのはもっと前だ。
つまり、俺の予想が正しければ。
「扉が開いた……?」
「急ごう、もしかしたら」
「う、うん……」
二人の女の声が近づいてくる。
煙を突き破って俺達を見つけた。
「い、いるよ!?」
活発なポニーテールの赤髪少女に、おっとりとした印象のウェーブのかかった薄い青髪を持つ少女。そんな対象的な容姿を持つ二人が慌てて駆け寄って来た。
「シャルは戻ってギルドに連絡を。私は二人を治癒する」
「分かった、ノエルも治癒を終えたら地上に来て」
慌ただしくも、迅速に行動する二人。
ノエルと呼ばれた少女は、俺に手を伸ばす。
「酷い怪我……」
温かい翠の光が俺を包む。
回復魔法か。便利だな。
「主を助けてください、お願いします……」
ルナが切実に頭を下げている。
猫耳のしゅんと下に垂れていた。
「ん。任せて」
痛みは確実に引いてきた。
思考もクリアになっていく。
杖から淡い光が放たれて、患部を癒していく。
先輩冒険者は偉大だな。
「もう大丈夫?」
「もう少し……ああ、そこそこ」
「何やってるんですか、変態!」
膝枕をしてもらいながら、甲斐甲斐しく世話してくれていたので、ついここが天国かと錯覚してしまった。現世に戻って来たのは、耳に鋭い痛覚が訪れたからだ。
ルナが険しい表情で俺の耳を引っ張っていた。
「大丈夫、おねーさんになら甘えていいからね」
「あ。膝枕もう一回いいすか」
「だから、もう!」
俺の頭が今度はルナの膝に落ち着いた。
「あ……」
「なに貴女も残念そうな顔しているんですか。膝枕してほしいなら私に言えばいいでしょう! なんで今日会ったばかりの人に甘えているんですか!」
それもそうだ。
事が事なら、セクハラで訴えられていた。
あれだ、死の間際だと性欲が上がるってやつ。
あれは本当だったのかもしれない。
「残念」
「残念がらないでください。主も!」
「いや、俺は十分これで幸せだよ」
「~~~っ」
ふはは、なんて罪な男だ俺は。
ルナの照れ顔が一番健康に効く。
「さてと。俺はそろそろ地上に向かうかな」
「魔物の群れは大丈夫でしょうか」
ルナが不安そうに固唾を飲む。
「大丈夫。『誘導弾』は放ってある」
「やっぱり貴女達の仕業でしたか」
「さあ、今のうちに行こう」
シャルロットを追いかけるように地上へと向かう。
「敵が来ます」
ルナの『敵感知』が物陰に潜む敵を捕らえた。
やはり、漏れた敵が潜んでいたか。
「行くよ。魔法『石礫』」
土属性魔法。石の弾丸が的確に魔石を穿つ。
消費魔力が少なく、継戦能力に長けている。
なるほどな。
こうやって、体力と魔力を温存するのか。
急所の狙いも正確だ。勉強になるな。
「急いで。後ろは足止めする。魔法『石壁』」
瓦礫が狭いダンジョンの道を防ぐ。
簡易的な物だが、足止めには十分だ。
「あの魔物達。どうして暴走したのかな」
確かに俺もそれは気になっていた。第一階層で起きた緊急事態。その裏には、何か重要な事実が隠されている気がする。
直接的な原因になった最初に聞いた怨嗟のような声。
「ぐ、ぐぅ……ッ」
その時、目の前から人が落ちてきた。
片腕を負傷し、血を垂らしている。
その正体は、俺達を助けに来た人だった。
「シャルっ」
髪色と同じ真紅の鮮血に塗れていた。
顔は青ざめ、息も絶え絶えになっている。
掠れる声で、懸命に彼女は叫んだ。
「逃げ、て……奴が、来るっ」
オオォォォォ……。
そうだ、俺が聞いた声はこんなやつだった。
ノエルは急いでシャルロットを治癒する。
「何があったのっ!?」
「魔物、アストラル系……の」
壁からぬっと白い幽体が現れた。
その腕は、鋭く尖った牙のよう。
「ルナ、そいつから離れろ!」
俺は指示を飛ばしつつ「鑑定」する。
『幽霊』『幽霊』『幽霊』
『幽霊』『幽霊』『幽霊』
「オォォオオオ……ッ!!」
白い魂の如きゆらゆらと揺らめく幽体がまるで川のように回廊を支配していく。後ろに作った石壁を平然と抜け、俺達と迫ってくる。
奴が持つスキルは恐らく『憑依』の類。
あの魔物達は全部こいつらに操られていたのか……!
「逃げるぞ!」
「はいっ」
『幽霊』は普通、光が苦手がはず。
つまりは地上。鬼ごっこが始まった。
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