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第2章 異世界攻略編
第8話 雑魚な癖に!
しおりを挟む人を試す、と八百屋の店主は言っていた。
他の命を奪う覚悟、それを扱う技量。武器を扱うに足る器。試す部分は幾らでもある。
「ここ、でしょうか?」
古びた木造家屋。苔の付いた物置倉庫のような佇まいのその店は、他とは違う雰囲気を醸し出していた。
「ああ。じゃ、行ってきてくれ」
「えっ、私一人に行かせるんですか!?」
「ウソウソ、冗談だってば」
「死ねばいいのに」
この子……本当に元奴隷なんだっけ。
「で、本当の意図を教えてくれませんか?」
ムッとしながらも、彼女は俺に別の真意がある事に気付いていた。流石の観察力だ、良い目を持っている。
「ルナは『剣術』のスキルを持っているだろ?」
「え、はぁ……それがどうかしましたか?」
「もしジンエイという者が、剣の腕を見込んで武器を託すつもりなら、ど素人の俺は邪魔でしかないからな」
俺が隣にいる事で、ルナまで低く見積もられたら溜まったものじゃない。その場合、俺が店の前で待っているのが適切だろう。
ピクピクと猫耳を動かしながら、ルナは考える。
「そうとは限りません。もし、武器の質を見極める類の試練ならどうしますか?」
「ふむ。要するに、俺達二人で何とかするしかないのか」
「はい。くれぐれも足手まといにはならないように」
「おい。そこはせめて、共に頑張りましょう、だろ」
□■□
扉を開けた。
ガコン……その時、何かが作動する。
「(スキル『鑑定眼』)」
俺がこの瞬間に、スキルを発動した判断力。
はっきり言って俺はやはり天才だったのだ。
『トラップ』『トラップ』『トラップ』
『トラップ』『トラップ』『トラップ』
『トラップ』『トラップ』『トラップ』
「ルナ、出番だっ!」
「……ッ!」
ルナは拳を構える。
ルナは『体術』も使えるんだ。
ロープに吊るされた黒い影が天井から伸びる。軽い動きでそれを躱すと軽い動きで一発見舞う。
ドコンッと小気味いい音と共にトラップが爆ぜた。
「まだ来る。前方2、右3、左方向遅れて3!」
「はぁあああ!!」
目に付くところを片っ端から『鑑定眼』にかける。
ふはははは、最強最強! この力があれば奇襲など意味ねぇんだよ!!
「終わった……次はどこですかっ」
「奥の扉。開いたみたいだぜ」
人を試す、か。カラクリ屋敷がその正体とはな。
扉を開く。今度も人影は無し。
「主、これは何でしょうか?」
「鉄剣、みたいだな」
同じ装飾、同じ重さの鉄剣が複数本。少し長めの机に丁寧に並べて置かれてある。これを何しろと?
「(『鑑定眼』)」
『ロングソード』
ランク:A
スキル:無し
『ロングソード』
ランク:B
スキル:『増幅』『会心』
『ロングソード』
ランク:C
スキル:『反射』
他にも何本かあるみたいだ。
「うっ、結構重いですね……」
「欲張らずに一人一本だな」
まずはランク。つまりは剣の質だ。
スキルは無いが、この中じゃ最高品質の剣。
スキルはあるが、やや品質に劣る剣。
装飾に大した違いはない。
これを初見で見抜けと言うには酷すぎる。
「えっとじゃあ私は……」
俺はルナがおずおずと伸ばす手を遮る。
怪訝に見つめるルナに俺は首を横に振る。手の甲を包んで、その腕をランクBの剣へと届けた。彼女にはこれが最適だ。
「俺はこれな」
そして俺はランクCの剣を手に取る。
「根拠はあるのですか」
「え、勘だけど?」
「死ねばいいのに」
いや、だから。
剣を選ぶや否や、更に奥の回廊に進む道が出来た。暗く光が入らないその場所には、両脇に白銀に輝く甲冑がずらりと並んでいた。
装備を選べという事なのか?
「(スキル『鑑定眼』)」
『トラップ』『トラップ』『トラップ』
『トラップ』『トラップ』『トラップ』
『トラップ』『トラップ』『トラップ』
「あー畜生! ルナ、走るぞッ」
「え、え?」
ルナの手を引いて、回廊を駆け抜けた。
元居た扉が閉じる。その瞬間、ボゥとろうそくの灯が次々と灯る。何らかの原動力が与えられ、金属特有の軋みを上げながら、甲冑達が次々と動き出した!
