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第3章 通り魔事件。
第20話 病院訪問。
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ぼくは走って病院へと向かった。
身近な人を傷付けられる苦しみを知った。
怖かった、本当に死んでしまうのではないかと恐れた。
麗奈、凄い。刺されても無事だったなんて
すぐに向かうから。待っていてくれ。
「日向麗奈さんのお見舞いに来たのですが」
受付を通して、ぼくは麗奈が待つ病室へと向かった。
消毒された薬品の匂いを感じる。
麗奈がいるのは、ここか。
ガラッ。扉を開けた。
「ゆーくん。ごめんね」
「なんで麗奈が謝るのさ」
麗奈はベッドに横になりながらもちゃんと生きていた。以前程の元気はつらつといった調子ではまだなかったが、きっと何日も経てばその元気も戻ってくるだろう。
「女の子があんまり夜遅くまで遊ぶもんじゃないね~あはは」
「本当だよ。打ち上げをするにしても、せめて十時までには家に帰らないと。何してたんだよ、全く」
「反省だね。もう怖くて外を歩けそうにないよ」
その挙動の一つ一つを見るのが辛かった。なんというか、羽根をもがれた蝶のような、自由のない感じがして、胸が苦しかったのだ。
「お母さん達は」
「ゆーくんが来るから席を外してもらってる」
そんな二人で密談をする訳でもないのに。
いや、今からするか。
「麗奈。辛い事を思い出させるようで申し訳ないけど、覚えている限りでいい。誰に刺されたか見ていないかな。せめて体格だけでも」
ここに来たのは、お見舞いともう一つ理由がある。被害者が目を覚ましたら、早速事情聴取っていうのは捜査のお決まりみたいなものだろう。
「うーん。あの日って雨が降ってたからさ。傘を持ってて視界も悪かったし、実はあまり見てないんだ。黒いレインコートを纏っていたのは見たんだけど」
それから思い出したように、
「ちょうど、あの道の角を曲がった時に後ろから近づかれて。ごめん、やっぱり怖くって。そこからは地面に横たわって……身体が冷たくなって」
麗奈が自分の身体を抱き締めた。少し身体が震えている。麗奈をこうした相手がますます憎くなった。どす黒い感情が湯のように湧き出るのが分かった。でも麗奈にそれを悟らせてはいけない。まさか自分を刺した相手を探し出そうと考えているなんて知られたら、全力で止められるだろうから。
黒いレインコート。雨。背後からいきなり。角を曲がった瞬間。
うん、間違いない。
これは衝動的に引き起こした事件じゃない。
何らかの意図があって麗奈を刺したんだ。
「ゆーくんは元気そうでよかった」
「まあね。でも学校は休校になったよ」
「その辺にまだ犯人がいるって事?」
「そうみたいだ」
ダメだ。麗奈は怯えてしまっている。
そりゃそうだ、殺されかけたんだから。
誰もが全員、殺人犯に見えて仕方ないだろう。
「そういえば、なんだけど」
ふと思い出した事があった。
「麗奈が付き合っていた相手って伊崎先輩?」
「う、うん。そうだけど。どこから聞いたの?」
「あーいや、まあ。それならそれでいいんだ」
「元カレの事、気になる?」
確かに、捉え方によったらそう聞こえるかも。
いやでも流石に、刺されたばかりの相手にその元カレの話を聞くってのは、どれだけ頭がトチ狂っていたとしてもやらないんじゃないか。いや、ぼくならやりかねない、そういう事なのか麗奈。
「違……わないんだけど。良かったら教えて欲しい」
「んー、サッカー部のエースで実力は確かなんだけど。昔から黒い噂が立たなくて。麗奈はモテない男子とか相手にされない女子が嫉妬して言ってたって思ってたんだけど」
「それって……どんな噂?」
「二股とかを平気でするクズ野郎だとかそんなの。今思えば麗奈が付き合ってた時に相手にされなかったのは、他に付き合ってた人がいたからのかな」
なるほど。そんな状態で結愛にも声をかけたのか。
とにかく可愛い女の子を見たら、声をかけずにいられない。ルックスや、ステータスが常に彼の味方をするから、相手の方も断れなかったのだろう。
しかし、聞けば聞く程クズじゃないか。
ビュッフェ感覚で女の子を扱うなんて。
全くけしからん。うん。
かくいうぼくも、ネチネチ嫉妬する一味だった訳だ。
トゥルルル。
「電話だ。誰からだろ」
こんな会話するのは、今日で二回目だ。何度も言うが、親からの連絡以外は……って虚しくなるからあまり口にしたくないんだけどな。
「あれ、結愛……?」
結愛から電話。メールで済ませられない用って事か。
もしかしたら、何か調査に進展があったのかも。
「あ、院内って携帯禁止だったっけ」
「ホールに出てくれたら大丈夫だと思う。それより、今の相手のユアって子。もしかして……」
「あ、ああ~っと。それじゃあぼくはもう行くよ。お大事に」
緊急の連絡なら早く取った方がいいしな。
来て早々麗奈には悪いが、それなりに収穫もあった。
一度結愛と連絡を取って情報を共有しよう。
「あ。行っちゃった」
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