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第3章 通り魔事件。
第25話 ネタばらし。
しおりを挟む黒の……レインコート。
これ程強烈な既視感の正体は、間違いない。
予知夢で見た通りの情景なのだ。
時が止まったような気がした。
普段なら、まるでメドゥーサに石化の魔法をかけられたみたいに、足を一歩も動かせなかっただろう。
この予知夢が行き着く先は何だった。
思い出せ、あの鮮血に塗れた絶望という名のエンディングを。
トラックに轢かれかけたあの時。
ぼくが未来を変えたように、今度も未来を変えなきゃいけない。
恐らく、背後に立つその人間こそ、数々の通り魔事件を引き起こした犯人だ。身長がぼくよりも少し小さく、レインコートによって身体のラインが見えづらいがきっと女だ。
そいつの片手には、次第に降り注ぐ雨に濡れて不気味に光る得物があった。それは、人を易々と刻めるほどの、鋭利な刃物だ。
未来を変えるにはどうしたらいい。
アイツを取り押さえるか、警察に突き出す?
携帯で証拠を取るのが先か?
いやいや、今はそれどころじゃない。
人の命がかかっているんだ。
決定的に、結愛が刺される未来を何としてでも変える為には、出来るだけ予知夢と違う結果を導きださなければならない。
例えば何か。それは自分の中で既に答えが出ていた。
だがあと一歩、踏み出すのが怖いんだ。
結愛が怪訝にぼくの服の裾を掴む。
背後の犯人には、気が付いていない。
奴は動いた。
もう時間がない。
何でもいい、未来を変えろ。
「結愛、危ない!」
初めて会った時と、何一つ変わらなかった。
結愛を突き飛ばして、助けてやった。
これで、結愛の命を救うのも二度目だ。
腹部に鋭い衝撃が走った。
じわり、と白いシャツが赤色に染まっていく。
嗚呼くそ、痛すぎる。
死にたくなるね。
その犯人は、動揺して、ナイフを引き抜こうとする。
でもぼくはその手首ごと、掴む。
「逃がさないよ」
こうすれば、相手は結愛を攻撃できない。
結愛が死ぬ未来だけは回避出来る。
あとは、結愛が警察にかけこんで、情報を伝えてくれさえすればきっと何とかしてくれるだろうさ。
やべ、力が入らないや。
はは、痛ぇ……。
「くっ」
手首を振り払って、犯人が逃げた。
やった、ぞ。ぼくは結愛を守ったんだ。
「ねぇ、ちょっと。悠斗、嫌ぁぁ……!」
「守るって、約束。ちゃんと果たせたよ」
凄いな……最高に今のぼく格好いいんじゃないか。
完全にヒーローしてるよ。
アニメの最終回ならぼくは死ぬかもね。
「お願い、死なないで……お願いっ」
涙をポロポロと流す結愛。
頭を膝に置き、さらにはぼくの手を柔らかくてすべすべな手で握りこんでくれるんだから。
さて、そろそろネタばらしをしてもいい頃だろうか。
結愛が、その……可哀想になってきた。
「あ~、演技疲れた……」
ぼくは制服の裏に隠してあったタオルを解いた。
「えっ」
「えって何?」
「ちょ、この血は……?」
「血糊だけど?」
結愛から完全に魂が抜けている。今から体重計に乗って減量分の質量を測っておいてくれ!
「なんで……?」
「そりゃあ襲撃されるって分かってたら、それなりに対策するのが普通じゃん。最悪ぼくが身代わりになるくらいのシナリオは想定していたよ。まあ、結愛が伊崎先輩の家についてくるって言った時には肝を冷やしたけどね」
元々結愛が襲われるって未来の事は本人に言うつもりなかったし。だから結愛には見えない部分で対策をさせてもらったって事だ。
「まあ、いくらタオルを巻いていたとは言え、あんな勢いよく刺されたんじゃ勢いを殺しきれなくて、少しはお腹が切られててさ。分かる、紙で親指を切った時みたいな。ヒリヒリして痛いんだよ」
「ば、ばっ……」
ば?
「馬鹿じゃないのっ!!!?」
ぼくに強く抱き着いてくる。
ぐぇ、苦しい苦しいギブです結愛さん。
あっ、香水のいい香り~!
「本当に死んじゃったかと思って心配した」
「そりゃ本作の主人公がホイホイ死んだらここで打ち止めエンドですよ」
「何それ、平凡なモブじゃなかったの?」
ああ、そうだったかも。
英雄ムーブし過ぎて浮かれてたや。
「無茶しないでって言ったのにっ」
「結愛をみすみす刺されるよりはマシだと思うなぁ」
それに無茶したのは結愛の方だろう。
狙われるんだから、早く帰れば良かったんだ。
ぼくは悪くないね。
「まあ、念の為病院には行くよ」
「私もついて行く」
「え、早く帰った方が……」
「警察にも連絡しなきゃいけないし。それに襲われたばっかりなのに、家に直行すると思うの?」
天下の結愛様がまたしても発動か。
「はいはい、分かりましたよ~」
そうそう。結愛を助けた本当の理由。
そういえば、言い忘れていたよ。
安藤くんから助けられたという"貸し"。人生を変えてくれた、ぼくの掛け替えのない恩人に、返そうと思って。
本人に言っても無駄だろうから。
これで、チャラって事でいいよね。結愛さん。
こうしてぼくの、計画的ラブコメは成功(?)に終わった。
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