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第4章 ラブコメディ。

第31話 未来回避の言い訳。

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「いきなり走り出すからびっくりしたよ……ってあれ、天海さん?」
「日向さん。どうしてここに」
「そっちこそ、なんで?」

 これを馬鹿正直に答える奴はいない。

「麗奈とはさっき出会ったんだ。迷子の子を送り届けて、ちょうどフリーになったタイミングでさ。それで、トイレの場所まで戻って来てみれば、結愛がナンパされていたものだからびっくりしたよ」

 結愛と一緒に来たという事実を伏せながら答える。

「ゆーくんそんな事してたんだっ。天海さんも災難だね、怖かったでしょう?」
「まあ、ああいうのには慣れているつもりだったけど、今日のはちょっと怖かったかな。だから悠斗が来てくれて本当に良かった」
「ゆーくんは昔から、そういうのは放っておけないタイプだから。だよね、ゆーくん?」
「まあね。何とか間に合って良かったよ。少しでも遅くなっていたらどうなっていたか」

 とりあえず、あのナンパしてきた連中を共通の敵として植え付け、ヘイトを分散させる事で万が一にも結愛と麗奈が衝突し合う展開を避ける事が出来た。

「ここからは三人で回る?」
「う、うーん。私はもう満足かな。ちょっと疲れたし」
「麗奈はもう少しだけ適当に回って帰ろうかな」

 あれ、さっきまであんなにノリノリだったのに。
 まあいっか。疲れたら無理する必要もないし。

「じゃあ、また学校で」

 ぼくは一人で時間を潰しながら家に帰る事にした。
 帰り道、どこかにふらっと立ち寄っていたのか、それともタイミングを見計らっていたのか麗奈がどこからともなく現れて、ぼくの肩にタックルするように抱き着いた。

「かっこよかったよさっきの」
「わっ、あ、ありがとう」
「今度は麗奈にもしてよ」

 それは無理だろう。
 ナンパされに行くんなんて正気じゃない。

「機会があったらね」
「やったね、えっへへ」

 もしぼくが集団リンチにあったらどうするつもりなんだ。麗奈は何度も攫われては助けられるどこぞの王国の姫様にでもなりたいのだろうか。

 というか、ぼくと麗奈の家は何気に近いのもあって駅の方面も同じなのか。だったら最初から一緒に帰るって言えばそれでよかったのに。

「ゆーくん。今日のデートは参考になった?」
「だいぶ分かった気がするよ」

 少なくとも結愛と麗奈の趣向が全くの逆だったりで、どれが正解のコーデなのかは人それぞれのところとか。だから見えない正解を探すより、一緒にいる時間を大切にした方がいい、遠藤くんにはぼくからそう伝える事にした。

 結愛からもメールが来ていた。
 ありがとう、と簡潔な一言だった。

 でもぼくはそれ以上の感謝を既に受けている。
 あの時の結愛の表情は深く脳裏に刻み込んである。


 それから毎日のように現れるようになった遠藤くん。
 ぼくはその内、ある一つの仮説に辿り着いた。

 もしや遠藤くんは結愛のファンなのではないか。
 相談と自称して、実は結愛の理想とするデートプランやファッションのコーディネーションを聞きたいとか。そういう事だったのかもしれない。ならば相当な策士だ。

 手強いライバルがまた一人増えてしまった……。

 ライバル?
 ぼくは彼をライバル視しているのだ。

 うむ、謎だ。

「よし、これで行ける気がします」
「ほう、遂に告白する気になったの?」

 遠藤くんが満足げに、何度も書き込んであろう使い古したノートを眺め、目を輝かせていた。ぼくとしては遠慮いただきたい。結愛はそれに気づいているのか……?

 ぼくを見て何故かじとっと湿度ある視線。
 麗奈は……満面の笑み?

 なるほど、分からん。

「明日告白しようと思います」
「今日じゃないのか?」
「はい、明日っす。明日に気持ちを切り替えます」

 明日から頑張るとはまた訳が違うのだろうか。

「ごめんね、ゆーくん、天海さん。私明日は陸上部の方に行かなきゃだから、こっちの部活には出られないの」

 麗奈は掛け持ちで大変そうだ。しかしぼくとしては陸上部の活動も頑張ってほしい。変な相談に振り回されるのは、ぼくと結愛だけで十分だから。

「じゃあ失礼します」
「麗奈もこれで!」
「じゃあぼくらもそろそろ帰ろうか」
「そうね。鍵閉めるから」

 そんなこんなで明日が決戦の日である。

 ぼくはまた未来視を発動させた。
 今日の予知夢は、夕暮れ時。体育館裏。

 これは、……

「好きです、付き合ってください!!」


 えーーー?
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