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第4章 ラブコメディ。
第34話 ハーレムは罪。
しおりを挟む女の子は惑わせるのが上手い。
これがドッキリなら天晴れだ。
ぼくは、これ以上にないくらいドキドキしている。
麗奈は今、なんて言った?
一瞬この世界に音が無くなった様だった。
「分かった?」
「う、うん」
麗奈は本気の目をしていた。
しっかりと赤く染まる頬は、夕暮れのせいではない。日は既に落ちきっている。だから外は暗い。でも麗奈の表情はしっかりと分かる。
「それで、返事は……?」
返事。何の、と惚けるのはもう遅い。
ぼくは、告白に対する返事をしていない。
後回しにするクソ野郎にはなりたくなかった。
いや、その表現も正しくは無いか。
正確にはこうだ。
「ごめん。ぼくは……」
答えが決まっていたんだ。
最初から。彼女と出会った、あの時から。
「そっか。そうだよね、うん。分かってた」
「本当にごめん」
「ううん、いいの。別にゆーくんが謝らなくてもいいんだよ。寧ろせっかくの仲に割って入って邪魔したのは麗奈の方だから」
ぼくは反省しなければならなかった。
ぼくはラブコメに憧れていた。
学園生活、女の子に囲まれる日々。
ドキドキでハッピーな毎日。
でもそれは、コメディだったからこそ、実際の闇の部分を隠す事が出来ていたんだ。
日本にはハーレムという概念がない。だからもし、二人に思いを寄せられていたとしたら、そのどちらかを犠牲にしなきゃいけないんだ。
ハーレムは罪だ。男の夢だとか、甘い事を考えていたんだ。だから反省をする。だから精一杯謝る。
「天海さんと約束してたんだ」
「約束?」
「うん。ゆーくんの口から、ちゃんとどちらを選ぶのかを聞こうって。それも、フェアな状態でお互いの告白を聞く為に、落ち着いた二人きりの時間を作ってね」
なるほど。つまり、ぼくはこの場でOKをしていたら、告白を聞いて意見をコロコロと変え、堂々と二股をかけるクソ野郎になっていた訳だ。何たるトラップ。
結愛が半ば強引にぼくと麗奈を引き合わせた理由がようやく分かった。きっと結愛はぼくが麗奈の事を気にする発言を待っていたのだろう。それがトリガーとなって、今ぼくは麗奈とこうして二人きりになれているんだ。
「ね、女の子には色々あるでしょ」
「裏で壮絶な駆け引きが繰り広げられていたのは十分に分かったよ、うん。やっぱり怖いね」
「油断してると、食べられちゃうかも」
おう、それは怖い。
「ねえ、ゆーくん」
タタッと麗奈は前に駆け抜けると、くるりと軽やかにターンをして振り返った。
「麗奈が刺された時、本気で悔しがってくれてありがとう。敵を討ってくれてありがとう。ゆーくんは麗奈のヒーローだよ」
言い過ぎだよ。
ぼくは肩を竦めて笑った。
「"結愛ちゃん"の事、ちゃんと大事にしてあげてね」
冷戦の終結。麗奈はウインクをして立ち去った。
気付くとぼくの家に着いていた。
言われなくても分かっているさ。
ぼくは、この想いを改めて、ちゃんと結愛に伝える。
そうやって、ぼくのラブコメは完結するんだ。
ただ、それを焦る必要は今のところない。
ぼくらの関係は至って良好。二人の間を引き裂く謎の輩が現れる訳でもあるまいし、精々時間をかけて関係を育んでいくさ。
それまでは甘酸っぱい青春を楽しませておくれよ、人生。
玄関のドアを閉めると、良い香りがキッチンから漂ってくる。腹が減った。さぁて、今日の料理は何かな?
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