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第4章 ラブコメディ。

第28話 恋愛相談。

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 更に時は遡り、昨日まで時を戻そう。

「じ、実は……好きな人がいて」

 新生未来研究部に良からぬ風を吹き込ませたのは、恥ずかしげに頬を染めながら語る初々しい高校一年生の若い男子生徒だった。今思えば、甘酸っぱい青春はどこからともなくやってくるものだと考えていたぼくの学生生活。

 返して欲しい。
 ぼくの普通の青春を。

 計画的ラブコメが未遂に終わってからというもの。
 ぼくはラブコメチックではなく、何故かSFに巻き込まれるという生活が続いていた。特になんだあの通り魔事件は!

 超能力で捜査を進めるのはまだ良かった。
 なんで終いに殺されかけたんだぼくは!

 今思えば相当な無茶をしたものだ。
 悪夢を見ずに済んだ事に浮かれて、本当にどこかの主人公のような行動をしてしまったではないか!

 それでなんだ。未来研究部の、肝っ玉を冷やす活動がようやく一段落したと思えばこれだ。これ見よがしに恋をしていますというオーラをプンプンと漂わせやがって!

 ぼくをからかっているのかこいつ。

 だが……まあ、あれだ。
 未来研究部は元々、他人の悩みを相談、解決に導く部活というのが名目上の活動内容。恋愛相談という、命の危険が全くなさそうなゆるーい内容がようやく舞い込んで来たのだ。

 まずはその幸運を素直に喜ぼうじゃないか。

「この子、麗奈のところにいる陸上部の一年生でね? 恋愛関係で悩んでいるようだったから、折角だし未来研究部で相談に乗ろうかなって」

 新生未来研究部の構成メンバーに新たに加わったのは、無事退院した麗奈である。彼女は、未来研究部を大いに盛り上げ、全校生徒に活動を周知させるべく、ビラやポスターを撒き、大々的に宣伝を始めたのだった。

 結愛とぼくの二人で細々とやっていたのが遂にバレてしまったのだ。結愛は突然麗奈に対して敵意をむき出しにして何故か不機嫌になる始末。麗奈は麗奈で、「ずっと二人きりでやってなんて、ゆーくん信じられないよ!」とこれまた何故かぼくが怒られてしまった。

 ただ、麗奈の線引きは徹底しており、未来研究部への新規募集は行っていない旨を伝えると、有象無象の男子達(結愛目当ての猿)はすっかりと去って行ってしまった。麗奈は続けて、相談役になるという表向きの文句を謳って、依頼を募集した。

 だが場所が場所だ。旧校舎まで立ち入るのは面倒だし、あの結愛に対して相談というのも敷居が高い気がする。極めつけは、「未来研究部」などという大層な名前があらゆる面で邪魔をしているのは言うまでもなかった!

 最近ぼくが見る予知夢は、周り(殆どが男子)から陰口を言われる未来だ。結愛と麗奈という両手に花状態で部活で続けている状態は、やはり危険を孕んでいた。普段話す男子にも恨みを買ってしまい、凄い形相で睨まれてしまった。だが口を酸っぱくして言っておこう。ぼくは何も悪くない!

「えーときみは」
「遠藤っす」
「遠藤くん? 好きな人は教えてくれないのか?」
「そ、それはちょっと……」

 じゃあなんで相談しに来たんだよ。

「まあいいんじゃない? 相手の名前を聞かなくても、教えられる事もあると思うし。それで、実際どんな事を聞きたいのかな?」

 結愛がさりげないフォローを入れて、遠藤に尋ねた。

「そうっすね。例えば、女の子をどうやって誘ったらいいかとか……あとは、デートの時に何を話したらいいかとか、どこに行けばいいかとか」

 なるほど。それは当然の悩みだな。
 かくいうぼくはデート経験がないから分からない。

 結愛は……どうなんだろうか。
 少し上を向いて、何を考えている様子だった。

 もしや、元彼との思い出を掘り起こしているのではあるまいな。いや、それだったらなんというか。ちょっと嫌、かもしれない。思わず元彼を殴りに行く為、住所を聞いてしまう。

 もやっとするこの感情は嫉妬以外何物でもない。
 所詮ぼくは器の小さな人間だったのだ。

「なに、こっち見て」
「いや、なんでもない」

 言える訳がない。恥ずかしい。

「気になる」
「気にしなくていい」
「お願い」
「いや、本当になんでもないんです」

 結愛さん? ぼくを虐めて楽しいですか??

 結愛は頬杖を突きながら、意味深な視線をぼくに送った。

「ちなみに」

 結愛はぼくに目掛けて更なる牙を剥く!

「デートはした事」
「あるわけない」

 だから。心の内に秘めたぼくの事実を晒さないで欲しい。そして何故結愛は嬉しそうなのだ。口角が上がっているのがバレバレだ。あ、ハンカチで隠したな。小賢しい奴め。

「結愛さん。何がそんなにおかしいの」
「ううん別になんでもない」

 結愛はやはり、相当な悪女だ。

「ふーん。じゃあゆーくん」
「さ、話を始めましょう」

 麗奈が何を言いかけたところで結愛が突然のシャットアウト。机に散乱していた本を立ててトントンと整えるとすくりと立ち上がった。

「悠斗。試しに私を誘ってみてくれる?」
「え。ぼくが結愛を?」

 そんな事したら、ぼくを倒す為だけに核がここに撃ち落されてしまうかもしれない。ぼくは命の大切さを学んだのだ、そう易々と身体を張るものか!

「悠斗?」
「週末どこか遊びに行こうよー」
「喜んで。はい、こんな感じ」

 今ので何が分かるというのだ。

「ゆーくん、折角だから麗奈にも言って?」
「週末どこかに」
「行く!」

 これなんの茶番?

「なるほど……そういう感じで」

 え、遠藤くん? 今ので何を分かったの?
 徐に鞄からノートを取り出し、メモを始めたではないか。そして結愛と麗奈はしたり顔である。この茶番に意味なんて……。

 そうか、分かったぞ。これは番宣だったのだ。
 十五秒間のCMに纏めるべく、未来研究部の相談から解決までの道筋を一つの物語を仕上げていたのだ。なるほど、道理で即落ち二コマみたいな展開になっていた訳だ。結愛や麗奈がぼくの誘いに対し、ゼロコンマ何秒という刹那の時間でOKを出す訳がない。

 世の中の男性諸君よ。
 忘れてはいけない、女性の怖さを。

 Presented by Yuto Koyama.

「デートの方法については、各自考えてノートにでも纏めましょう。幸い明日から週末で休みだからそれまでに遠藤君に提出する資料を揃えておく事。以上」


 そして、この日の活動は恙なく終了した。
 はずだった。







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