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第2章 異世界攻略編
第10話 チートキャラ。
しおりを挟む「チェックメイトだ」
俺の剣が、喉元を軽く撫でる。
その瞬間、パリンッと世界が壊れた───。
「「あっ……」」
するとどうだろう。世界が一変した。小屋の中に引き戻され、机や椅子、窓といった俺が本来見ていた物がその場へと顕現されていく。戻った、と実感出来たのはその後だ。
俺とルナは互いに剣を向けあっていた。喉元を突き刺す寸前、お互い殺す事を厭わないといったそんな状況だった。
「主、ですか?」
「その汚物を見るような視線。間違いなくルナだな」
「どこがですか!」
間違いない。俺達は戻ってきた。
「なるほど、俺が"見ていた"のは本当にルナだったんだな。ただ、言葉や仕草に少しずつ『幻惑』をかけていたと」
「まさか主も同じ試練を……!?」
この様子だと、ルナもまた偽りの俺を見抜いたという訳か。ただ従順に接していないルナだからこそ、俺を疑い、俺に剣を向けた。向ける事が出来た。
ふふ……流石俺の見込んだ女だ。
「で、これで試練は終わりなのか?」
俺とルナは互いにある一点を見つめた。
腕組みをしながら俺達を眺めていた低身長の男。綿のような自慢の髭を下げて、満足気に頷いた。
奴は……『鍛冶種』だな。
「儂の『幻惑』を見抜くか。大したものじゃ」
「俺を侮ってもらっては困るな。俺はスキルをそもそも全面的に信頼している訳じゃない。俺が信じているのは───」
トン、と頭に指を置く。
「この頭脳だけだ」
「くはは、良いぞ小僧。気に入った」
0→5
───スキル『幻惑』を獲得しました。
「ところで爺さん。あんたのステータス覗いてもいいか?」
「勝手にすればよかろう」
「だから言ったろ。爺さんの『幻惑』が俺の『鑑定眼』を上回っているって。勝手に見る事は出来ないはずだ」
「くはは、そこまでお見通しか」
ファン……何かが弾ける音がした。
「これで良いぞ」
「そうか。じゃあ……」
名前:ジンエイ
ギルド:無所属
ユニークスキル:【???】
スキル:『鍛冶』SS『幻惑』S『槌術』B『幸運』D
おい誰かこのチートキャラを何とかしてやってくれ。
「俺のFランクスキルじゃ見抜けないのも納得だ」
「それにしては使いこなしているように見えたが?」
「ふはは、それは俺の技量とセンスだ」
「主、調子に乗らないでください。気持ち悪いです」
ねえってば。
「お二人さん。その剣をやろう」
「剣。いいのか? 代金は」
「何年ローンがいいかの?」
「こいつ……!」
結局金取るのかよ。
「利息なし。金貨三枚でどうじゃ?」
───スキル『交渉術』を発動。
「俺達を試した事について弁明を聞こうか?」
「そ、そうですね。まだ何も頼んだ訳じゃありませんのに」
「そう言われると弱いの。くはは、いいだろう。金貨一枚」
「銀貨五十枚。そしたら、俺達は定期メンテナンスや装備新調を含めて、ここで行うと約束しよう」
「ぐっ……仕方ない。強欲な奴じゃな」
ふはは、強欲?
それでこそ俺に相応しい。
ルナはそんな俺を肩を竦めながら、口角を上げた。
そうか、主たる俺の類稀な才能に恐れ入ったか。
「死んでください」
「俺まだ何も言ってないのだが」
さて、用事も済んだ。
そろそろお暇するとしよう。
「それじゃあ爺さん。また来るよ」
ルナもぺこりと頭を下げた。
「おい待たんか」
「まだ何かあるのか?」
「剣を剥き出しのまま、外に出るつもりかの?」
あ、確かに。
剣を抜き身のまま持ち出していた。
鞘が必要になるな。
「儂が前に作ったので良ければ無償でやろう」
「ほう、ならそれを頂こう」
「主は多分、古着でも喜んで着るタイプですね」
ルナが突然、俺を見透かしたように挑発する。
「何を言ってるんだ。服など着れたらいいだろう」
「はあ、これだから男の子は……」
ルナはやれやれと頭を抱えた。
「お前こそ勘違いするな。この俺ならば、どんな服でも着こなせるという意味だ。そこらの男と一緒にするな」
「その場合、主は余計タチが悪いですね」
「おいこら、どういう意味だ」
「そのままの意味です」
鼻歌交じりに、ルナはご機嫌よく店内を散歩して回る。あれだけ広大に思えた店内はよく見れば、落ち着いた雰囲気の喫茶店のようにも見える。『幻惑』で騙され続けていただけに、意外な発見だ。
木調本来の包み込むような自然の香り。
丁寧に設えられた防具やアイテムの数々。それが棚にどれも綺麗に揃えて置かれてあって、ガサツの『鍛冶種』というイメージを払拭する仕上がりだ。
元々鍛冶師というだけあって、手先の器用さや几帳面さは随一のはずだ。店内を綺麗に見せる事等造作もないのだろう。
「ほれ、持ってきたぞい」
「ありがとうございます。ほら主も」
「はいはい、分かってるよ」
ぺちぺちと俺の手を叩くルナ。
面倒見がいいお袋が出来た気分だぜ。
鞘には、これまた見事に収まった。
しっくりと、手に馴染んでくる仕上がり。
紐を背中部分に括り付けて背負う。武士のように左腰に提げる事も考えたが、ここは異世界。肩に装備するのが美学だ。
「また来るよ」
「その時はお金も沢山持ってきますね、主が♪」
「俺かよ」
全部人任せな癖に、適当言うこの少女の口を誰か塞いでやってくれ。その内勝手に魔王討伐依頼とか引き受けて来そうだ。
しかし、あれだ。
時々ではあるが、ルナが笑顔を見せるようになった。
これは、今日一日の成果にしては上々じゃないか?
こうして俺とルナは、冒険には必要不可欠な装備を手に入れた。
「時間も結構経っちゃったな……」
「この後はどうしますか。いよいよ冒険ですか」
「いや、最後にやるべき事が残ってる」
ルナは首をかしげた。
「なんですか?」
「宿探し」
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