和製切り裂きジャック

九十九光

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#19ー3

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れることができるわけがなかった。自分たちが当然のようにできることの大部分ができない楓は、入学から半年ほどで同級生たちのいじめの標的にされるようになった。持ち物を隠されたり落書きされるという典型的なことから、給食のパンやご飯を大量に口に押し込まれたり、トイレの個室で上から水をかけられたりと、一歩間違えば命に関わる危険なものもあった。ほぼ一緒に行動していたサラリーマンは、下手に子供に手を出したり口をはさんだりすることを教師陣から止められており、その存在は牽制にならなかった。
 学校は黙って見ていなかった。ホームルームの時間などで子供たちに何度も注意をし、いじめへの対策マニュアルが不充分だった時期としては最高レベルの対策を講じた。
 だが問題は、解決どころか悪化の道をたどっていった。
 ノートパソコンを持った、教師でもない太った男と四六時中一緒に行動する女の子が、ほかのクラスや学年に知れ渡らないわけがなかった。それも、何も知らずに後ろから肩を触って挨拶するだけで教師から監視の目をつけられることになる厄介者。楓が学校中から煙たがれ、多くの生徒から距離を置かれるようになるのに時間はかからなかった。障害者に関する専門知識のない教師たちも、腫物を触るような扱いをするしかなく、楓とほかの生徒の間に大きすぎる差異を作り出すことにつながった。
 これらの状況を黙って見ていなかったのは、同じ学校に通う兄の隆だけだった。彼は昼休みなどの長い休み時間になると、楓のいる教室の近くに行き、彼女に何かあれば飛び出して妹を守るようになっていた。この年の子供なら、もっと同級生の友達と遊びたいと思うのが普通だが、隆はそれを押し殺して妹を守る道を選んでいた。それが彼なりの、兄として果たすべき責任だった。
 そんな中、事件は楓が二年生だった時の一学期半ばの昼休みに起こった。
 その日も隆は、いつものように楓のいる教室にやって来た。ずいぶん前から、ほかの学年の問題にいちいち首を突っ込むなと、生徒指導の先生から言われていたが、彼はそれを無視していた。別にいじめを理由に暴力を振るう気などさらさらなかったからだった。隆は教室の前側の引き戸にはめ込まれたガラスから中の様子を確認した。
 彼はすぐに室内の異常さに気づいた。教室内の子供たちの大半がロッカーのある後ろの窓際の角に集まって何かをしていたのだ。角にいない生徒たちの中に楓はおらず、角の塊のすぐそばでは、パソコンを持った例のサラリーマンが動揺した様子を見せている。
 いてもたってもいられなくなった隆は後ろのドアから教室に入ると、自分より背の低い下級生たちの塊の中を覗き込む。
「おら、なんとか言ったらどうだよ、藤木」
「『私がこの花瓶割りました』って言いなさいよ」
「人間なんだからしゃべれるだろ?」
「そうだよ。早く言えよ、藤木」
 二年生たちがよってたかって心ない言葉を吐いていたのは、教室の本当の隅でうずくま
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