「え、キモイ……」
「引いてないで、剣を構えろ。突っ込むぞッ」
俺は最初から戦力外。
ルナ頼みの戦闘になるんだ。
気張れよ、ルナ。
「スキル『剣術』『冷静』『敵感知』発動ッ」
身に纏うオーラが瞬時に変わる。
ルナの死角から迫る甲冑。長大な剣が振り下ろされる。
片手を付いて、身を翻しひょいと避ける。
「スキル『軽業』」
こまのように回転しながら、袈裟斬りに斬り飛ばす。
ザンッ!!!
「凄いっ、こんなあっさりと」
眩い光のパーティクルが暗い回廊に明滅する。
ルナは剣の切れ味に驚いているようだった。
「スキル『会心』の効果だろうな」
効果を見る。
・スキル『会心』
一定確率で、相手に致命的な損傷を与える。
(レベル差によって発生確率増減)
そして、他にも種がある。
・スキル『増幅』
レベルに応じて、攻撃力増強。
ルナが持つあの剣は、ランクAのスペックを遥かに凌駕する。
遠心力を使って、上手く剣の自重をカバーしている。
次々と迫る敵を足さばきで翻弄していた。
「はぁあああ!!!」
これで八体目。
殆どが殲滅できたはずだ。
「待てよ……残り一体はどこに」
胸騒ぎがする。
ルナは殲滅に集中していて、残党を気にしていない。
どこだ、どこから狙っている。
轟ッ、回廊の奥から焔が熾る。
「魔法!?」
巨大な火球が眼前に迫る。
ルナに直撃するコースだ。
「ルナ、避けろっ」
「う、ううぁ……剣が挟まって」
「そんなのいいから!」
甲冑の隙間にルナの剣が挟まっていた。
当たりが良すぎて絡まったのだ。
「よ、避けられない……っ」
ルナ、前に言ったよな。
お前が死ねば、俺も死ぬ。
多分俺は、お前抜きでこの世界を生き抜けない。
だから、これは賭けだ。
これで、何とかなってくれ!
「うぁぁあ!!?」
「主」
俺は火の中に飛び込んだ。
ルナに覆いかぶさるようにして、剣を振るう。
「喰らえッ」
ガキンッ。
耳が劈く強烈な刺激と音が伝わった。
世界の色が反転したような違和感。
高密度の魔力の奔流が空間で荒れ狂う。
刹那。
炎の塊が、塵の如くあっさりと消え失せた。
「はぁ、はぁ……成功した」
「何してるんですか!」
ルナが俺の胸に飛び込んで、ゴツンと叩いた。
「雑魚な癖に、私を庇うなんて!」
「ねえ、雑魚って言葉必要だった?」
「死んじゃったかと思いましたよ、あーもう!」
「残念ながら、生きてるよ」
俺はへらへらと笑いながらルナの頭を撫でた。
ふにゃあ、と甘い吐息を漏らすルナ。
可愛い。
「何してるんですか、変態。訴えますよ」
「えーそれは怖い」
異世界で突如法廷送りとか洒落にならんのよ。
「なんで私を助けたのですか」
「なんでって、死なれたら困るから」
「それだけですか……?」
「おう。他意はない」
4→5
スキル『料理』を獲得しました。
一番いらんの貰ってもうた。
まあいいか。
「で、今の手品は何ですか」
「剣に付与されたスキルだよ。『反射』らしい」
スキル『反射』
魔法を撃ち返す。または消滅させる。
俺の技量的に、消滅までしか至らなかったのだ。
あの威力の攻撃を反射出来たら、ボス戦も楽勝だ。
そう都合よく扱える訳ないか。
「そういう事は、早く言ってください!」
ふしゃあぁあと威嚇ポーズ。
「ふはは、この俺が簡単に死ぬと思うのか? 俺はGの如くしぶとく生き残るつもりだぜ」
「なんですかそれ。早くくたばってください」
ねえ。
ガコン。扉が開いた。きっとこれで最後だ。
そんな予感がする。
「いくぞルナ」
「はい、主」
光に導かれ、俺とルナは奥へと進んだ。
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