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第4章 ラブコメディ。
第30話 エンカウント回避。
しおりを挟むこのタイミングで麗奈が電話!?
しまった、見つかった!
「へえ、凄い偶然!」
麗奈が駆け寄って来る。
電話を切った。嗚呼、何してもダメだ。
「ゆーくんに電話しようと思ったら、丁度同じタイミングで前にいた人が電話を取り出すんだもん。もしかしたらって思ったら、やっぱりだったよ~」
さあ、早く火山を爆発させてくれ。
出来れば事を穏便に済ませたい。
「ゆーくんは一人?」
何。なんだって。
まさか麗奈は結愛の姿をぎりぎり見ていない?
そうか、電話をする為に、視線を下に落としていたのだ。
これは何たる幸運。あとは麗奈を連れてどこかに。
「ま、まぁね」
「ゆーくん、お願いがあるんだけど」
お願い?
ぼくは嫌な予感がした。どのくらい嫌な予感がしたかっていうと、テスト終了五秒前に、解答用紙に裏面がある事に気が付いた時くらいだ。
「昨日の遠藤君の件で、良かったらゆーくんとのデートの参考にさせて欲しくて。だめかな?」
まさか、結愛と麗奈が同じ事を言うなんて。
まずい。結愛がトイレから出てくる。
まずはここを早く逃れなければ!
「いいよ、じゃあ行こっか。どうせ暇だし」
嘘っぱちだが仕方ない。最悪の未来を回避するのだ。
そうしてぼくは、なるべく遠くの店舗を選び、その中に入った。結愛からは鬼のような数の電話がかかっている。しかし隣には麗奈。気を付けないと本当に死ぬ事になる!
「ごめん、結愛。今迷子の子供の案内をしてて」
『そうだったの。もうすぐで終わりそう?』
「も、もうちょっとかな」
『ならそっちに行く。未来視を使えばすぐ会えると思うし』
いやいやいや、それは困るぞ!
どんな行動をとっても、詰むじゃないか!
「だ、大丈夫だから。さっきの所の近くで待ってて!」
『うん……』
罪悪感のパラメータがカンストを通り越して上限突破を始めた。麗奈は麗奈でご機嫌に服を選んでいるし、ぼくはどうしたらいいんだ?
下手をすれば、寧ろ未来を引き当てたのはこっちだったのではないか? 例の予知夢は結局、何故怒っているのかが分からなかったし。今なら麗奈と一緒に結愛の元に向かっても、怒られないかもしれない。
「ゆーくんは……寒色系より暖色系の方が似合うかな? フォーマルな着こなしよりは、この革のジャケットでカジュアルな感じにして、下には白地のTシャツを着せる方が……うーん」
またしてもぼくはマネキンだった。
トゥルルル。電話、結愛からだ。
「ご、ごめんまだかかりそうで……」
なんだ、雑音が多いぞ。
『……やめて、くださいっ。ですから私はっ!』
揉めている!?
まさか、夢の内容は結愛と麗奈の喧嘩じゃない!?
だとしたらぼくの失態だ。
結愛と麗奈を引き合わせる事が、その未来に繋がると考えていた。どうする、すぐに向かうか? 麗奈は……丁度出て来た。
動揺を悟られるな。ぼくは電話を切った。
「どうしたの、誰から?」
「親からだよ。今日は晩御飯はいるのかって」
「えーどこかに食べに行っちゃう?」
ぼくは自然の流れで麗奈の手を取った。
「ゆ、ゆーくん?」
「人が多くなってきたからね。こうしていた方が安心だよ」
そうして、麗奈を連れて例の場所へと向かう。
靴屋さんでも見ようかという話のついで、
「そうだ。その前に休憩にしようか」
「そうだね~」
奇しくも同じ場所に向かっているとは、麗奈は気が付くだろうか。さて、見えて来た。トイレの近くには、数人の男性が一人の女子を囲っている。
「ねえねえ、そう固い事言わずにさ」
「そうそう、連れがいるなんて嘘っしょ?」
あいつら……!
「ごめん、麗奈っ」
「ゆ、ゆーくん!?」
ぼくは、その集団の中に跳び込んだ。
「お待たせ結愛。この人達は?」
「悠斗……っ、ううん何でもないっ」
ぼくの腕に結愛がしがみつく。
柔らかい感触と香水の香りのダブルパンチ。
今の結愛の表情は、過去のどの場面よりも無邪気で純粋な笑顔。心が思わず晴れやかになるような、八月の蒼穹に勝る屈託のない表情だった。
「遅いよ」
「いやぁ、ぼくも迷子になりかえて」
「ちっ、彼氏持ちかよ」
「行こうぜ」
あー何とかなった。
やはり結愛を一人にしておくと、悪い虫がどんどんとやって来る。それも光に群がる蛾みたいな存在がうようよと。結愛を一人にしたぼくの責任でもあるけれど。
つまりはあれか。ぼくの予知夢は、ちょうどぼくがトイレで席を外した際に、結愛と麗奈が狙われたって事なのだろうか。多分きっとそうだ。
予知夢にさっきの男達が現れていなかった気もするが、それも偶然見えていなかっただけなのか。それともまた違った解釈が出来るのか……?
それは、今から分かる事だろう。
「いきなり走り出すからびっくりしたよ……ってあれ、天海さん?」
「日向さん。どうしてここに」
「そっちこそ、なんで?」
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