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第4章 ラブコメディ。

第33話 告白2。

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 恋とは不思議なもので、今ある安定した関係性を簡単に変えてしまう魔法のような物だ。言い方を変えれば、不安定な方向に導く起爆剤みたいな物でもある。

 自然とぼくは結愛と一緒にいる事が多くなったし、けれど麗奈の事もその後が気になって仕方がなかった。

 放課後の部室。
 日が大きな影を作り出している。

 結愛は無言で本を読む。
 その表情は、何だかご機嫌だ。

 面白い本でも見つけたのだろうか。
 今度貸してもらおう。

 共通の趣味を持てるよう努力するのも、同じ部員としての責務な気がした。本当に部員だからか、だって? あまり野暮な事は聞かない方がいい。

 ガタッ。結愛が立ち上がる。
 なんだなんだ、何が始まるんだ。

 席を移動して、ぼくの隣に座る。
 うっ、近い。肩が当たりそうな距離だ。

「な、なに?」
「別に。お気になさらず」

 そっちが仕掛けておいて、気にするなは無理な相談だ。まさかぼくが動揺する顔を拝みたくて、わざとちょっかいをかけているんじゃなかろうな。

「ゲーム。全然上手くいってないみたいだけど?」
「えっ、あ、ああ……そうだね」

 無理だろ。いやいや、集中出来ないって。
 携帯アプリを落とし、ため息をつく。

 やっぱりそうだ、結愛はからかっているんだ。
 ははーん、ぼくが結愛に対して気があると知って強気になっているんだな。天下の結愛様の土俵に立ったって訳だ。

 こりゃ、無言はかなり毒だぞ。

「麗奈の件だけど……」
「ちょっと。どうしてそこで日向さんの話が出るの?」

 え、なになに。なんで?
 結愛がいきなり怒りだした。今まで仲良くしていた近所の犬に、急に吠えられた気分だ。

「いや、最近来ないから大丈夫かなぁって」
「陸上の方が忙しいって行ってたからその関連でしょう。大体、予知夢で悪い未来を見ていない自体、日向さんは無事って証明な訳だし、気にする必要もないよね?」
「確かにそうなんだけど……うーん。結愛ってどうして麗奈の事を頑なに日向さんって苗字で呼ぶの?」
「……女の子にはいろいろあるの」

 女の子すげぇな。
 同じ部活の仲間なのに、未だにさん付けの苗字呼びとか。男子なら発狂モンだぞ。

 結愛は本をパタンと閉じて再び立ち上がる。
 ぼくは結愛の挙動を呆然と眺めていた。

「そこまで気になるなら行ってみる?」
「行くって……どこに?」
「そりゃあ……」

 □■□

「ふぁいおー、いちに、いちにっ」

 陸上部の練習をこんな近くで見るのは初めてかもしれない。外もそろそろ寒くなってくる時期なのに、半ズボンで運動とか。寿命が縮みそうだ。

「どこ見てるの」
「え、太もも」
「もしもしお巡りさーん」
「やめてください、結愛様」

 さて、麗奈はどこにいるだろうか。
 眺めていると、見知った男子が駆け寄って来るではないか。まるでフリスビーをくわえて戻って来る飼い犬の如く、ぶんぶんと手を振ってアピールしている。

「おーい、皆さん~」

 遠藤くんが呼んでいる。
 結愛とぼくは顔を見合わせると肩を竦めた。

 しゃあない。

「やあ。麗奈は見なかった?」
「あー、先輩ならまだ外周っすね。そろそろ帰ってきますよ。見かけたら呼び止めておきますね」
「大丈夫。こっちで見つけるから」

 結愛は心配ない、と手を振った。
 なるほど、未来視があれば余裕なのを忘れてたや。

 遠藤くんは練習に戻った。
 ふむ、告白した件についての報告はなし、か。もしかして実際に告白は行われなかったのか?

 いや、それは考えにくい。ぼくが強く関与しなければ、予知夢の事実が覆る可能性は低いからだ。バタフライエフェクトを考慮しても、少なからず遠藤くんの心の内に、麗奈の恋心を宿しているのは間違いないのだから。

「もう帰ってくる」

 しばらくすると麗奈も戻って来た。
 ぼくと、その隣の結愛の姿を見ると驚いた表情をして目を丸くしていたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。

「もしかして二人とも応援に来てくれたの?」
「勿論そう───」
「───悠斗が日向さんに話したい事があるらしくて」

 最後まで言わせて欲しかった。

「そっか……そう、分かった。もう少し待ってて、早めに練習切り上げるから一緒に帰ろ?」
「じゃ、私は先に帰るね」

 結愛が帰り支度を始めた。
 ここまで来て、結愛は一緒じゃないのか?

「ゆーくん。いいの、放っておいて」

 麗奈に肩を掴まれた。
 ここまでの自然な流れ。

 もしかして、打ち合わせ通りなのか?

 結愛の目的は、麗奈の元まで案内する事。
 その役割を終えた結愛は一人で帰った……?

 一体何がしたかったんだ、結愛は。

 ここ最近の、結愛と麗奈の関係には少なくない違和感を抱きながらも口をあまり出せなかった。

 □■□

「それで、話って?」
「遠藤くんの件だよ。何か進捗があったのかなって。同じ部活の先輩なら何か聞いていないかな」

 まずは知らないふりをして探りを入れる。

「遠藤君から何か聞いた?」
「いや、ぼくには何も言ってくれなかった」
「そっか」

 いつもの通い慣れた下校道。
 幼馴染の麗奈にとっても馴染みのある道。

 そのはずなのに、今日だけは特別に思えた。

「逆に天海さんとは何かあった?」
「どうしてそこで結愛が出てくるんだ」

 それに、人付き合いが得意な麗奈が結愛だけまださん付け苗字呼びなのも不自然だ。

 ここに何らかの意味を感じるのは、いくらぼくでも気付く。それが結愛の言う"女の子のいろいろ"なのは、説明されなくても分かった。

「告白するって。あの子から宣言されちゃった」
「あの子って……結愛から?」
「その調子だとまだみたいだけど」

 告白?
 前のあれの事か?
 あれを告白に入れて良いのだろうか。

 まあ、ぼくと結愛がお互いに、良く思っているくらいのニュアンスでその絶妙な塩梅に浸っているのは言うまでもないが、結愛にとってのあれは、麗奈に宣言してまで行う重要な事だったのか。

「あれはね。宣戦布告なの」
「宣戦布告? それをどうして麗奈に」
「まだ気付かないの? 本当に鈍いなぁ」

麗奈は頬を膨らませて、むぅっと声を上げた。
ぼくの手首を強く握る。

「だから、麗奈はゆーくんの事がっ」

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