和製切り裂きジャック

九十九光

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#12ー1

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#12(一人称)


 楓さんの事件から五日が経過した。
 楓さんの葬儀は行われず、火葬場で遺体を焼いて納骨するだけの直葬で済まされたという。あの兄妹にお葬式を上げるような貯金がなかったのが理由だろう。だとしても、両親や親戚がやってきてお金を出したっていい気もする。よくわからない家族構成だ。
 大抵のシリアルキラーは、逮捕されて事件がドラマや映画になることで有名になるのが普通だ。だが、和製切り裂きジャックはそういった過程を踏むことなく、今回の事件を機に世界的なシリアルキラーの仲間入りを果たしていた。
 理由はその異常性だった。老若男女の区別なく残酷に人を殺し、現場には一切の痕跡を残さない。そして必死になって自分を追いかける警察を、どこか安全圏から観察して楽しんでいるような声明文を世間に公開する。さらにそこに油を注ぐように、今度は警察官の妹を殺したのだ。こんな殺しをする人間は世界の歴史を見てもそうはいない。和製切り裂きジャックは日本中のメディアの目を名古屋に集めると同時に、世界各国のテレビ局のクルーに出張命令が下される原因になっていた。
 この日私は、パパの運転で藤が丘に向かっていた。道中二軒のお菓子屋さんに立ち寄り、申し訳程度のお土産として、かえる饅頭と水ようかんを買っていた。
「……。こんなに要らないかな?」
「家族の分も入れればちょうどいいでしょ」
 運転しながら買ってきたお菓子に不安を感じるパパに、私は助手席でスマホをいじりながら言う。私は楓さんに関するネットニュースを見ていた。
 楓さんの死因は、今まで同様窒息死。侵入防止のネットをしていたおかげか、ベランダからは出入りした形跡は見つからなかったという。宅配便のふりでもして楓さんに玄関のドアを開けさせ、正面から紐を使って絞め殺したと予想できる。死亡推定時刻は当日午後六時半から七時半。必ず定時に帰るという橋本さんなら、いつも通りの時間に家に帰っていれば、犯行の真っ最中に鉢合わせる可能性もあったことになる。
 昨日の夜、山下警部から事前にこの情報を知らされていたパパは、「俺が橋本を怒らせるようなこと言わなきゃ、妹さんは死ななかったのかな」と、弱々しい声で缶ビール片手にママに言っていた。それに対してママは、「どう答えてもあなた後悔するでしょ」と、一緒になって缶チューハイを飲みながら言った。私はそれを廊下で立ち聞きしていた。
 今回パパについていくことになったのは、パパと橋本さんの仲介役が目的だった。ママからは、「どうせパパには若い人に受けるお菓子なんて選べないからついて行ってあげて」と言われている。でもおそらくそれは建前で、「お前のせいで楓は……!」と、橋本さんがパパに襲い掛かる可能性を想像したのだろう。私もそうはなってほしくなかった。別にマ
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