イレブン

九十九光

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エピローグ4

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「どうしてあんな真似させたんだ! それも自分たちまで一緒になってやるなんて! どうしてくれるんだ!」

 ゆっくりと近づいてくる西川先生を見て、私は大慌てで職員室を飛び出し、急いで車に乗って自宅へと逃げ出した。捕まっていたら確実に何時間も拘束されていたことだろう。

 その五分後、自宅アパートにたどり着いて携帯電話の画面をつけてみると、一本の電話が不在着信になっていた。0562から始まる家庭の固定電話の番号で、知多市内からかかってきたものだった。誰からのものかまでは、すぐには思い出せなかった。

 私がそこに折り返しで電話を入れると、聞き覚えのある男性の声が聞こえてきた。

「はい、もしもし、内田ですー。」

「あ、平治君のおじいさんですか。樋口です」

 私は電話の向こうの穣一さんに見えるわけもないのに、その場で軽く会釈した。

 穣一さんはいつもの調子で、こんな言葉を続けてきた。

「今日は本当にありがとうございましたー。私たちもいいもの見れましたし、平治も喜んでましたよー」

「あ……! そうですか、ありがとうございますー」

「ええ。口元を軽くですけど、笑ってる平治を初めて見ましたよー。それじゃあ、これで」

 要件はそれだけだった。たったそれだけのことで時間使わせるな、なんて無粋な感想は、私の中には生まれてこなかった。

 こうしてこの年の東中学校の学校祭は、二日のところを一日しかやらず、そのくせ例年より濃密という、今後一生起こりえない結果を残して終わりを告げた。

 

 私たちは学校の重役たちどころか文科省のカリキュラムも完全に無視し、保護者や同僚どころか出演予定だった劇団にまで嘘をつき、けが人や物品の破損こそなかったとはいえ、学校始まって以来最大規模のパニックを引き起こしたのである。教師をクビどころか、劇団から損害賠償請求されてもおかしくない話である。

 だが実際は、生徒、教員を含めて、誰にも罰則は課せられなかった。

 まず、今回の一件で一番振り回された人形劇団のけやきのきは、「被災者差別から端を発した問題に身を挺して解決の道を図った皆さんの心に感動しました!」と、座長を名乗る男性が代表して東中に来たのである。この劇団、震災前は福島県を拠点に活動していたらしく、表立って公表されない被災者差別に憤りを感じていたという。それが今回、内田平治と彼を
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