好感度に応じて強くなるギャルゲー的異世界に転移してしまったんだが。

TGI:yuzu

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第1章 異世界準備編

第1話 人の上に数字が見えるんだけど。

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 意識覚醒からコンマ数秒。神の如き演算能力を以て導き出した答えは、品性や秩序の欠片も無い───ともすれば、今世紀史上最悪の語り出しとなった!!

 それを、一切悪びれもせず平然と口にする俺が異常だと思うのは、人間誰しもの共通認識だろうが?

 少し、待って欲しい───と、俺は弁明する。

 なるほど。確かに天地開闢てんちかいびゃくに等しい衝撃を受けて気が動転しているだけで、その実落ち着いて聞いてみると割とまともかも知れないぞ、と。

 一縷の希望を元に粛々と頷く観衆オーディエンスを他所にふと、





 おいおい大丈夫か、と遂に救急車をコールする決意に至った諸君らの脳は正常に機能していると保証しよう。

 しかし、左手が疼く訳でも、右目が痛む訳でもない。寧ろ正常な健康状態であるはずの俺が、どうして厨二病患者のような妄言を吐くに至ったか。

 簡単だ、


 目を開いて一度状況を整理してみよう。

「□■□、□■……?」
「□■……□■□!」

 獣人っぽいふさふさの獣耳をもつ女や、大剣を担ぐ狼顔の男。すれ違っては俺に怪訝な顔を向けて去っていく。かけられる言葉はまるで意味不明。

 ……

 ッ!!!

 これが俺の異能ッ……!


 嗚呼、これはに違いないッ!?

 俺の頭に轟く雷鳴の如き衝撃音!
 だって、なら常識じゃん!?

 そうなったら、野郎共の数値など興味ねぇ!
 ッ!?

 と。熟考ゼロ秒、クワッと目を見開いた。

 だが、ここで俺は気付いてしまう。

「そんな……馬鹿なッ!? !!」

 俺の仮説は、間違いだと完璧なまでに証明された。

 何故か?

 "0"

 そもそもこの世に童貞や処女がこうも犇めているはずもあるまい、彼らは童貞や処女の顔をしながら平然と道路を歩いているのだ。

 健全な男性諸君は、父親や母親が、まさか未経験なんて事はないくらい、意欲的に取り組む保健体育の座学授業の英才教育によって知るべくして知っているのだが、無論その常識はここでも当てはまると考えてもよいだろう!

 俺は失意の渦に呑まれながら、とぼとぼと歩く。

「まあいいか。いつか分かるだろうし」

 結果ッ!!
 俺は諦めて散策しようめんどくせぇからパスと考える事を放棄して、
 恐らくは───いや、十中八九という事実を心のどこかで受け入れながらせっかく来たその場所を堪能する事にした。

 その後、俺は暫く経ってからある事に気が付いた。

「あれ……つか、───?」

 □■□

 石を敷き詰めて出来た主街路の両脇には、これまた日本とは違った風貌の建物が次々と建ち並んでいる。
 起伏が激しく、街の中央部が盛り上がり、その中央にはいかにも格式高そうな王城らしき建物が高々と聳えていた。

 建材は変わった色の石やレンガで造られた統一感のある街並みと、さながら城塞都市らしき風貌はどこかイタリアのオストゥーニを想像する。
 あれは確か石灰で出来た白い建物が多く建っていたが、ここでも地域的特色が感じられる。

 バリアフリーなんてクソ喰らえの超不親切設計である長大な階段を汗水垂らしながら必死に登ると、ようやく視界が開けていく。優れた眺望に思わずハッとした。

「すっげぇ……」

 海だ。海が見える。
 なんて綺麗な街なんだ。

 ここが、異世界……!



「□■……□!!?」

 なんだ、悲鳴か?
 俺の耳が確かに捉えた。
 だがどこの国の言葉だ、異世界語はまるで分からん。

 途端にゴゴゴ……と砂埃を上げながら何かがこちらに迫ってくる。猛牛か何かが俺を狙っているのか!?

 違った。迫って来たのは動物では無い。

「果物!?」

 なるほど、この急勾配な坂だ。おそらく上の方で荷台か何かが横転して転がってしまったのだ。相手が俺を襲う危険がないと分かれば何も心配は無い!

 来て早々、トラブルに巻き込まれる。
 となるとこれは出会い系イベントに違いない!

 おそらく坂の上にはきっと海外風美少女が待ち構えているのだ。この機会を逃す訳にはいかなかった。

 迅速な動きで果物を回収する。
 多少傷んだ品もあるが、殆どは無事だ。

「さあ、お姉さん。俺が助けておきましたよ、と───」
「□□■□……□■□!」
「なん……だと!?」

 嗚呼、しまった。
 俺は二つのミスを犯してしまった。

 そもそも俺、言葉が分からないじゃん!?

 助けても意味が無いという致命的欠陥。

 そしてもう一つ。

 助けた人が美少女などではなく……ただの老婦人だった事である。なんという肩透かし。俺の懸命な努力を返してくれ。

 ふんっ、俺は毅然と鼻を鳴らす。

 ……なんてな。人助けで人を選ぶような真似はしない。
 俺は皆が羨むナイスガイなのだ。

 お婆さんと目が合った。例外なくお婆さんの上にも数字があった。最初は0。しかし何たる事か、俺が果物を拾い渡した瞬間、一気にそのメーターが加速した!


 5。


 


 ───『言語理解』


「□■、□■□……りました。風で荷台に乗せた箱が飛ばされてしまって困っていたのですっ。これはお礼です、どうか受け取ってください」

 脳へのシステムメッセージアナウンス。

 分かる。急に言葉が分かるようになった。
 今のはなんだ、お婆さんの数字が変わった瞬間、言葉が理解出来るようになったじゃないか。

 俺のスキル、いや……それとも魔法の効果なのか?

 受け取ったのは果物……。俺はクルクルとそれを弄びながら去っていく老婆に手を振った。

「ほう……面白いな?」

 俺は毛先を弄りながら、高速で思考を巡らせる。

 急に耳栓を抜いたように、周りの"音"が一変した。音としてしか認識していなかったそれが、ちゃんと言葉に聞こえる。

「今日も天気いいなぁ!」
「バカ息子、いつまで寝てるんだい!」
「例の場所、魔物が出たらしいぜ……」
「ママ、おんぶして~!」

 思考が更に加速していく。
 この能力を俺に持たせてしまったが運の尽き。

 チェスの駒を動かすように。
 一手、更に次の一手と展開を想像する。

「ふはは、これはいい!」

 俺に備わったこの力。
 人の上に見える数字の意味。

 これらの問題を解決した時、俺は初めて、この異世界を攻略出来るかもしれない。
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